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第十三話 欠陥住宅街(後編)

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「いや、何もないよあの部屋は?」

 階上のおじさんは酷く慌ててそう言った。

「寝室だし、子供が楽しくなるようなものは何も……」

 言い得て妙! ってやつだね。多分……。

 寝室なんて私たち小学生が覗いても、普通なら、楽しくない。それにマリちゃん、このおじさん怪しいって言ってたのに。

「そうですか」

 マリちゃんはポツリと言ったけど、どこか含み笑いでもしてるかのように、こそばゆい声だった。

「じゃあ福部さんの部屋で待たせてもらえますか?」

 マリちゃんが続けて言った。

「え?」

「いつも遊んでるから、そこなら退屈じゃないですよね?」

「あ、あぁ……うん、そうだね」

 おじさんは苦しそうに笑う。そして浅く開かれている瞼の中でも、その瞳が左、右へと忙しく動くのが分かった。

「部屋は分かりますから」

 マリちゃんがそっと微笑んで付け足す。

「あぁ、そうかい?」

 おじさんがほっと溜息をつくように言葉を漏らした。

 とん……とん……。

 マリちゃんの小さな足が階段を昇ってゆく。

 私も行く! そう言いながら私は階段をどてどて、マリちゃんを追いかけた。

 おじさんが私たちの行動をじっと見つめてくる。丁度私たちが昇る階段と反対の階段あたりに立っている。

「どうしました?」

 マリちゃんが尋ねた。

「え?」

「いえ、じっとこちらを見てるので」

「あ、あぁいやなんでもない。い、今お茶でも入れてくるよ」

「お構いなく」

 私たちが再度歩を進めると、反対におじさんは下へと下っていった。そして私たちが昇り終える頃、おじさんは姿を消していた。

 マリちゃんは階段を昇り終えると迷うことなく、おじさんが現れた方へ向かった。

 私は何となく足音を立てないように動いた。そしてマリちゃんの後を追う。

 左右にそれぞれ一つずつ扉がある。マリちゃんはここでも迷うことなく右手の扉を選んだ。そっちが、窓の空いていた方だということは私もギリギリ覚えていた。

 マリちゃんは、ハンカチを取り出してドアノブを包むと、そっと、それでいて素早くノブを回した。

 お花の様な少し甘い匂いが鼻をくすぐってきた。

 部屋の中は、確かに小奇麗だった。足の踏み場は沢山ある。というか全く散らかってない。

 右手にクローゼットがあった。壁一面の大きなクローゼットだ。奥行きがどれくらいあるのか分からないけど、いっぱい服とか入ってるんだろうな。

 正面には大きな窓があり、そこからベランダに出られそうだ。今はレースのカーテンが引かれている。

 床には大きなカーペットが一枚敷かれていた。夏らしく、もふもふの絨毯ってわけじゃないけど。小さなガラステーブルを避けて一歩進んで踏んだ感じは柔らかい。テーブルの上には飴色の硝子で出来たごつごつしたお皿が置いてあった。

 左手には小さな箪笥。そして出窓だ。今はもう閉じられている。

 窓の前にはいくつか置物があった。

 これまた大きなお皿だ。外国の女の人が優しく微笑んでいる絵が中央に描かれている。その隣にあるのはトロフィーかな。細長い金色の、花瓶の様なトロフィー。他にも小さなお土産っぽい人形とかあるけど、大きなのはその二つだ。

 そして窓の下にはベッドが壁に沿うように置かれていた。

 ……誰かいる?

 ベッドのほとんどを占める、その掛け布団のふくらみは、大人一人が布団に潜り、横たわっていると私でも想像できた。

 顔まで潜っていて誰かは分からない。

 寝てるのかな? 私はそっとマリちゃんに声をかけてみる。

「そうかもしれないけど……」

 マリちゃんがこめかみに人差し指を添えた。「おかしい」

 そう呟きつつ、部屋の中へとさらに足を延ばした。

 けど、すぐに立ち止まった。

「ん?……冷たっ」

 マリちゃんが咄嗟にそう言った。

「入ったらダメだって言っただろ!」

 いつの間にかおじさんが入り口に立っていた。

 その顔に、先程までのぎこちなさ、取り繕ったような笑顔はなかった。

 私たちから視線を動かさない。どこか光を失くした瞳、硬く動きの少なくなった口元。そしてその右手には包丁が握られていた。

 私は怖くて仕方なかった。急いでマリちゃんと手をつなぎ、ベッドの方へ逃げた。

「子供だと思って許していたが、こればっかりは許せないぞ……」

「そうですか」

 マリちゃんは変わらず落ち着いている。

「私だって、あなたを許すわけにはいきません!」

「何だと!?」

「あなたがただの泥棒じゃないことくらい、もうわかってますよ」



 マリちゃんがこのおじさんのことをただの泥棒じゃないって、確信したのはいつだろう? ちなみに、何が「おかしい」と思ったんだろうね?

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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