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第十話 そして誰もいれなかった

申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。

そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。

誰でも解ける、みすてりー、を目指してます。

「はい、これであってる?」

 私たちの傍を離れて5分もしないうちに、ミキティは横山さんとお弁当を食べた子たちと一緒に戻ってきた。

 マリちゃんが言うには、症状的にどうみてもアレルギー症状、アナフィラキシーショックだって。

「食後に運動したのもまずかったけど、」

 マリちゃんはミキティたちがビニール袋に詰め込んできた、お菓子のごみを漁りながら、「そもそもアレルギーの食べ物を口にしたのがまずかったね」

「お弁当じゃないの?」

 ミキティが袋を広げながら、マリちゃんの頭に問いかける。

「お弁当は親御さんが作ったものだから、普通自分の娘のアレルギーくらい把握してるでしょ?」

 そりゃそっか。

「コンビニで買ったりもしないだろうし……」

 そう言ってマリちゃんはお菓子を漁ることに夢中になった。

「わ、私のせいだ……」

 小早川さんが瞼の内に涙をたくさん蓄えながら、声を震わせた。

「大丈夫、知らなかったんだし、」

 次田先生に報告を終えてきた富田さんがそっと小早川さんの背中に手を当てて、「小早川さんのせいじゃないよ」と慰めると、彼女はその胸に顔を埋めた。

「泣いてる暇ない!」

 そんな彼女の背にマリちゃんは鋭く呼びかける。咄嗟に振り向いた小早川さんは、まるで肩を掴んで強引に引っ張られたかのよう。

 マリちゃんが詰め寄り、手を伸ばす。

 私はドキッとして、胸が痛くなった。

 小早川さんはマリちゃんが手を上げたのかと、目をぎゅっと瞑った。

 でも違った。

 マリちゃんは小早川さんの手をそっと握ったの。

「何を何個あげたのか正確に思い出して。そしてちゃんと、救急隊の人に教えてあげて。それはあなたにしかできない、彼女を救うための唯一のことなの」

「う……うん……!」

 次田先生が、公園の救急隊の人と一緒に向こうから走ってくるのが見えたのは、その時だった。


「新学期も始まったばかりだし、うちの学校は給食が遅いから仕方ないよ」

 そうなの。始業式の後、身体測定とかしたと思えば、家庭訪問期間中は給食ないの。珍しいよね。それに今年は、遠足の時期も異常に早かったの。遠足とかの日程は他の学校との都合とか、予約の都合で仕方なかったみたい。

 何にせよ、横山さんは大事には至らなかった。小早川さんのことも、怒ってなかった。本当はおやつの交換とかお母さんから禁止されてたみたいだけど、みんなが交換してるのが羨ましくて、ちょっとだけならって、入ってないかなって思って交換に応じたみたいって後日HRでお話してくれた。


「――どうしたらいいのかな?」

 帰りのバスの中、私の前に座っていた富田さんが頭を悩ませていた。

「簡単だよ」

 マリちゃんはあっさり答えようとする。バスの中でマリちゃんの声に耳を澄ませていない子はいなかっただろうと思う。

「次からはアレルギーの人でも大丈夫なお菓子を一つ、みんなが選んでおけば」

 マリちゃんはなんてことないとばかりに淡々と言った。

 富田さんと私は、言葉はなく、目を合わせて笑った。

「そうね、そうしましょう」

 みんなも、きっと笑ってたのかな? どこからか、拍手が起こり、車内は素敵な空間になった。


 このクラスになって良かった。





 あの時は、そう思っていた……。


 だけど、それから2週間後、ゴールデンウイークを目前に、みんながわいわいと浮き足立つ中、とても悲しい出来事が起こった。


「ちょっといいか?」

 それは、6時間目の道徳の授業でのことだった。

 授業開始から10分ほど経って先生がやっと入ってきた。

 みんな教科書を机の上に置き、次田先生の授業を待っていたが、先生はあろうことか、

「悪いが今日は教科書は使わないからしまっていいぞ」

 みんな突然のことに戸惑い、互いに顔を見合わせたり、小首を傾げたりしながらも教科書を机に入れている。先走った男子が、「テレビ観る!?」とかはしゃいで訊いていたが、次田先生は「いや違う」と実に静かに答えた。

