表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/29

第十一話 欠陥住宅街(前編)

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「お昼休みって……」

 マリちゃんは、ゆっくりと、言葉の一文字一文字を丁寧に発する。「一体何時のことなの?」

 へ? と私は思わず間抜けな声を出しそうになったので、慌てて口をふさいだ。

 お昼休みって給食の後の時間のことじゃなくて?

「給食が始まる前の時間もそうと言えなくはないよね?」

 あ、確かに。4時間目終わって給食が始まるまで、当番の人は給食室に給食を取りに行くけど、その時間もお昼休みか……。あんまりその時間にうろうろする子はいないけどね。机を拭いたり、班にするためくっつけたりするし。でも、購買に行くことがダメってわけでもない。暗黙の了解ってやつかな。

「どうだった?」と次田先生がマリちゃんに声をかける。

「購買の先生が教えてくれました」

 増田さんは、口の端を噛み締めた。

「だ、だからどうだってんだよ」

 加藤くんが口を挟んだ。

「今まで、」マリちゃん……ではなく、浅野さんが得意気に語り出す。

「『給食を食べ終えて、体育が始まるまでのわずかな時間が犯行時間だ』ってなってたわけでしょ? それが覆されたわけよ。つまり、男子にも犯行可能ってわけじゃない」

 加藤くんたち騒いでいた男子グループも口を閉ざした。

「じゃあ結局誰なわけよ?」

 ミキティがぽつんと放った言葉に、皆頭を悩ませた。

 だけど、誰も何も言わなくなってしまった。

 自然と、みんなの視線がマリちゃんに集まってくる。

 一人体操服姿のままのマリちゃんは、気付いているのかいないのか、転んだ時の砂がけっこうお尻に……じゃなくて、次田先生と視線を合わせて何かを語り合ったかのように、少しの間黙っていたけど、

「気になるのは次の3点」

 マリちゃんは3本指を立てた。中、薬、小指の3本を立てる、妙なクセだよね。OKってしてるみたいな。

 マリちゃんはそっと首を加藤くんに向けた。

「一つは、随分と君の推理で話が進んでたけど」

 突如矛を向けられ、目を点にする加藤くん。

「別に推理なんてしてねーけど?」

 口を尖らせ明後日の方を見上げた。

「お昼休みを給食が食べ終わった後、という時間帯に限定したのは君の言葉だよ。そして最後に給食を食べ終えた人が怪しいという短絡的思考を他人の気持ちも知らないで堂々と繰り広げたのも君」

「でも、それはさ、」浅野さんが割って入る。「そこまで無理もないことなんじゃない? やっぱ最後に出ていく人が怪しくなるでしょ?」

「それは二つ目の気になる点と重なるね」

 マリちゃんは動じることなく自分の言葉を続けた。

「体操服袋の中に入れていたのが不自然だよ」

 どーいうこと? とミキティが、聞き返す。

「盗んだものそんなところに入れるかな? しかも自分が最後って分かってるでしょ、疑われる可能性も頭に過らない?」

 そう言われるとそんな風にも思えてくる。私なら盗んだらどうするかな……とゆうか、体育で教室を離れてる間に見つかったらどーしよーとか思って、怖いから、できるだけ厳重に隠すかなぁ。

「そして三つ目は、増田さん」

「な、何……」

 増田さんはもう、十数分前の威勢を失っていた。

「なんで財布が見つかってから1度も中身を確認しないの?」

「えっ!?」

 あ……ホントだ。

「犯人に気遣ってるのか、何か知らないけど、普通なら盗まれた財布が見つかったら、まず、最初に中身を確認すると思うけど?」

 あれだけ威張り散らしておいて、犯人に気遣ってるわけがない、とクラスみんなが思ったことだった。

「そ、それは……」

 そう言えば増田さんは、財布が見つかってすぐに上着のポケットにねじこんでたっけ。まるで、人目につくのからさけるように。しかもその後一度も出してない……。

「中身がどうなってるのか、まるで知ってるみたいだね。もっと言えば、何も入ってないのをわかってるのかな?」

 何も入ってない?

