第1話 愉快な自販機
申し訳ありません。ミステリーと言っても全然本格的でも、すごいトリックがあるわけでもありません。
そういうのをご期待されている方は他の作家さんをお勧めしますので、どうぞブラウザバックしてくださいませ。
第1話 愉快な自販機
小学5年生になるマリちゃんは、どこにでもいる小学生だった。
マリちゃんは背は中ぐらいの大人しい子だった。休み時間もいつも一人で本を読んでいる。友達がいないわけじゃない。周りのみんなからすれば、なんとなく話しかけづらかったのだ。
私はそんなマリちゃんが少し気になってたこともあり、新学期になり、席替えをして席が近くなったのをきっかけに話しかけてみることにした。なんと呼ぼうか考えたけど、あだ名とかは好きじゃないかもしれないと思いつつ、いつも頭の中で使っていた『マリちゃん』を現実でも使ってみることにした。
本を読んでいたマリちゃんは、私が呼びかけると、きちんと本から顔を上げて、私と目を合わせてくれた。つやつやの前髪がふわりと浮かび、さらりと戻る。
「なに? 菱島さん」とぶっきらぼうに返ってはきたけど、視線を本へは戻さないマリちゃんを見て、私はいろいろと話を持ち掛けてみた。
マリちゃんは、自分から話はしてこなかったけど、私の話をちゃんと聞いてくれた。そして私が一緒に帰ろうと切り出すと、意外にも「いいよ」と返事をしてくれた。私の名前も覚えてくれていたし、案外友好的なのかな?
そんなマリちゃんと学校から帰っていた時のことだった。
まず最初にびっくりしたのは、帰り道だ。私たちの学校は、正門と裏門の二つ出入口があるんだけど(まぁどこの学校もそうだよね)、私は何も考えず、いつもの正門まできて、そういえばマリちゃんはどっちから帰るんだろうかと気になって尋ねた。
そしたら、「大丈夫、菱島さんと同じ正門側だから」だって。一緒に帰るの初めてなのに、私の家の方角知ってたなんてすごいねと褒めると、クラスメイトの家の方向はなんとなく覚えてるんだってさ。私なんていつも遊んでるかなちゃんの家でもいまだに迷うのに……。
私はますますマリちゃんに興味が出てきたので、せっかく一緒に帰るのだからと色んなことを訊いてみた。お家のこととか、いつも何して遊んでいるのか、とか。
楽しく(私だけかもしれないけどね)お話しながら帰っていると、道の脇に自動販売機があった。別になんの特徴もない、ジュースなんかが売ってるどこにでもある自販機だ。そのこと自体は興味もなかった。自販機の前では中学生だろうか、学ランをきた男の子二人が立っていた。別にヤンキーでもなさそうな、普通そうな外見の男子。
くどいようだけど、私は気にしてない。
視線がちらりと動いたのはマリちゃんの方。マリちゃんはさっき教室で話した時と違って、帰ってるときはよく視線が動く。すれ違う人に必ずと言っていいほど視線を一度は向けていた。
私たちが自販機の傍まで近づいた。
ガショ!――ちょうどジュースでも買ったのだろう、缶が落下する時の音が聞こえてきた。
「ん……? うぉ!? マジか!」
取り出し口に手を伸ばしていた男子が叫び出す。男子とは何でこうも声が大きいのだろう。ビックリするじゃん。
「なんだよたけやん。エロ本でも落ちてたか?」
たけやんと呼ばれた彼が取り出すのを、コインを投入しながら見守っていたもう一人の男子が訊いた。
「今時エロ本て……そうじゃねぇよ。ほら見てみろよアキツ!」
もぞもぞと取り出し口で手を動かしていたたけやんは、まず赤いラベルの炭酸飲料を取り出した。そしてそれを自分の左手に持ち替えると、もう一度手を突っ込み、缶をもう一つ取り出した。
「え!?」秋津と呼ばれた方も目を見開いた。
「そうなんだよ」たけやんは自慢げにあごをしゃくる。「ラッキーなことに1度で二本出てきたんだなこれが」
「うぉぉ! マジか。オレそんなのガチャでしかなったことねぇぞ」
いいなぁ。私は羨ましかった。いとこのお兄ちゃんもそんなことがあったって前のお正月に会った時話してた気がする。
「ほら、お前にやるよこれ」
とたけやんはアキツに缶を差し向ける。よほどテンションが上がったのか、二人はその缶をリレーのバトンのごとく渡し、渡されていた。
アキツの方はそのまま上機嫌に、受け取った缶をくるっと半回転させ、プシュッ!っと炭酸の抜ける小気味よい音を奏でていた。
いいなぁ~と私はボヤキながら二歩歩いたところで、マリちゃんに「羨ましいね」と話しかけた。
が、マリちゃんは隣にいなかった。
マリちゃんは中学生の傍に立ったままだった。そして……。
「そのジュース、飲むの待った方がいいですよ」
と、マリちゃんは、びしりと人差し指を突きつけた。
さて、マリちゃんは一体どちらの男の子に言ったのだろうか?
隔週日曜日更新していきたいと思います!
回答編と次の事件は同じ話数に記載予定です。