 教室に妙な緊張感が広がる中、「長束、後はいいか?」と次田先生は男子のクラス委員である長束君を呼んだ。

 長束君は「はい」と返事もままならないうちに席を立ち、教壇へと向かった。長束君の友達が、「お、委員長!」とかはやし立てる中、長束君は苦笑を浮かべながら言った。

「今日は、道徳の授業は中止になりました。何故かと言うと、クラスで解決すべき問題が出てしまったからです」

 俯きがちにそう言った彼を見て、さすがに6年生ともなれば半数は察しがついている様子だった。だってただ委員会を決めるとか、班長を決めるとかだけなら、こんな重苦しいことにはならないし、その時間はきちんと前もって伝えられるし、何よりとっくに決まってる。

 そう、クラスでこんな空気を作られることなんて、悪いこと以外にない。

「今日、増田さんの財布が盗まれたそうです」

 音が聞こえてきそうなほど、増田さんに全員の視線が集まる。

 増田さんは女子の中でもあか抜けてて、少し派手な感じ。私はおしゃべりするのも気にならないけど、中には怖がってる子もいたりする。将来はギャルとかになるのかな?

 増田さんは注目が集まっていることをわかっている上で、誰にも視線を合わせず、顎をそらせて天井を仰いでいた。

 そっか、それで長束君も5分くらい遅れて入ってきたんだ。あれ、でも確か誰かも遅れてたような……。

「誰か、心当たりのある人はいませんか?」

 長束君の声は非常に辛そうだった。まぁそりゃそうだよね。まだ始まったばかりのクラスでそんなこと……それに委員長だし、責任感ありそうだもん。辛くて、なにより悲しくなるよね。

 先程までざわついていたクラスも、すっかり息を吹きかけられたロウソクのように、静かになっている。

 長束君は、跳ね返ることのない声を発し続ける。

「ちょっとしたことでもいいから、なんか不審な人を見たとかあったら言って欲しい。別に、このクラスの人が犯人だとか言ってるわけじゃなくて――」

 ガガッ!――椅子を強く引く耳障りな音が教室の空気を引き裂いた。

「あぁもう!」増田さんだ。苛立たし気に髪を掻き毟りながら乱暴に立ち上がり、

「そんなまどろっこしい訊き方しても誰も何も言う訳ねーじゃん!」

「い、いや、僕はあくまで誰も疑ってないってだけで……」

「なんでよ? 私言ったよね? 怪しいやつがいるって、そいつが犯人だって!」

「おい増田」

 次田先生が静かに睨む。増田さんは解放し始めた怒りの発散場所を椅子に求めて、どかりとお尻から座った。

「なんで私が怒られるの? 被害者なんですけど!」

「あくまで憶測だよね?」

 長束君は腰が引けたような語り口だが、その実肝心なところは外さない。「勝手に犯人扱いしたら可哀想だよ」

「……ふん!」

 増田さんはふて寝するかのようにうつ伏せてしまった。

「お昼休みまではあったみたいなんだ」

 長束君が代わりに説明を始める。「購買に文具を買いに行って、その時はあったから、それ以降になる」

 それ以降って……残りのお昼休みと、5時間目の体育の間、でその後の着替えと休み時間しかないよ?

