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第十五話 変態観測-推理編①-

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「じゃぁ富田、後は任せるわ」

 次田先生が無関心にそう告げると、富田さんは「あ、はい」と慌てて教卓に向かった。先生は自分の席へと戻り、ぼーっとクラスを眺めている。相変わらず、先生の考えは読めない。

「で、では、今日の道徳の授業は、昨日起きた事件のことをみんなで話し合う時間にします!」

 特別誰も声を上げることはなかった。昨日のHRで次田先生がそう予告していたからだ。

 みんな自然と机を移動させる。教室中央に向かって左右で対立する構図だ。

 だけど、話し合うっていっても、色んな意見が出るだけで、まとまらないから、富田さんが中立の立場として司会進行をするらしい。

 正直に言って私も中立の立場だから進行役が良かったなぁ。

 マリちゃんと色んな事に出会って来たから、簡単に犯人を決めることは損するって思うようになったんだよね。

「では、被害者代表として真中さんと、浅野さん」

 教室後方から見て右手にミキティと浅野さんが並んで最前列に座る。ほぼすべての女子と、何人かの男子がその後ろに集まった。

「では容疑者として根岸くん」

 一方こちらはというと、スッカスカだ。座っているのは根岸くん本人と……、

「と、根岸くんが犯人と決めつけるのは早いという意見の方たちなんですけど……」

 私とマリちゃんだけだった。

 根岸くんの友達始め、意見をまだどちらとも考えられない人は、教室の後方で話を聴いて、それから決めるということだ。3:1:2ってやつだね。

「あ、アンタたちそっちなの!?」

 ミキティが驚き半分、怒り半分といった具合でこちらを睨んでくる。

 うぅ、ミキティはともかく、他の女子からの視線が痛い……。

 でも隣のマリちゃんは堂々としていて、寧ろそんな視線を楽しんでいるかのよう。

 マリちゃんがいるから安心だけど、それでも不安は不安だ。

 だってあの後もう少し調べたけど特に何も見つからなかったし。いつもマリちゃん自身が言ってるけど、私たちは警察じゃないから、証拠を調べたりとか、ほら指紋を見つけるとか、そんなことはできないんだよね。

 でも根岸くんはやってないって言ってたけど……。うーん……。

 ま、私が考えても仕方ない! マリちゃんになんとかしてもらおう!


「では、私から簡単に今回の事件のことを話します」

 クラスメイトがそれぞれの意見を持ち終えたのを見計らって、富田さんが語り始めた。

「4時間目の体育の授業前、真中さんをはじめ私たち女子が着替えていたところ、更衣室を覗く不審な影を見つけた。急いで外を確認すると、悲鳴に驚いて逃げた根岸くんの背中が見えたから、犯人は根岸くんではないか?……というのが真中さんたちの意見ですね」

