第3話 テストに潜む真心
申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。
そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。
お家に帰ると、パパとママが今日はもう帰ってきてた。
一通り捜査が終わっていた。
警察官さんが教えてくれたのだけど、門に付けてある表札の傍にとっても小さい数字が書いてあったの。
9-15と書かれていて、最初は何のことかはわからなかった。住所とも違うし。
でもそれは、平日、この家に誰も居ないことを示す時間だってことらしい。確かにパパもママも私より先にお仕事に行くから、私が鍵をかけて、学校から帰るまで、この家には誰も居ない。
8時頃にはお家を出て、帰ってくるのは15時半くらいだもんね。6時間目がある日はもう少し遅いけど。
それと、塀の高さも高めだから、外から中の様子が見えにくいことが、泥棒さんには好都合らしい。これは意外だったというか、自分の家のことだからかな?外から見て塀が高いなんて気にしたことなかった。でも言われてみれば、玄関から門の外に誰がいるかも意外と分かんないから高いのかな?私の身長は、背の順で言うと真ん中ぐらいだから、私が低いだけかと思った。
ガレージも、お父さんが出てからシャッターを閉めないクセがあるから、車のあるなしが丸見えになっているのも、泥棒を誘っているようなものだとか。
それに、家族の話から、すでに一度下調べ的に泥棒されていた可能性もあったんだって。
「・・・と、このお嬢さんが教えてくれたんです」
学校に帰ってきたマリちゃんと警察官さんと、そしてその後ろにいたスーツの刑事さんが、そう言った。
私は、教室では騒ぎになると、マリちゃん、次田先生、警察官さんと、この刑事さんの5人で面談室に来ていた。普段生徒が入ったら怒られる部屋なので、少しドキドキした。
三木松さんという、若そうなのに、ちくちくとしてそうな無精ひげを少し生やしたせいで、老けた印象がある刑事さんがマリちゃんの頭を撫でる。マリちゃんは照れもせず、無表情で撫でられていた。・・・あ、ちょっと嫌そう。刑事さんを睨んで見上げている。でも、そういう意味ではマリちゃんも見知った顔というか、知り合いなのかな?
刑事さんは気付いてなかったが手を離し、頭を掻く。
「我々の面目も丸つぶれです」と苦笑を浮かべていた。
次田先生は、眼を丸くして一連の話を聞いていた。話の途中も「はぁ・・・」という、間抜けな相槌ばかり打っていたが、「そうですか」と興味がないのか、納得したような返事をしていた。
「・・・にしても、よく小学生の言葉を信じましたね?」
と次田先生は、淡々と尋ねた。私は少しムッとしたけど、確かに言われてみれば。
「は、こちらのお嬢さんには以前お世話になった事がありましてね」
以前というと、あの自販機の事件のことかな?と思ったけど、私はこの刑事さんのこと知らないから違うんだと思う。
そして刑事さんは次田先生に、2・3話があると言って、警察官さんと3人で面談室を出て行った。
私はマリちゃんにすぐに飛びついた!マリちゃんは私の、うぅん、私たち菱島家の恩人だって。
でもマリちゃんは、相変わらず、「気になった事を伝えただけだよ。泥棒が来たのも偶然だし」と得意げになることもなく、静かにそう言った。
相変わらずカッコいい・・・。私はもうすっかりマリちゃんのとりこになっていた。
翌々日の放課後のことだった。
帰りの会で先週の漢字テストが返された。100文字問題で1問1点の100点満点のやつだ。
私は漢字嫌いなんだよねぇ・・・。今回も76点・・・あーどうしよ、ママに怒られるよ・・・。
帰るのが憂鬱だな、マリちゃんと楽しく帰って少しでも気分転換しよう。と思ったのに、マリちゃんの姿がない。結構いつの間にか消えてる時があるんだよね・・・。私はさらに気分が暗くなったな、と考えていると、何やらクラスの真ん中あたりで騒がしい。
「やばくね?」
「ありえねぇだろ!」
「奇跡だよ、キセキ」
男女そろって誰かを囲んでいる。
私はみんなの後ろから円の中を覗いた。囲まれていたのは、真中さんと瑠璃垣さんだ。
二人はとっても仲の良い女の子。いつも一緒にいるし、席だって偶然にも隣同士なんだ。もちろん、離れてた時もあるけどね。
気も合うらしい、一度遠足で一緒におやつを食べてたらほぼ全部おなじおやつ買ってた。まるで双子だよねってみんなで笑ったんだ。お母さん同士が仲良くて幼稚園に入る前から仲良しさんなんだって。
二人の机の上にはさっきの漢字テストが広げられていた。すごい、98点だって!しかもこれまた二人ともと来たもんだ!(テンション上がって可笑しな語尾になっちゃった)
いいなぁ・・・私と20点も違う・・・。5点ずつでいいから頂戴よ・・・。
でも確かに、これにはみんなが騒ぐのも納得だ。
でも、今更じゃないかな?真中さんと瑠璃垣さんがすごく気が合う二人なのはみんな知ってることだし。
そんな私の疑問を見透かしたのか、誰かが、私に言う。
「菱島、これ見てみろよ」
もう見たけどね、と思いつつ、私の前に居たクラスメイトたちが道を開けてくれたので、行かざるを得なくなった。
そこで私が見たのは驚きの事実だった。
点が同じなのはもちろんだけど、間違った漢字まで同じなのだ。間違った字は「比べる」の送り仮名、「比る」となっており、「べ」が足りないのと、「絶交」を「絶好」と間違えてたみたいだ。確かに次田先生も授業の時「間違えやすいからな」と言ってたね。でもそれほど難しいかな・・・?