 体育は、私たちはC組だからD組と合同で、C組は女子の着替える部屋になってる。

「じゃあ俺たちほぼ関係なくね?」

 お調子者の伊達君が率先して言う。だけど、確かに、その発言を否定はできないの。

 男子のほとんどは、たいていさっさと着替えて、お昼休みはグラウンドでサッカーとかしてるから。教室に戻らなくていいってのが嬉しいみたい。

 どう考えても、女子の方が圧倒的に怪しいことになるもんね。

「そんなのわからないと思いまーす」

 とあからさまにいやらしくいったのは浅野さんだった。気の強い彼女は、男子の意見を黙って見過ごすわけにいかなかったのだ。

「はぁ? 何でだよ?」

 伊達君と一緒に騒いでいた加藤君が小馬鹿にしたように訊き返す。

「着替えに使ったのはお前ら女子だろ? 俺たち昼休みにはもう教室にいなかったし」

 男子の一部は女子に見られることなど気にせず、さっさと着替えてサッカーに行くもんね。

「飯食って、ソッコー着替えてグラウンドに行ったもんな?」

 と加藤君が伊達君に視線を向ける。伊達君もあぁ、と頷き、他にも数名の男子が首を縦に振る。

「そんなの関係ありませーん」浅野さんも一歩も引かない。「だってあんたたちが戻ってきた、ついさっきの休み時間に盗まれたかもしれないじゃない」

「みんな帰ってきてるのにか? んなの無理じゃね? ギャハハハハ」

 男子たちが一斉に笑い声を重ね合う。むー……女子としてはいい気分じゃない。でも肝心の浅野さんもとうとう言葉を詰まらせてしまって、男子のムードに引きずり込まれる。

「だいたいそれなら女子の最後に教室出たやつ誰だよ?」

 伊達君が言った。女子たちは一斉に口を閉じる。そして頭で思い出す。自分は何番目に出たのか。

 私も振り返る。私は給食を食べるのだけは早いという悲しい自慢があるので、ほっと胸を撫で下ろす。

「ちょっと、みんな、犯人捜しが目的じゃないんだよ?」

 長束君が遅すぎる舵切りを行う。「何か情報がないか訊いただけだ。そんなことならもうこの話合いは中止でいい。別にクラスの中にいるって決まってるわけでもないのに!」

「同じようなもんだろ!」男子の誰かが言った。

「確か……」浅野さんが、ぽつりと呟いてしまった。

 浅野さん含めて、数名の女子が視線を向けてしまった。

「え……あ……」

 声を震わせたのは小早川さんだった。

「小早川かー! 確かにいつも給食食うの遅ぇーもんなー!」

 伊達君が鬼の首でも取ったかのように叫ぶ。

「い、いや、わ、私じゃない……知らないの! ホントに!」

 小早川さんが泣きそうになりながら叫ぶ。

 だけど、実に不自然なことを彼女はしてしまった。

 何故、彼女は咄嗟に体操服入れを抱えてしまったのか。

「はぁ? 体操服入れがどうしたって?」

 加藤君が小首を傾げる。が、直ぐに何かを察したように、「おい、それ怪しいぞ!」

 増田さんが「見せて!」というから彼女は覚悟を決めたように、静かに体操服入れを差し出した。

 そして、体操服入れの中から、増田さんの財布が出てきてしまったの。

 増田さんは即座に大事そうに上着のポケットの中に財布をねじ込み、「ドロボー! 最低よあんた!」

 と小早川さんを怒鳴りつけた。

 次田先生……何してんのさ! もうこうなったら小早川さんが……。

 私は不安になり過ぎて、少し戻しそうな気分になった。

 そして肝心のマリちゃんがまたも不在……。保健室に今はいるの。体育の時に擦りむいちゃって。授業終りに向かったんだけど……。

 ん? それにしては……。

「おい、もういいか?」

 次田先生がようやく口を開いた。よくないよ。もうクラスが……ぐちゃぐちゃだよ。

「先生、遅いですよ」

 マリちゃん!?

 マリちゃんは教室の後ろの扉の前に、いつの間にか立っていた。

 私はマリちゃんに今にも飛びつきたい気持ちだったが、マリちゃんは、さっさと増田さんの前に向かって、下から彼女を見上げると、

「最低って言う相手、間違えてるよ」

 と言い放った。私の中では、クラスの空気を一変させるステキな言葉だったけど、それと同時に……気になっちゃうよ。



 一体誰が最低なんだろう?


 ちなみに、うちの学校は、

『4時間目終了→給食→お昼休み→5時間目→休み時間→6時間目』だよ。

 着替える都合もあるから、体育は10分前には終わってるからね。

隔週日曜日更新していきたいと思います!

回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。

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