「そうです!」浅野さんがぱんと机を叩いて立ち上がる。「それに女子更衣室の前には彼のゴーグルが落ちてました!」

 ちなみに彼のゴーグルは重要証拠品として次田先生が預かっている。

 鼻息荒く情報を追加した浅野さんは腕を組み、誰よりもドヤ顔だった。

 彼女の後ろに控えているクラスの女子も同じ様子。中立派の人たちもざわつき、早くも何人かが腰を上げた。

「あ、あのみんな? まだ説明しただけだから」

 富田さんも苦笑いだ。まぁしょうがないよね、普通なら。

「俺じゃないって!」

 我慢できずに勝手に話し始めた根岸くん。「本当に不思議なんだ! ゴーグルが、朝水着を準備した時には確かにあったのに、着替える時に無くなってて……!」

「誰がそんなありきたりな言い訳信じるのよ!」

 ミキティが怒鳴った。「嘘つくならもっとましな嘘つきなさいよね」

「まぁこのように対立しているところです」

 富田さんが冷静に締めくくった。

「はい」

 それを待っていたかのように、静かに手を上げたのはマリちゃんだった。

「あ、どうぞ」

 富田さんがそっと手を向けた。

「それだけですか?」

「へ?」浅野さんが随分間抜けな声をだす。

「逃げて行ったのは本当に根岸くんで間違いないんですか?」

「ど、どういうこと?」

「根岸くんを見たっていってたけどどれくらいの距離で?」

「だ、大体5メートルくらい? 更衣室から、プールに上がる階段の下あたりだからそれくらいだと思うけど……」

 実際何メートルかは私もわからないけど、浅野さんの意見は間違ってないと思う。

「そんなに離れてて根岸くんってわかる?」

「間違えないわよ! 同じクラスメイトなんだし。それに根岸は身長も高い方だから目立つし」

「そうですか……」

 マリちゃんは富田さんの方へ向きを変え「富田さん、提出したい証拠があるけどいいかな?」

「証拠? えぇ、どうぞ」

 富田さんは少し面を喰らっていた。なにか随分本格的になってきたなと思ったんだと思う。私もそうだし。


 証拠提出のため急遽用意された机の上にマリちゃんが置いたのは、一枚の写真だった。

「え? なにこれ?」

 その写真には一人の女の子の後ろ姿が映っていた。

 何を隠そう、私が撮影したのだ!……なので写真の出来具合は気にしないで。

 丁度更衣室の扉の前から、さっき浅野さんが言っていた階段下くらいの距離だよ。

「アンタの写真じゃないの」

 ミキティがそう言った。

「違うよ」マリちゃんが……少し声を低くして言う。「これは3年生の通りすがりの女の子だよ」

「え?」ミキティの声は濁っていた。「うそ!? だって背も同じくらいだし、髪もショートで……」

 うん、ミキティ、もう大丈夫だから。

 マリちゃんが強がりを言ってるわけではもちろんなくて、本当なの。校庭掃除の3年生の女の子にお願いして写真を撮ったわけ。

 とにかく、階段の下はさらに薄暗いし水着姿の男子の後ろ姿だけで、必ず根岸くんと言い切るのは難しいってことだよね!

「それに、ゴーグルに随分執着してるけど根岸くんの言った通りだとしたら、根岸くんがそこに落としたわけではないからね」

 ぐぐっ! と浅野さんは声を詰まらせた。

「ふふっ」と笑ったのはミキティだった。「確かにそうね。でもそれはお互い様でしょ?」

 ミキティは、ご存知の通り、成績優秀だ。マリちゃんの追求も冷静に対応する。

 ミキティの言う通りなんだ。確かに根岸くんが本当のことを言っていたら、という前提は、仮定にすぎない。証拠がない以上お互い様である。

 え? なんで私がそんな鋭い読みをするかって?

 それはもちろん、昨日マリちゃんがそう予測してたからだよ。

「それにこっちは確かな証言があるのよ?」

 とミキティがちらりと視線を中立者席の男子に向ける。

 彼の名前は桶川君。当然同じクラスの一員。根岸くんとはあまり話してなかったと思う。

「俺見たんだよ。根岸がさ、更衣室の前で屈んでいたの」

 女子は一斉に悲鳴を上げる。

 一方で男子はというと、「あ、俺も」とあと二人手を上げる。

 ……そりゃそうだよね! だって更衣室は校庭に面していて見通しがいいし。早い話、誰かが観ているよ。

「是非詳しく教えて欲しいんだけど」

 マリちゃんが桶川君の方を向くのに合わせるように、みんなが一斉に桶川君を見つめた。

「あ、ああ!いいぜ!」

 何故か彼は舞い上がっている模様。目をらんらんとさせて、胸をポンと叩いた。


「俺が教室を出て、下駄箱でサンダルに履き替えてたんだけどさ、」

 桶川君の証言が始まった。

 マリちゃんがさっそく言葉の切れ目に鋭く入り込む。「それって一人?」

「え? あ、あぁ、一人だった。もうみんな先に行ってたから」

 ふーん、とマリちゃんはそれ以上は何も言わなかった。

「その後外に出たんだけど、更衣室の前に誰かが屈んでるんだよ」

 なんで更衣室の前なんて気にしてたんだろ? って当たり前か。その前を通って階段に向かうんだから。視界に入っただけ、だよね。

「だけど次の瞬間、急に立ち上がってさ、慌てて走り出したんだよ」

「なんで慌ててたってわかるの?」

「なんでって言われても……」桶川君は言葉に迷った。「なんとなくでしか言いようがないし」

 なるほどね、とマリちゃんはやっぱりそれだけだった。

「そのすぐ後くらいかな、浅野が飛び出してきてたんだ」

 その後は特に変わったことはなく、みんなと同じでプールサイドでのやりとりに混ざっただけだけどね。とのことだった。

 ……どうするのマリちゃん? これまずいよ。しっかり見られてる!!

