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最終話 小学生マリちゃんの最後は挨拶

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してみました。

 マリちゃんが姿を消していた間に探していたのは、ブレーカーだったらしい。

 私たちは火災現場を離れて、ミキティのお家へと帰っていた。

「勝手にお家の中に入ったことは悪いと思うけど」

 としょんぼりしているのか、いつも通りなのか、マリちゃんは淡々と続ける。

「なんでそんなもの調べたのよ?」

 ミキティの疑問ももっともだ。

「あの女の人が倒れていたから」

「煙を大量に吸ったからじゃないの?」

 会長が小首を傾げた。

「屋内で火事になってるならそれが一番最初に考えられるけど、今回は屋外が火元だし、いくら煙が出ていたとはいえ、煙に頭をつっこむわけじゃなし、それが原因とはちょっと考えにくいと思って」

「じゃあなんで倒れてたのよ?」

 マリちゃんは、もうわかってるんだよね?

「感電だと思うよ」

「感電!?」

「今回の火元はあの家の壁に備え付けられているコンセント」

 今は真っ黒に焦げて見えないけど家の側面を横から見ると微かに突起している物があるように見える。

「あそこで何かしら発熱して、さらにその近くに燃えやすい物でも積んでいたんじゃないかな? やたらと灰が飛んでるし」

 燃えやすい物?

「雑誌や新聞とか?」

 とミキティが言う。

「そうかもね。この時期なら灯油とかも不自然なく手に入るし、それを浸しておいたのかも」

「じゃあ昨日の雨でコンセント部分が濡れていたのかしら?」

 と会長が尋ねる。

「屋外に取り付ける防水コンセントは雨程度で漏電したりしないようになってるからそれはないよ。ここから先はあくまで想像だけど、プラグ側になにか……針金とかシャープペンシルの芯だとか細工がされていていたんだと思う。それでショートして火が出てしまったのかなって思って調べたの。ショートしてたらブレーカーが落ちてるはずだから」

「それで、実際に落ちてたのね」

「うぅん」マリちゃんがふるりと首を振る。「落ちてなかった」

「はぁ?」ミキティが首を傾げた。「じゃぁどういうことよ? それに、それだけなら火災の原因とは思うけどあの女性が倒れてる原因の感電と繋がるの?」

「うん、多分ね。感電は変わらない。でもその原因は恐らく消火器」

 消火器? 消火器ってあの火を消すやつだよね。

「消火器にも色々種類があるんだけど、その中で泡消火器は電気火災に対して使うと感電する可能性があるから使ったらダメなんだよね」

 そうなんだ。3学期始まったら学校の消火器見てみようっと。

「たぶんあの人はイルミネーションをつけようとスイッチを押したけど電気が点かないから不思議に思った。コンセントが抜けていたので差し込んだ。すると発火して近くにあった雑誌か何かに燃え移り、瞬く間に炎になった。そして慌てて消火器で消そうとして……感電したってところじゃないかな?」

 なるほど……。

 といつものように簡単に肯く私の隣で、ミキティが腕を組んで唸る。

「何よそれ……なんかできすぎな話じゃない?」

「……まぁ、あくまで想像だからね」

 なにか言葉を飲んだような、妙な間があった。

「だってそんな消火器が都合よくあるのが不思議だわ。そんなに準備に手間がかかるなんて、偶然にしてはできすぎだし」

「……あんまり考えたくはないけど、」

 マリちゃんは眉を顰めた。「きっと、外部の人ができることではないと思う」

「……どうしてよ?」

「ミキティの言う通り、消火器の準備が必要だから」


 後日、ミキティがママから教えてもらったらしいけど、小野さんの奥様はなんとか無事だったみたい。近所の人たちの迅速な対応が功を奏したとか。その時、救急隊員に事情を説明してくれた女の子にお礼が言いたくて探してるけど未だにどこの誰だかわかっていないらしい。