「こ、小銭ばっかだから気にしてないだけよ! 悪い?」

「悪いね」

 マリちゃんに灰色の答えはない。「クラスメイト疑っておいてそんな曖昧な返事許されないから。小早川さんの体操服袋の中から出てきた事実は変わらないけど、小早川さんが盗んだとはわからないし」

 増田さんは歯ぎしり音を立てる。

「こ、小銭なんていちいち数えてなくない? 財布の中にいくらあるかわからないから無駄なだけで――」

「購買の先生が言ってたよ」

 増田さんの未練がましい言葉を鋭く遮った。

「増田さんらしき子が、わざわざ給食の前にやってきて、120円のスティックのりを500円で買ったって。給食の前にくる子はあまりいないから印象づいちゃったんだね。しかも給食の前に急いで買う物とは思えないものだし。金額から考えて中には最低でも380円あるよね? 確認しなくていいの? 給食食べた後は着替えて外にでてたから使い切ってはないよね」

 増田さんは唸り声すら上げることはなく、白い顔をしていた。

「それとも……例えば同じ財布を用意しておいて、中身はからっぽのまま、盗んだように見せかけるために入れてたんじゃないの? そして、自分の財布がないことを疑われないように、本物の方は誰かに預けてるとか。そう、例えば、この話の流れを考えた時に、自然と疑いをかけられなくなる、男子の、最初の方に給食を食べ終えた人、とかにね」

「くっ……ぐ……」

「そんなわけないか。まるで休み時間に思いついた悪戯の様な、穴だらけの杜撰な作戦だもんね。こんな悪戯で済むわけないこと、してないよね?」



 増田さんと加藤くんの財布が偶然にも同じだったことが、二人に稚拙な作戦を思い浮かばせてしまった原因だった。

 少し先の話になるけど、増田さんは一学期の終わりに、そして、加藤くんは2学期が始まる前に転校していくことになった。新しい学校では少しでも心を入れ替えてくれることを期待して私はその報告を胸の奥深くに仕舞った。

「――ごめんなさい、小早川さん!」

 と、放課後いの一番に頭を下げたのは長束君だった。「まさか、こんな、犯人がクラスにいると思わなくて……」

 彼としては、その純真さが怖いと言えば失礼かもしれないけど、真面目な気持ちで情報提供を望んだだけだったようだ。だけど、結果として小早川さんをさらし者にしたことは悪かったと思っているみたいだ。

「うぅん、大丈夫。私が望んでやったことだし」

 小早川さんは弱々しくも、きちんと微笑んでいた。

 そしてマリちゃんをちらりと見てる。

 小早川さんは着替えている途中に体操服袋の中に、財布が入っていることに気付いたみたい。

「どうしようって思って焦ったんだけど、今騒いだりしたら疑われるって思って」

 そして彼女はマリちゃんの所に相談しにいったんだって。こないだの遠足の時の一件で、小早川さんのなかでもマリちゃんは特別な存在になってるみたいだ。

 あの時、帰ってくるのが遅かったのがもう一人いたと思ったけど小早川さんだったことを今思い出した。

 マリちゃんは、話を聴くや否や、当然誰かが入れたと考えて、すぐに財布の中を調べたみたい。


「中身がないことはすぐ確認して分かってたし、給食の前にあの財布を増田さんが持って出て行っていたのも覚えていたしね」

 マリちゃんは帰り道、教えてくれた。

 増田さんがわざわざ買い物したのは、お昼まで存在していたことを証明するためだったみたいだけど、それが逆に自分の首を絞めることになったんだって。

「でも、馬鹿正直に入っていたなんて先生に言いに行ったら、次田先生はともかく、他のクラスメイトが信じてくれなくなるかもしれない……だから、小早川さんには辛い思いをさせることになるとは断ったけど、彼女が望んだから、あえてさらし者になってもらったの。体操服袋を持ったりすれば、自分たちの作戦が上手くいっていると思っていると、自分に酔った策士は必ずボロを出すと思ってね」