「何か言い返せる?」

 ミキティが得意げに笑う。

「別にゴーグルを探してただけって可能性もあるよね」

「何言ってんのよ」

 ミキティは今度は鼻で笑った。

「ゴーグルだって、よく思い出してみて。私たちが入る時には誰も見つけてないのよ? もし仮に根岸くんが朝は持ってたけど失くしてしまったとして、何の因果か更衣室の前に落ちてたとするわ。じゃあ何で女子が誰も気付かないのよ。扉のすぐ近くに落ちてたのよ? 気付かない方が無理があるわ。昨日は1時間目から4時間目の私たちまで全部の時間プールがあったのよ? 誰かが気付いているはずだわ。それに根岸くんが仮に落としてしまったとしてプールの時間でもないのにあんなところ行かないでしょ? つまり、ゴーグルを落とすのは、あの時屈んで中を覗いていないと有り得ないのよ!」

 ミキティは身振り手振りで、まるでディズニー映画のヒロインみたいに語ってくれた。最後は音がしそうなほど力強く人指し指を突きつけてきた。

 女子たちが賛同の拍手を惜しみなく送る。中立派の人たちも次々と立ち上がり、ミキティの後ろに……!

「もう根岸だろこれ!」「時間の無駄じゃない?」「自首したらー?」

 みんな口々に好き勝手なことを言い始めた。

「ちょっと、みんな静かに! 他のクラスは普通の授業してるんだからね!」

 富田さんが素早く制止したことで、みんな一先ず大人しくなった。

 だけど、これもう、無理だよ……これだけしっかり見られてたんだもん。

「容疑者さんチーム、何か反論はありますか?」

 富田さんが促す。根岸くんは顔を真っ白にして、それでも僕はやってないと言うだけ。

「はい、いいですか?」

 容疑者がほとんど諦めてるのに、マリちゃんはまだ諦めていなかった。

「扉の下部についてる通気口、通称ガラリだけどあそこから覗いたことある?」

「は? な、無いに決まってるでしょ!」

「大して覗けないんだけどね」

「そんなの関係ないわよ。むしろだからこそ必死で屈んだんじゃない?」

 な、なるほど。

 確かにね。あの僅かな隙間だけど、頑張ってじっと見ていれば、誰かが通った感じは屈まなくても分かるもんね。まぁ全然見えないのもあるけど、私たちの学校の、プールの扉についてるやつは見えるタイプだ。

「桶川君の証言も、結局は覗きに関して何も証明できてないよね。確かに更衣室の前にいたのかもしれないけど、やっぱり決め手に欠けるし、そうだとしてただただ必死で探してただけかもしれない。悲鳴が聞こえたら、動揺して逃げ出す可能性だってあるし」

 うっ、とミキティは言葉を詰まらせた。だけど、せっかくの反撃のチャンスだったけど、マリちゃんはそれ以上は続けなかった。


 もしかしたら……続けられなかったのかもしれない。


 そこでチャイムが、まるで格闘技のゴングのように、鳴り響いた。

「正直に言って……」

 チャイムが消え入るのを聞き届けてから、富田さんがまとめに入る。

「根岸くんが非常に疑わしいのは変わりません。十中八九、根岸くんが怪しいのは認めざるを得ないと思います。ですけど、強引すぎると言われたらそれもまた理解できます。容疑者の反論は屁理屈にも似ている部分はありますが、誤解の可能性があるかもしれないという不安感は確かに拭えていません。

 要するにあと一つ、真中さんたちの方はダメ押しじゃないですけど、証拠があったらなって感じです。それにゴーグルの謎も気にはなります。なので……」

 次田先生と富田さんが視線を交わす。

「明日の6時間目にもう一度話し合います。その時に決定的な立証が出来なければ、根岸くんを犯人とします……申し訳ないけど……」

 富田さんの神妙なお詫びの言葉が、ゆっくりと私たちの心の中に潜り込み、鈍色にしていく。

 そうだ……、これだけ大事になった以上、もうただの悪戯ではすまされない。結果によって、根岸くんの将来はどうなるのだろうかと、私は漠然とした不安を感じた。

「一先ず、今日はこれまでです」


 私と根岸くんはほっと胸を撫で下ろした。

 ミキティ達は悔しがってはいたが、自分たちの優勢さに自然と笑みをこぼしていた。

 だから、私だけだと思う。

 マリちゃんが一人、呆然と視線の前に広がる景色を眺めながらも、小さく口の端を歪めていたのに気付いたのは……。


「あ、最後に一つお願いがあります」

 私は、まだまだマリちゃんのことを知らないなぁと、寂しくも感じたし、ワクワクもした!

「先生、ゴーグルを貸してもらえませんか?」

 マリちゃんが口の端を歪めていたのは、悔しかったからじゃなかったんだ……!


 マリちゃんは、ゴーグルをどうしたと思う?


 そして早速、放課後から調査を始めるんだけど、今回の話し合いの中で、マリちゃんが一番気になったのはどこだったんだろう?

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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