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第25話 優勝のない運動会 12:13~12:31

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

 私とマリちゃんが、黒王号を見つけてから、数分後経った時だった。

「……あれ?」

 マリちゃんの予想通り、私たちに声をかける人がやってきた。

「どうしたの? こんな所に……」


 数分前に私たちがやってきたのは、駐車場だった。

 ていうか、私が無理やりついてきたんだけどね。

 まぁそれは置いておいて。

 黒王号の正体がここにある?……っていうのは実は私も予想してたよ。

 ……ホントだからね!

 この駐車場は先生たちの車を停めるための駐車場で、学校の敷地の隣にあるの。敷地とは緑色の金網フェンスで区切られていて四方を囲まれている。そして同じ材質のフェンスで作られた扉で出入りできるようになっているの。でも、もちろん生徒は立入禁止だけどね。

 時々車が好きな男子がフェンスにへばりついてあの車がどうとか、あの先生の車がいいとか言ってはしゃいでる時があるよ。

 中には入れないの。さっきも言った通り生徒は立入禁止だし、そもそも扉にはダイヤル式の南京錠が付けられているから。

「黒王号が愛馬というところから、乗り物って想像するのは無理がないとは思うの」

 うんうん、それに色も黒色ってことも、想像できるよね。

 でも……この駐車場にある黒い車は10台くらいあるよ……?

 色んな形だし……どれか分かるの?

「うん」

 マリちゃんはじっと車を眺めている。

「ナンバーも書かれていたからね」

 ナンバーって……ナンバープレートのこと?

 ということは、4つの数字のことだよね。それが書かれていたの?

「『三一・二八』かな。わざとらしく漢字で書かれていたから」

 はち? 8なんてあったかな?

「よーく見るとあるよ。パソコンで書かれた文書だからフォントの関係で紛らわしいけどね」

 そうなんだ。また後で確認してみようかな……うぅーん、でもあの手紙はもう読みたくないよ。

 でも、マリちゃん、分かってるならバクダンを取りに行かなくていいの?

「うん、行かない」

 え? あ、そうか、鍵が掛かってるからどうせ入れないよね。

「いや、多分……」

 マリちゃんがダイヤル式の鍵に触れた。

 ポロッ――という音が聞こえた気がするほど、簡単に鍵が外れた。

「いや、やっぱり鍵が外れたね。あらかじめ鍵は外されていたんだと思う」

 どど、どうして?

「もちろん……まぁいいよ」

 とマリちゃんが急に言葉を隠した。

「それより、一つ打ち合わせしておこうよ」


 そして、私たちが打ち合わせを終えた時に、その人はやってきた。

「もうマーチングの始まる時間よ?」

 やってきたのは高木先生だった。

 先生は、今朝会った時と同じように優しい笑顔だった。

 そして、マリちゃんはあの時と同じような言葉を繰り返さない。

「別に理由はないです。菱島さんと車を見ていただけなので」

「く、車?」

 うん。車。かっこいーなぁって思って。

「な、何も今でなくていいんじゃない?」

「だから、特に理由はないですよ」

「ホントは何か理由があったんじゃないの?」

 別に何も。ね、マリちゃん。

「うん」

「そう」

 先生の声が、少し、ほんの少しだけ震えた。

「マーチングの後はすぐに午後の競技よ? お昼ご飯は食べたの?」

「食べまし――」

 とマリちゃんが言いかけた時だった。

 

 ぐぅ~……。


 お腹が鳴る音が!

 実はお昼ご飯は食べてないから、そこを指摘されると弱いけど……。

 でも……私のお腹が鳴ったと、私自身がそう思ってたけど、そうじゃないの。

「……」

 多分、私の左隣の……あぁ、いつも通り無表情だけど、少しだけ耳が赤く……!