 また、その倒れた理由は、マリちゃんの言う通り感電だったって。でもそれ以上のことは分からなかった。

 うぅん、正しくはその更に数日後わかったの。

 テレビの報道で知ることになった。『住宅地で火災 犯人は家主!?』という見出しで……。


 私たちは事件を振り返りながら、ミキティのお家に帰った。

 なんにせよ、大きな火事にならなくて済んだのだからほっとした。

 でも、どことなくしんみりとした気持ちになっていたけど、会長が、

 「ね、気を取り直して、プレゼント交換しない?」

 と言ってくれたので、気持ちは一新!

 みんなプレゼントを取り出そうとしたけど。

「ねぇ待って!」

 とミキティがそれを遮り、「どうせならゲームでもして、1位から順番に選ばない?」

 とマジックとレターセットを取り出した。

「名前を書いて封をしてシャッフルして選ぶの。そうすればあとくされないでしょ?」

 へぇ~! いいね! ミキティもたまにはいいこと言うね。

「だからたまにってなによ! いつも言ってるじゃない! つまり私はいつも――」


 私がおじさんから勝ち得た権利で選んだ、ブランドの財布はミキティの物になった。

「こんな高価なものもらえないわよ……!」とか叫んでいたけど、事情を説明して、ミキティママにもきちんと お話して承諾を得た。

 私はなんとなく鼻が高いってやつ? 自慢げになれたよ。

「自分で使えばいいのに」とか言われたけど、お財布は既にあるし、毎年パパが買ってくれるから私はいらないんだよね。

 ――プレゼント交換も無事終了し、辺りはすっかり暗くなっていた。

 ミキティと会長は塾のクリスマス会があるみたいで二人で。私はマリちゃんと暗い夜道を歩いて帰っていた。

「それ、重そうだね」

 とマリちゃんが言ったのは私の両手に抱えられた大きな箱。

 チョコフォンデュをするための機械、チョコレートファウンテンだって。

 会長が持って来てくれたんだけど、これさすがに重いね。

「これが凄い使いやすくていいの! お家にあるなんてステキでしょ!?……って言ってたもんね」

 目を輝かせてね……。さすがに要らないとは言えなかったよ。もちろん、私もチョコ大好きだから嬉しいのは嬉しいけどね。持って帰るのは……ん?

 ……え、今、マリちゃん、会長のマネしたのかな? うぅん、似てるとか似てないとかじゃなくて衝撃でつい……。

 ところで、マリちゃんは何を貰ったの?

「私はミキティからマフラーもらったよ」

 とマリちゃんは紙袋の中からマフラーを取り出した。オレンジを基調とした暖かみのあるマフラーだ。

 マリちゃんの細い首に、ふわりと巻き付いた。

 いいね。とっても似合ってるよ。

「普段マフラーしないからちょっと苦しいけどね。でもミキティがくれたから」

 そうだ! 事件のせいでつい忘れてた。

 マリちゃん、ごめん、私のリュックの中から袋取ってくれる? 両手が塞がってて……。

「うん」マリちゃんはそっと私の背後に回ってリュックを開いた。「……これ?」

 と私に見せてくれた。他に袋はないからそれで間違いない。

 そうそれ。中身を出してみて。

「うん……」

 するすると衣擦れの音が心地良い。

「わぁ……」

 袋から、赤を基調とした布地に、白いフリルが縁に沿ってあしらわれたリボンが流れ出た。

「リボン……?」

 それ、マリちゃんへのプレゼントなんだぁ。へへへ。

「え?」

 いつも一緒にいてくれるお礼だよ。マリちゃん、運動会の時に赤いハチマキが似合ってたから、赤いリボンもきっと似合うだろうなって思って。クリスマスにあげようって決めてたの。

「でもそんな……私なに――」

 いいの! 私は別に気になったことをやっただけ。――マリちゃんもよく言うでしょ?

