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第十二話 欠陥住宅街(中編)

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「はぁはぁ……」

 や、やっちまった……。

 ち、違うんだ。殺すつもりなんて……。

 大丈夫だよな……、ちょっと一発、殴ったくれぇだし。

 金だけ盗んで、さっさと逃げるつもりだったんだ。なのに……こ、こいつが急に……。

 血に塗れた右手首に温い刺激が起きる。

 自分の顎先から滴った脂汗だと分かったのは、ふと視界に捉えた鏡の中の自分の顔が蒼白くありながら、長いこと粘ったサウナから出てきた直後のように汗で濡れていたからだ。

 一体どれくらい立ち尽くしていたのかわからない。咄嗟に自分がやったことに対して理解できずにいた。ただただ心臓の鼓動が休まるのを待っていたからだ。そうでもしないと口から心臓が飛び出てきそうだったんだ。

 やばい……さっさと逃げよう! このままここにいる理由はない。手だけ洗うか? いやでも待て。下手に触ったら指紋を処理しないといけないし、でも血塗れの手でこの住宅街を逃げ切れるのか?


 大丈夫だろ? 誰かとすれ違う時に、手なんて見てるか? 見てねーよな。

 確かここからなら、5分も走れば小さな公園があったはず。そこの水道で洗えばいいし、最悪コンビニのトイレでも……いやコンビニは人が多いし、防犯カメラも付いてるからな。いやというか手袋を――


 ピンポーン……。


 緊迫する俺の脳内に、随分と間抜けな電子音が通り過ぎてゆく。

 まずい! 誰か来た!

 家族が帰って来たか!? いやでも、事前の下調べではまだ家族の帰宅時間じゃねーはず。

 じゃあ来客だ。居留守をすりゃあいい。幸い外見は留守に見えるだろう。実際留守だったんだし。

 下手に外に逃げ出して目撃でもされたらそれこそお終いだ。

 一体誰が……ベランダに出る窓からじゃよく見えない。そもそもレースのカーテンが引かれてる。それを開けようものなら俺は天下一の間抜け泥棒だ。

 そう言えば、廊下にインターホンがあったな。

 ――さすが、金持ちは違うな。画像で誰が来たかわかる。

 薄暗く、少し荒っぽい画面をのぞき込む。

 ん? 誰もいねーな? 悪戯か? 勘弁してくれよ。こんな時に――


 ピンポピンポーン!


 え? いや今映ってなかったよな? もしかして幽霊!? んなわけねーか。こんな昼間っから。

 もう一度覗き込む。今度は堂々と。

 お、今度はいるじゃねーか。これは……なんだ、ガキじゃねーか。ビビらすなよ。女の子一人とはな。

 さしずめ、ここの家のガキの友達ってやつだろうけど、あいにく今は居留守だ。

 ほうっとけばすぐにいなくなるだろ。

 と思ったのは完全に考えが甘かった。さらに何度も押してくる。まるで、この家に誰かがいることが分かっているかのようで、俺はどこか背筋が寒くなった。

 が、画面から女の子がいなくなった。

 ほっと息を吐いたのも束の間、今度は門ががしゃんと閉じる音、そして、先程とは違う音色の呼び鈴が鳴り始めた。

 え? なんだこれ? あ、もしかして玄関の傍にあるやつか?

 ということは、あのガキ、門の中に入ってきたのか?

 ちぃ、最近のガキは図々しい。大人しく……はっ。

 最近のガキ、ってことは電話とか持ってるのか? やばい、なんか不審に思われて警察でも呼ばれたら、それこそ……。

 福部邸は二階の廊下は一階のリビングが吹き抜けになっており、見下ろすことができる。

 そしてリビングの正面にはすぐ玄関があるのだ。

 だから、呼び鈴を鳴らす隙間でドアを叩く音がよく聞こえてくる。

 おいおい、借金取りかよ。

 ちぃ、こうなったら仕方ねえ。今のうちにさっさと片付けて、入ってきた窓から出よう。

 今なら玄関前に居るだろうから、あそこは死角になるはずだ。


 ……よし、二階にトイレがあって助かったぜ。手は、大体オッケーだ。ちょっと乾燥してるけど、後から落ち着いて洗えばいい。手袋から染みてたとはいえ、これでなんとかなるだろう。

 そして俺はこの家の東側の窓で、はためくレースカーテンの中に身をねじ込む様にして上半身を窓から出した。

 その時だ。

 自分の第6感とでも言えばいいのか、何か嫌な視線を感じ、ふと真下を見た。たかが2階分の高さだが、それくらい怖くもなんとも――。

「こんにちは」

「うわあああ!」

 年甲斐もなくデカい声でビビってしまった。そしてバランスを崩してしまい、尻餅をつく形で後ろに倒れてしまった。どうにか窓から転げ落ちることは避けられた。

 窓の真下に座敷童みたいに静かに立ってこっちを見上げている女の子がいたんだ。

 さっきのインターホンに映っていた子とは違った、別の女の子だ!

「あのー」

 窓の向こうからぽつりと、しかしいやに耳に残る声で俺を呼ぶ。

 どうする? だが居留守は不可能だ。もう顔を見られた、小学生だし、強引に逃げるか?

 いや、それは不味い。たとえ小学生とはいえ、もし高学年くらいなら十分証言できるはずだ。……でも下の子は小さい雰囲気だったし低学年かも知れないが。

 くっ……しかしモタモタしてたら余計怪しまれる!

