第6話 逃げられぬ恐怖 後編
申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。
そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。
誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。
マリちゃんと私は、学校にようやくたどり着いた。
長い長ぁ~い、登校だった。こんなに長く感じたのは初めてかな?
あ、いや、マラソン大会の日はいつもこれぐらい長く感じる。行きたくないからだろうね。
すっかり遅くなってしまっている。時間は9時10分を過ぎようとしていた。朝の会が8時半から、1時間目が8時45分からなので、すでに30分くらい授業は終わっている。
今さら1時間目に出てもなんにもわからないだろうね、と、マリちゃんに冗談めかして言うと、
「次田先生が特別に宿題作ってくれるって」
と、マリちゃんは静かに言った。
え……はぁ、なんともまぁご丁寧なことで……。
「でも、授業が始まってるなら丁度いい」
と、マリちゃんは下駄箱に向かわず、進路を変えた。
どこいくの?と、私は小声で呼びかける。マリちゃんは足を止めることなく、下駄箱からどんどん離れて行った。
マリちゃんがようやく立ち止まったのは、職員棟の玄関だった。
当然、そこから正面に見える階段を昇ると、2Fの職員室に辿り着く。
「――おぉ、来たか」
次田先生が職員室で出迎えてくれた。と言っても、両手を広げて、駆け寄ってくるようなアメリカンな感じじゃないよ。机に座って作業の片手間にちらりとこちらに気付いた感じ。
さすがというか、マリちゃんが連絡入れてたからなのか、次田先生は全然怒らない。
でもなんで今ここに……って、そうか。今日は木曜日だから、1・2時間目は隣のクラスと合同で図工の日だった。
担当の先生は隣のA組の持田先生だから次田先生はいつもどこにいるんだと思ってたけど、職員室にいたんだね。その代り音楽の時は次田先生が2クラス分受け持つんだけど。ってゆうか、今そんなことどうでもいいか。ちなみに私たちはB組だよ。……誰に言ってんだろ、私。
「朝から大変だったな」
珍しく先生がそんな優し気な言葉を言ってくれたので、私はまた少し泣きそうになった。
だけど、やっぱりマリちゃんはそんな気遣いは無用とばかりに、
「それより先生、さっきのことなんですけど・・・」
と、何かを尋ねた。
さっきのことってなんだろ?そう言えば、あの時、公園で三木松刑事さんに学校に連絡を入れてるっていってたけど、その時に何かお話してたのかな?
「あぁ、3人だけだったぞ」
3人?
「お前から連絡があった後、職員室にきた先生は」
「そうですか・・・」
マリちゃんはすごく、寂しそうな声をしていた。聞いてる私の胸が、きゅっと握りしめられたような感覚になった。
「どの先生でしたか?」
「ん?あぁ、最初は松永先生だ」
松永先生は確か3年生の担任だ。去年私たちの学年の担任をしていた。ちなみに、私たちの学校は、毎年担任の先生も変わるし、先生たちも色んな学年を担当している。
男らしい体格の先生で、参観日や入学式などの学校行事の日以外はスーツを着ずにジャージでいつもいる。まだ年も若くて、新婚ほやほやなのに、ませた女子がバレンタインのチョコを渡したこともあるという噂を聞いたことがある。
「次が、加山先生だな」
加山先生は、6年生の担任だ。女の先生で、ちょっとお局が入った、女子には不人気の先生。だってちょっと派手なヘアピンとか付けてただけで、すごい怒ってくるんだもん。ぽっちゃりしてて、背は大人としては低めかな?あの、倒れてたお姉さんより少し低いくらい?
あれでも結婚できるんだから安心だと女子の間ではネタにされている。女の子って怖いね。
でもって加山先生は朝も夕方も門の所に立っていて、登校してくる生徒を厳しくチェックしているのだ。
マリちゃんが連絡した時って大体8時過ぎくらいになるよね?そんな時間にまで来てないって珍しいな。
「で、最後が徳永先生だ」
徳永先生は私たちの学年のD組の担任の先生だ。ちょっと暗くて、ぼそぼそと喋るところが、加山先生とは違った意味で怖いとよく言われている。これまた女子の中では「加山より全然ムリ!」なんて、生理的に受け付けない子も少なくない。体型もあまり健康的とは言えないかな、ガリガリだし。
それでも結婚しているのだ。「奥さん頭大丈夫?」とか「嘘なんじゃね?」とまで言われる始末。確かに暗いけど、そこまで言うかな、と私は聞いてて心がむずがゆくなった記憶がある。
「――で、徳永先生が来た時に8時20分になって、職員会議が始まった。三人とも、会議が始まって、終わるまで、つまり自分のクラスの朝礼に向かうまではここから出て行ってないぞ。ま、当たり前だが」
次田先生は話しながら自分の仕事に戻っていた。
「でも、なんでそんなこと確認しとけと――うわっ!」
次田先生が小さな悲鳴を上げたのは、マリちゃんが先生のぴったり傍まで寄っていたからだ。
「先生、授業が終わるまでもう時間がありません。一つお願いがあります」
私たちは、1Fに戻り、職員棟玄関脇の靴箱までやってきていた。この靴箱は先生たちのものだ。
先生たちの下駄箱って誰がお掃除しているんだろう。
ってマリちゃん?何してるの?