「あ、う……」

 マリちゃんが珍しく口ごもった。照れたのかな? シッシッシ♪ 私の勝ちだね!

 そしてマリちゃんは、ふっと口元を緩ませると……、

「ありがとう、サキちゃん」


 え……。

 ど、どうやら私の頭に電気が走ったようだ。

 マリちゃんが、私の名前を……呼んでくれた……!?

 なによりのサプライズだよ! マリちゃんが向けてくれた笑顔をもう思い出せないくらいに……。

 マリちゃんは、私にとって、なにより不思議で、なにより素敵な存在なんだね。



「大丈夫?」

 ふと我に返ると、マリちゃんが心配そうな顔で私を覗き込んでいた。

「ぼーっとしてたけど……」

 あぁ、うん! 大丈夫……。

 まさか、夢オチじゃないよね!?

「寒くなってきたし、早く帰ろう」

 うん、そうだね。でもこんな暗い中帰ってると危ないからホント早く帰らないとね! 変な人とか出てきたら……。

「……うん、まぁそれは大丈夫」

 どうしたの? なんだか苦い顔をしているような……。

 あれ? この顔、いつか見たような……。

「うん、あの……はぁ……」

 マリちゃんは大きなため息を吐き、振り返った。

 釣られて私も振り返る。

 ……あっ! 人影!?

 と思った時には人影が走ってきたぁ! 怖いっ!

 ……ってこの展開はまさか!?

「マリちゃ~ん!」

 あ、あのお姉さん! 確か……。

 藍さんだ!

「まぁ菱島さん! お久しぶりね!」

 そうですね、お久しぶりですね!……多分。

「やっぱりついてきてた……」

「あら、気付いてた?」

 え、マリちゃん知ってたの?

「大丈夫だっていつも言ってるのに、心配だからとか言って……」

 マリちゃんがぷっと頬を膨らませている。怒っているマリちゃんには申し訳ないけど、ちょっと可愛い。

「も~、すぐムキになるんだからぁ」

 と、その赤く膨らんだ頬をぷにぷにと突いている。いいなぁ。

 まぁでもそうだよね。年の離れた妹が夜遅くなると心配だろうね。最近は物騒だし。

「私車で来てるから、菱島さんも送っていくわよ」

 わ、ありがとうございます!

 ……でも、マリちゃんと帰る時間が減るのは少し惜しいね。

「あら?」

 と藍さんが何かに気付いたようだ。

「そのマフラーに、そのリボン! どうしたの?」

「マフラーはミキティが、リボンはサキちゃんがプレゼントしてくれたの」

 あぁ、よかった。さっきのは夢じゃなかった。

「えぇ!? ホントに!? それを早く言わないと!」

 藍さんはすかさず、私を抱きしめ……ぐ、苦しい……!

「ありがとう! もう感激よっ! そうとなったら何かお礼しないと! そうだわ! ちょうどケーキ焼いたから今から食べにいらっしゃいよ!」

 いえ、もう今日はケーキというか食べ物は……。

「遠慮しないで! じゃ、車持ってくるからここにいてね!」

 と藍お姉さんは相変わらずのパワフルさでどんどん話を進めていき、嵐のように去って行った。

「……ごめんね?」

 マリちゃんがしょんぼりしていた。

 あはは。大丈夫だって。圧倒はされてるけど、楽しいお姉さんだから私は好きだよ。

「そう言ってくれて助かる……。あとでちゃんと言っておくね」

 う、うん。

 ぷっぷー♪ とさっそく車が向こうからやってくる。気のせいか車まで弾んでるみたい。

「じゃぁ、いこっか?」

 うん。

 あ、マリちゃん。

「何?」

 忘れないうちに言っておかないとと思って。藍さんのペースに飲まれて忘れそうだから。

 

 来年もよろしくね!

「うん、こちらこそ。来年もまた、よろしくね」

今回を持ちまして最終話となります。

一年間ありがとうございました!

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