 わ、私は食べてないけど、マリちゃんは食べたから! と叫んでマリちゃんを隠してみた。

「そ、そう……」

 ほっ……何とか信じてくれたみたい。「でもあなたが食べてないんでしょ?」

 え、あ、はい……。

「だったら、早く食べてこないと――」

「先生は」

 マリちゃんが遮った。「先生は、こんな所へ何をしにいらしたんですか?」

「は、話をはぐらかさないで!」

 先生は驚いたのか、図星をつかれたのか、声を裏返す。

「お昼休み中の私たちがどこにいてもそれほど問題ないと思います。むしろ、これからマーチングが始まるのに、顧問の先生が駐車場にいる方がよほど不思議ですけど?」

 先生の瞳が大きく見開いた。先生の左足が一歩後じさった。

「……」

 言葉を失った。

「先生こそ戻った方がよろしいのでは? 私たちはまだまだ時間があるので。もう少しここで車を眺めてから、教室からマーチングでも拝見しながらお昼ご飯を食べますから」

 あー、でもー、マーチングが始まるまであと2分もないね。

「え……」

 先生は咄嗟に腕時計を確認した。「うそ!? え……えぇ!?」

 先生が時計と、駐車場のとある車へと視線を行き来させる。

 あからさまに狼狽えていた先生に、マリちゃんが最後の一言を放った。

「先生、どうするんですか?」

 先生の泳いでいた視線が、マリちゃんへと向けられて、一瞬だけ固まった。

 マリちゃんのその一言に、全てお見通しです、という意味が込められていたことは言うまでもなかった。 そして、なにかが吹っ切れたのか、先生は駐車場の扉を乱暴に開けて、駆け込んだ。

 真っ直ぐに黒い車、ナンバー『31・28』へと……。


「先生に詳しく聞きたいことはたくさんあるけど、今は先生にはやるべきことがあるでしょ?」

 車の傍で開かれた小箱を前に嗚咽を始めていた先生に向かって、マリちゃんが言った。

「うぅっ!……うぅ……」

 先生は泣き止むことはなかったけど、それでもふらりと立ち上がって、足を動かし、駐車場を後にした。

 マリちゃんとのたった一つの打ち合わせ、それは、誰が来ても、自分たちが何をしているかは語らず、車を眺めているだけと言い張ることだった。

「でも、あの咄嗟のひっかけは良かったよ」

 えっへへ! ま、まぁね!

 先生に残り時間を伝えた時、実は3分くらい早い時間を教えたの。ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど、見抜けなかったってことは、先生よっぽど慌ててたのかな?

「時間に迫られていたのは自分が一番分かってたから、焦りから判断が鈍ったんだね。だいたい、私たちのいるこの辺りに、時間を確認できるものなんてないのにね」

 ホントだよね。アハハ。少しスッキリした。

 ……でもマリちゃん……、高木先生が犯人だったんだね。

「……みたいだね」

 え?

「先生が共犯者だってことはわかってたけど、誰なのかということまでは確信できなかったよ。予想はしていたけどね」

 そうなんだ……。だから、誰が来ても何も言わないって決めたんだね。

「そう。全然無関係の先生が来て、下手に騒いだら、気付かれてせっかくの犯人との遭遇のチャンスを逃すことになるからね」

 そっか。でも、どうして今回は犯人……高木先生は、現場にやってきたんだろう?

「私たちがずっと動いてなかったからじゃないかな?」

 確かに……。得点板の裏でメモを見つけてからは、特に探す行動をしていなかったからね。あれ? ということは、私たちの行動はずっと見られてたのかな?

「そうだろうね」

 なんか嫌だね……。


……うん? ちょっと待って! え、共犯者?


「うん」

 マリちゃんが、前髪を払った。暑い中運動をしているのに、マリちゃんの前髪は変わらずさらりと黒い波を作った。

「さて、卑怯者の真犯人の所に行こうか」

 マリちゃんの言葉に合わせたかのように、金管楽器が高低重ね合わせたファンファーレを高く青い空に向かって奏で始めたのだった。




 ズバリ、真犯人を探すためには、どの競技までに見つけないとダメかな?

 え? 次のメモ? 私もマリちゃんに訊いたけど、「もう見る必要もないよ」って言うんだ……。

 あの……マリちゃん、私は見たい、かなぁ……。

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

あと3回で終わります。

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