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間戸井真登は期待する。

 教室へ戻ると俺の席に他生徒が座っていた。“どいてくれないか”ということは言いたくない……嫌われてしまうかもしれないからだ。嫌われるにも自ら嫌われにいくなどしたくない。

 そう決心した俺は教室外の廊下の窓越しから見える、庭で二人仲良く駄弁っているカップルを羨ましそうに見学している。


「どうしたんだい?」

「またお前か」


 また間戸井が寄ってきた。


「またお前かとは失礼な。人気が少ないから声かけてあげたのに」

「有難いような、腹立たしいような」

「二つはかけ離れてるけど」

「細かい事はいいんだよ。それよりなんだよ」

「どうしたのかなぁ~って。教室に入らない? もしかして教室内にいたらイジメられて居場所亡くなったから出て来たとか?」

「それならもう学校にはいない」

「問い直すけど、どうしたの?」

「俺の席に女生徒が座ってるだけだ。断りを入れるのも面倒だと考えた俺は予鈴が鳴るまでここで待機しているわけだ」

「予鈴が鳴るまでって……」

「まぁもう少しの辛抱だろう」

「あと……二〇分くらいあるけど大丈夫なの?」

「え……は!? 図書室の時計がズレてんのか?」

「図書室の時計は良くズレているらしいわ。生徒会で話しは上がってるけど、優先事項のほうが多くて手が回らないのよ」


 へぇ生徒会に所属してたのかぁ~……まさか生徒会長だなんてぇ……え? これテンプレのような……流れ? しかし、聞いてみないことには成立しないテンプレ。


「生徒会長なのか?」

「私?」

「うん」

「生徒会長に決まってるじゃない」


 やっぱりこの在り来たりな流れだったか……。


「昼休憩は生徒会室だったのか?」

「最近は忙しくてね。あなたのこととか」

「俺に関しては生徒会とは別件だろ」

「それほどでもなかったりするのよ。事情は言えないけどね」

「別に聞きたいわけじゃないから大丈夫だ」


 きっと俺だけではないはずなのだ。俺みたいな不登校の奴らも同じ状況に陥っているということなのだろう。


「それより、あと二十分ほどくらいの時間をどう潰そうと思っているの?」

「あの風紀を乱す奴らのかんさ……」


 庭にいたはずのカップルの姿は無く、どっから来たのか不明な小鳥の姿がある。観察しても楽しくも悲しくもならない対象。あのカップルを観察したほうが断然楽しく、切なくなる。だからまだカップルのほうが良かったと思ってしまう。しかしどうしてだろう憎悪もともに湧き上がってきそうに感じる。


「どうしたの?」

「あ、あぁ……まぁこのまま待機かな」

「それなら付き合ってあげるわよ。それに神崎君に話したいことあるし」


 間戸井は垂れた横髪を耳に掛けた。


「入部してほしい部活があるの」

「え……は!?」

「私としてもいろいろと考慮した結果で大丈夫だと踏んだの」

「俺はバイトもあるんだぞ? どこをどう踏んだら、そんな過酷過ぎるスケジュールくめんだよ! 無理なものは無理だ」

「バイト止めていいから」

「何を言ってんだ、お前」


 間戸井真登は理由を言おうとしなかった。きっと言ってしまえば、俺が必ず断るとわかっているからなのだろう。しかし、事情を聞かないまま引き下がるのは間尺に合わない。とりあえず聞きだすか……。


「なぜ俺が部活に入らないといけないんだ? 俺でなくたっていいはずだろ」

「それが神崎君でなくては釣り合いが取れなくて」

「それでは説得力が全く皆無だ」

「ある部活が廃部寸前でね。そこの部活は部員数一……なのよ」

「俺が入部しても廃部だろ。なんだ俺をただの恥さらしにさせたいのかッ」

「いいえ、私も入部するの。名前だけ置くってスタンスだけどね」

「最低部員数は三人なのか……それなら俺も置くってことなら容易だぞ。部活にも参加となると厳しいモノがあるな。バイトもあるし」

「バイトは私と同じ時しか入らないから問題ないわ。私は週二だから、神崎君も週二よ」

「準備良すぎじゃないか? なぜそこまで拘るのかが知りたいのもだが?」


 俺がそう言うと間戸井は遠くを見ているような目をする。


「ずっと独りなの。入学から今も……ね」


 きっと彼女は俺みたいに人を救いたいのだろう。だがわかってほしい。俺達は別に救ってほしいとは思っていないのだ。今の環境が全てで固執できる唯一のモノ。それを壊されたくないという気持ちも理解してほしい。


「救いたいという気持ちは良く理解できた」

「ならッ」

「それでも無理なものは無理だ。俺には出来ないことだからな。人を救うなんて馬鹿げたことなんか」

「神崎君……そう。忘れて頂戴。この案件はなかったことでよろしく」


 間戸井は悲しそうで苦く辛そうな笑顔を俺に向けた。俺にはただ罪悪感しか残らなかった……しかし俺は悪くない、悪いのはこの案件を持ってきた彼女自身ではないか。と、言い訳の連発で永遠のループを繰り返す。


 俺はきっと弱ったモノにひどく同情を押し付けてしまうのだろう。勝手に哀れみ手を差し伸べてしまうのだろう。

 全く青春よ、チリになっちまえ!


「ど、どこに部室が、あるん……だ?」


 すると間戸井は先ほどとは打って変わって笑顔に変わり目を輝かす。


「第二棟の最上階、一番奥の部屋よ」

「ま、まぁ気が向いたら行ってみよう」

「入部してくれるのね」

「入部はそのあとに考えさせてくれ」


 五時限目開始の予鈴が鳴る。焦って教室に入ろうとした俺に間戸井は小さくてを振りながら。


「期待してるね」


 彼女はそう果敢ない笑顔を見せた。きっと彼女は俺でなくても良かったのだろう。ただ親密な奴が他にいなかったとかっていう単純で安易な理由だろう。それに振り回される俺の気持ちもわかってほしいものだ。っていうか“親密な奴が俺以外にいない?”となると……俺って本当に好かれてんのか間戸井に。間戸井に!?

 それより部活のことだな。入学からずっとボッチ……心当たりがないわけではない。生徒からは嫌われておらず、むしろ人目を集めているほうだ。だからボッチでいる。もし俺の思っている奴なら悪くないかもしれない。

 行くだけ行ってみるか――。

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