え?私はモチロン・・・間違ってたけど。違うの、真中さんも瑠璃垣さんも頭良いからそんなありがちな問題で間違えるのが不思議だっただけ。
と、誰にしてるか分からない言い訳を頭に浮かべながら、えぇ!?と私は声を出して驚いちゃった。
「ね、すごいでしょ?」
私の声がきっかけでみんなの興奮も再燃したみたいだった。
わっと盛り上がりを見せたのち、少し静かになった頃、男子の中でもわんぱくな羽沢くんが言った。
「まさか、カンニングじゃねぇだろうな?」
え・・・。嫌な空気が一瞬で流れる。
女子は顔を強張らせ、男子は茶化すムードに移行する。
「ホントだぜ、どっちかがカンニングしたんだろ!」
真中さんと瑠璃垣さんは戸惑い、声高に違うと叫ぶ。
「いやだって間違うところまで一緒っておかしいぜ」
「調子乗るなよ羽沢!」女子委員長の百乃さんが男子を睨みつけたのち、騒ぎの元凶である羽沢くんの胸ぐらを掴む。
「自分らが頭悪いからってテキトーほざいてんじゃねぇよ!」
百乃さんは男勝りだ。羽沢をそのまま持ち上げる。
「だ、だっておかしいだろ、お前は思わないのか?」
「そんな偶然もねぇとは言えないだろ。それを言うならてめぇだろ、テスト中キョロキョロしやがって。あげく消しゴム投げて遊んでただろ。もったいねぇし迷惑なんだよ」
確かに羽沢くんは消しゴムを投げていた。私の席は羽沢くんと百乃さんの横列より後ろだから途中で視界に入った。先生にも注意されてたな。「0点になっていいから続けるか、止めるか選べよ」って。次田先生は冷めた言い方するからそういう時結構怖い。
ちなみに、羽沢くんと百乃さんは席が隣で、真中さんと瑠璃垣さんのそれぞれ後ろだ。
「あれ本当は騒ぎになったり、振り返ったりした隙にカンニングしようと思ってたんじゃねぇのか」
確かに、一瞬クラスにざわつきが出て、テスト中なのにみんな羽沢くんのこと振り返ったりしてたなぁ。
「はぁ、違うし!消しカス固めたんですぅ」
「同じだろうが!」
「それに、それを言うならお前こそ怪しいもんだぜ」
「なに?」
「その俺と目が合ったってんなら、お前もキョロキョロしてたってことじゃねぇか」
「ふざけろや!」
百乃さんはそのまま窓の方に歩き出して、羽沢くんの体を半分ほど窓の向こうにはみ出させた。
ここは一階なので、死にはしないだろうけど、みんな慌てて止めに入り、二人を引き離す。
すると、瑠璃垣さんが急に大声で泣きだし、教室を飛び出した。
「るりちゃん!」と真中さんが、まるで自分の半身を追いかけるかのように続いて飛び出していく。
「あーあ、どうすんだよ泣かせたぞ」
と羽沢くんが百乃さんに言う。
「はぁ!?あたしのせいかよ」
「お前がいちいちキレたからだろ」
「上等だコルァ!」
羽沢くんは身の危険を感じて教室から逃げ出し、それを百乃さんが追っていった。残されたクラスメイトは、思い思いの生徒を追いかけにむかった。
教室には私一人が残されていることになった。
その一団と入れ替わりに、マリちゃんが入ってきた。
どうやら先日のことで、職員室に呼びされていたみたい。
「何かあったの?」
マリちゃんが珍しく自分から声をかけてきてくれた。どうやら、マリちゃんは何かあったことを察した上で声をかけてきている。
私はもちろん、隠すつもりはないし、こんな時、相談できるのはマリちゃんしかいないと思い、先程の一件をできるだけ間違えずに話してみた。
話し終えると、マリちゃんは「ふぅん」と頷き、やがて自分の席戻ると、
「じゃぁ、帰ってきたらテストを見せてもらえないかな?」
と言った。
マリちゃんは誰の答案の、どの部分を見たいのだろうか?
隔週日曜日更新していきたいと思います!
回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。