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第二話

 秋良が葵子を初めて目にしたのは、入学後、暫くして開かれた全体集会の後。


 秋良と由斗は同じクラスで、お互い中学の時からサッカーをしていたことがわかり、

すぐに友達になった。


 全体集会が終わり、体育館から教室へと帰るために二人は他愛も無いことを

話しながら並んで歩いてた。


「サッカー部しんどいんかな、こないだの説明の時、そんな感じやったしな。

 きついと思うん で、自信の無い人は入らない方が良いと思いますって言うてたし」


 秋良は、入学式の後に開かれた部活動紹介の印象を由斗に話した。


「せやな、高校に入ったらラグビーしたかったのに、無いんやもんな。

 やっぱサッカー部しか ないかな、きつそうやったけど」


 さほどきつそうとも思っていないように、高校一年生にしてはがっしりした

体型の由斗が答えた。


 教室へと続く渡り廊下を渡り、階段を上りながら前を歩く秋良が続ける。


「今日の体験入部行くやろ由斗も」


 由斗は、階段を一段飛ばしに上がりながら頷いた。


 好きなサッカー選手の名前や、いかにそのプレーヤーが素晴らしいかを話しながら、

二人が教室近くの踊り場に上がったとき、肩より少し伸びた髪を白いリボンで

後ろに束ねたあどけない顔の女の子があわてて階段を下りてきた。


「遥、待ってよ」


「葵子、どこ行ってたん?」


 遥と呼ばれた女の子が答える。


「いま、同じ中学校の子と会って、何部に入るか聞いててん。ごめん」


 葵子と呼ばれた女の子は、申し訳なさそうに謝りながら、友人に追いつき、

そのまま下の階に下りていった。


 秋良は、すれ違いざまに見た葵子という女の子のことを、手すりに寄りかかりながら

その姿が見えなくなるまで目で追っていた。


「おい、何いきなり止まってんねん。邪魔やんけ」


 後ろを歩いていた由斗があきらにぶつかりながら言った。


「いまの子知ってる?同じ学年なんかな?」


 秋良は後ろを振り返り、自分が立ち止まったことで、背中に顔をぶつけ、

不服そうにしている由斗に尋ねた。


「誰のこと?」


 秋良の肩に手をかけ、軽く後ろに追いやった勢いで追い抜いた由斗が答えた。


「白いリボンしとって、肩ぐらいまでのわりと黒い髪の子、見てない?」


 さっきから女の子が去っていった方を見続けている秋良が自分の手を肩にやり、

髪の長さを示しながら、由斗に聞いた。


「見てへんわ、そんな子。それよりやな、こないだのヨーロッパ選手権の

 オランダ代表やけど」


 秋良は、女子生徒がセーラー服の胸に着ける、学年とクラスを示すバッジを

見ておけば良かったと思いながら、好きなサッカープレイヤーの話を熱心に続けている

由斗に急かされるように、自分たちの教室へ向かった。


 夢中で話を続けている由斗は教室の前まで来たとき、後ろを歩いている新しい友人が

自分の話をあまり聞いていないことにやっと気づき、不満気に言った。


「聞いてんのか、お前?」


「聞いてるよ、ライカールトのことやろ」


 会話をしていても途中で考え事をしていることの多い秋良は、話の断片を

手繰り寄せて何とか答えた。


 由斗は、えー、とあきれたように秋良を見つめ、


「違うわ、クリンスマンの話やん、寝ぼけてんちゃう」


「はぁ、クリンスマンはドイツ代表やろ、オランダ代表の話してたんとちゃうの?

 そっちが寝 ぼけてんちゃう」


「そうやったっけ」


 記憶を呼び戻そうと考え込んでいる由斗を残し、秋良は窓際にある自分の席に座った。


 彼らの通う高校は市街地の中心にあるため、体育の授業や運動部などで使用する

ボールが外に出ないように、グラウンドの敷地境界にはネットが高く張られ、

その向こう側には高速道路が走っている。


 教室の窓からは高度成長期に建てられたであろう高いビルも幾つか見られるが、

古くは商業都市として全国に名を知らしめていた歴史を物語る古いお寺や昔からの

街並みも街の片隅に残っていた。


 秋良はグラウンドの方に目をやり、体育の授業でハードルを飛んでいる上級生を見ながら、

葵子と呼ばれた女の子の後ろ姿を思い出していた。


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