「ちょっとね・・・」
マリちゃんは下駄箱を開けて靴を取り出した。
大きな紺のスニーカーだ。とてもきれいで、新品のようだ。
マリちゃんはまじまじと見つめてから、靴箱に戻しフタをする。
靴箱の蓋には名前を書いたシールが貼られているが、今マリちゃんが開けていた蓋には『松永』と書かれていた。
そしてマリちゃんはハンカチをしまいながら、次の靴箱を開ける。
『加山』と書かれた靴箱の中には、真っ赤なハイヒールが入っていた。随分派手だなぁ。すごいピカピカ。こんなの履いてたかな?
でも自分はこんな派手な靴履いてるのに、私たちがちょっと色が付いたピン使うだけで、怒るのってずるいよね?
マリちゃんはヒールをそっとしまうと、最後に『徳永』と書かれた靴箱に手を伸ばす。
が、ちょっと届かないのか、つま先で一生懸命立って、ぷるぷる体を震わせながら左手だけをうんと伸ばしている。
私は、なんだかほんわかした気持ちになったが、いけない、ここぞとばかりにマリちゃんの役に立とうと、代わりに靴箱を開けて靴を取り出した。そんなに身長に差があると思ってなかったけど、マリちゃんは私より5センチ低いことが判明。
「ありがと」
えへへ。
マリちゃんはそう言うと、私が持った黒のスニーカーをじっくり眺め、やがて手に取った。これまた新品なのかピカピカである。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
そう言われたので、私は靴を預かり、押し込んで、蓋を叩くように閉めた。
「はぁ・・・」
マリちゃんは大きなため息を吐いた。
どうしたんだろう。と、私が質問するよりも先に、マリちゃんは階段へと向かった。
「こうなることが一番最悪だと考えていたけどね」
マリちゃんはぽつりとつぶやく。
こうなること?と質問したかったが、またしてもチャンスを逃す。
階段を上がったところで、次田先生が、職員室から出てきて立っていたのだ。
どうしたんだろ?
先生の、白い軍手をはめた右手には、コンビニの袋がぶら下がっていたが、随分とパンパンである。
「おい、あったぞ。お前の言ってた物が、鞄の中にな」
私たちは急ぎ面談室に入り、手袋をした次田先生が取り出して欲しいというマリちゃんの指示のもと、次田先生はテーブルの上に中身を取り出した。
「財布と、スマホと・・・キーケースか?・・・ん?どうしたお前たち?」
次田先生はぽかんとしていた。中身もそうだったのかもしれない。なぜこのような物をコンビニの袋に詰め込み硬く縛っていたのか、と。
ただ、それ以上にぽかんとしたのは、私たちの顔を見たせいだろう。
私はあんぐりと口を開いていたと思う。だって先生が取り出したそれらは、先程公園で話題になったものばかりだから。
――犯人が盗んでいった物の中でマリちゃんが言うには、キーケースは関係なかったかもしれないんだって。
特に車のキーは要らないらしい。ぺらっとした、お馴染みの駐車券が現場に残っている以上、車の鍵なんて持っていても運び出せないし、ひょいひょい取りにくればそれこそ警察の網に引っかかる、って。
駐車券なら私もよく見るからね。イオンとか、街の方に買い物に行くと駐車場に入る時に取るやつ。
『レジのお姉さんに渡す係は私だ!』『機械に通すのは私だ!』と駄々をこねていた、数年前の若かりし、恥ずかしい記憶をふと思い出し、一人こっそり顔を赤くした――。
「ただ……、他に盗まれた物との関連性を考えると……うぅん……」と、その時のマリちゃんはその後も続けようとしていた。一体なんだったのか、まだ聞けていない。
マリちゃんは、両手で顔を覆っていた。泣いてるのかな?と思ったけど、どうやら違った。また、大きなため息をして、彼女はすっくと立ち上がる。
「そろそろ授業が終わります。次田先生、このままこの部屋に先生を呼びましょう。時間がありません」
授業が終わるまでは確かにもう、数分だろうけど、どうしたんだろ?
今回は色んなことがいっぱい不思議だ。
どうしてスマホたちがここにあったんだろう?
時間が無いとはどういうことなんだろ?
というか、もしかして、マリちゃんはもう真犯人が分かっているのかな?
隔週日曜日更新していきたいと思います!
回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。