「あのー」

「――や、やあ!」

 俺はイチバチか答えてみた。

「ど、どうしたんだい、そんなところで?」

 家族のフリをすればいい。なぁに、最悪親戚とか言っとけば問題はない。

 とにかく最優先事項は、この子たちを追い払い、さっさと逃げることだ。

「こっちのセリフです」

 は?

「なんでいるのに出てくれないんですか?」

 う……。なんだよ。そこは小学生らしく純粋に答えてくれたらいいだろ?

 2階からの高さは大したことない。だけど、人の顔を認識するには充分な近さでもない。

 なのに、なんなんだよ、丸い、妙に存在感のある目……。ホントに妖怪じゃねーだろうな。

「い、いや、その……」

 とにかく、ごまかさねーと。

「ごめんね、ちょっと寝ちゃってて……目を覚まそうと窓を開けたところだったんだよ」

 おぉ、我ながらうまいいいわけじゃね?

 そんな俺の膨らんだ自信を、つんと一突きで萎ませたのはガキの一言。

「へぇ」

 なんだ? な、何か俺は間違えてるのか?

「で、何か用かな?」

 あまり細かいことを気にしていたらドツボにはまる気がする。さっさと終わらせよう。

「福部さんはいますか?」

 ちっ、やっぱりそうか。ここの家のガキの友達ってわけだな。

「あー、まだ帰ってないんだ。ごめんねー」

 これは自信がある。何せ本当のことだからな。

 ただ……あれ、ここのガキって、男の子だったよな?

「そうですか」

 まぁ、んなことはどうだっていい。これで諦めて帰るだろ。

「じゃぁ待たせてもらいますね」

 いいっ!? 冗談じゃねーぞ? というか、普通友達いないのに、しかも自分から待たせてもらうなんて言うか?

「いやいや、今散らかってるし! おじさんしかいないからダメだよ」

「散らかってるのなんて気にしません。玄関先でいいんで入らせてもらえたら大丈夫です」

 はぁ!? なんて図々しいんだ……。

「――マリちゃーん!」

 ん? あ、モニターに映ってたガキ!

「何回押しても出てくれないんだけど……ああ! いるじゃん」

 今度は騒がしいのが来たぞ……。

「今待たせてもらうってお願いしてたとこ」

「は!?」

「わーい、もう外暑くてさぁ……ありがとうございます! 鍵空いてたら入らせてもらいますから! 大丈夫でーす、玄関より先には入りませーん!」

 もうすでに大丈夫でもねーんだよこっちは!!

 かと言って、執拗に断ってもおかしな話になる……のか? あーもうわからん!

 ん? 待てよ?

「ちょっ、5分だけ待ってくれ!」


 まさかとは思うが……この部屋にまで来るかもしれない。

 俺は、部屋を片付けた。


 どれくらい時間がかかっただろうか、5分なんて短すぎてわからない。もう少し余分に言っとくべきだったか。

 だがあまり時間をかけすぎるとなおのこと怪しまれちまう。

 こんなもんでいいだろ。あくまで保険だ。玄関に上げておいて、知らぬうちにこっそり逃げる方がいい。下手に外にいられたらいつまで経っても逃げられやしない。

「――おぉい、もういい……」

 いない?……まさか!

 俺は慌てて廊下に出た。

 吹き抜けから見下ろすと、玄関の前に二人の女の子が座っていた。

 いや、正確には、背の高い方が玄関の扉を開けて、その境で1個の靴をまたぐように仁王立ちしている。

 そしてもう一人の小さい方は……あれ?

 いない!? と視線を動かしてると、壁の脇から出てきた。今どこからか戻ってきたようだ。

 ちっ……舐めてやがる。あんまり調子に乗ってると……殺すかもしれねぇぞ。もうどうせ一人は殺ってるんだからな……。

「全然汚くないじゃないですか」

 小さい方が言ってきた。当たり前だ。俺は盗みのプロだぞ。必要以上に散らかさないし、なんだったら大体金目の物が置いてる場所なんて分かるんだよ。

 とは言えねぇけどな。

「い、いやぁそんなことないよ。特に二階はね」

「流石にそんなとこまで入りませんよ」

 よく言う……確かに5分だけ待ってとは言ったが、それでも普通勝手に入るか?

「ところで、福部さんのお母さんはいらっしゃらないんですか?」

 なっ……ちっ!どうする?

「いや、いま買い物に出かけてるよ」

 無難な所だな。

「ガレージに車が停まってたから、いらっしゃるのかと思ったんですけど」

 ぐっ! しまった! と慌てる必要はない。

「あぁ、あれ僕のだよ。妻は歩いて買い物に出るんだ。そう、健康の為ってね」

「へぇ」

 まただ……。ちくしょう! なんだってんだよこのガキ!

「じゃぁおじさん、」

 その小さなガキは、俺へ感情の薄い顔を向けて、こう言った。

「退屈なんでおじさんが10分以上かけて綺麗にしてくれたその部屋見せてもらえませんか?」

 な……俺は、やっぱどこかでミスってたのか?



 なんだか怪しいおじさんだけど、一体マリちゃんは、何を見たことで、どこの部屋を見てきてんだろう?


 ちなみに、この福部くんのお家は、正面から眺めると直方体だね。

 丁度3等分して、真ん中が玄関とリビング、そして2階部分は吹き抜けだね。で1階も2階も左右にお部屋があるみたい。リビングから2階への階段は左右の壁に沿って二つあるよ。

 玄関から見上げて2階正面にも扉があるから、2階は廊下の両側にお部屋があるんだろうね。すごい広いお家だぁ……。お掃除大変そうだね。

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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