 財布の中身が何もなく、そして増田さんの本当の財布を加藤くんが持っていたことで、この一件は解決に向かったというわけだ。

「でもさ、」ミキティが口をへの字にしてあごに人差し指を乗せながら、「お財布の中にお金が入ってらどうしてたの?」

え、どういうこと?

「お金が入ってないことが分かってるから、つい確認する演技も忘れてたのかなって思うけど、入ってたらマリはどうしてたのかなって思って」

 なるほど……とりあえずミキティがマリちゃんを呼び捨てにしてるそのことが羨ましくてそれどころじゃない。

「小銭がいくら入ってたかなんて立証しようがないでしょ? 本人は憶えてるって言って片付くなら裁判なんていらないし。いっそ500円で120円の物買ったから残金は380円ですっていう小学2年生の問題みたいな方が簡単じゃん」

「確かにね……で、空っぽにしておいて、380円ないって主張できるわけか。え、でもじゃあ結構ギリギリじゃない? もしあの時、中身がないって先に主張されてたら……」

「だから次田先生に言ったの。私を呼ぶのが遅いって」

「あんたって結構ギャンブラーよね……」

 ミキティは口の端を吊り上がらせて引き笑っていた。

「まぁ、そうなったら、中身だけ盗んで財布だけ持っておくのはおかしいとか言いようはいくらでもあったよ。それにそうなったら小早川さんから380円が見つからないといけなくなるけど、それこそ、彼女が現金を持っていたとして、それが盗んだ物かなんて立証、誰ができるの?」


 なにはともあれ、これで私たちのクラスで、ひいては学年で悪さをしようという人は出てこないだろうと、富田会長もほっと胸を撫で下ろしていた。

 6年生ともなれば、色々悪知恵が働く子も多いからね。


 私たちは会長とミキティと別れて二人になり、少し歩いて帰っていた時だった。

 ん……?

 ねぇマリちゃん、今なんか変な音しなかった?

 私はゴトッというような、重い物がフローリングに落ちたような音が聞こえた気がした。

 マリちゃんに振り返ると、マリちゃんは空を見上げていた。

 いや、違った、私たちが帰る住宅街のある一軒を見上げていたのだ。

 角に位置する2階建のお家。パッと見た感じは、今時の洋風で、正方形のような角ばったお家だ。

 ただ、東側二階の窓が開いてる。

 あそこから聞こえてきたのかな?

「多分ね。でも窓を開けてるなんて普通だし、何か落としただけじゃないかな」

 そっか。今日は天気もいいしね。お部屋の換気でもしてるんだろうね。

 正面までやってきた。立派なベランダに二本くらいの物干し竿がぽつんと並んでいて、その傍には少し早いけどこいのぼりが西日に向かって悠然と泳いでいる。

 特に変な所はない。門もきちんと閉じられているし、玄関だってモチのロン。右手にあるガレージの、格子状のシャッターもきちんと降りていて、車も停まっていない。自転車も綺麗に並んでいて、小さな子供の乗るマウンテンバイクもそこにはあった。他に窓が開いている場所は、見える範囲ではなかったけど。

『福部』と表札がかけられているその家が一角を担う十字路の、交差点を越えた先に車が一台、ハザードをつけて停まっていた。向こうからやってきた車の運転手のおじさんが、邪魔くさいとばかりに眉間に皺を寄せていた。

 マリちゃんが、そこで私に訪ねてきた。

「今日、携帯電話って持ってるよね?」


 マリちゃんは、この後何をするんだろう?



隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

ブックマークつくと嬉しいです、と言ってみたり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