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白華々美佳奈はやっと晴れることができた。

 学校までの行き先が曖昧な俺はありがたいとも思いながら、間戸井の背を見つめながらついていく。女生徒の制服を久しぶりに見たからだろうか……俺の心は弾んでいるようにも感じる。

 そう、可愛いと判別してしまったようだ。


「家がなんでわかったんだよ」

「先生に聞いたのよ」


 先生も大概だな。生徒の個人情報をいとも簡単に他生徒に口走るとは。


「それよりあなた……神崎君には妹がいたのね」


 “神崎君”? もしやこの女、人をあまり名前で呼んだことが無いとか。少しはかわいらしいところがあるみたいだ。


「言ってなかったっけ?」

「言ってなかったわよ! 違う高校のようだけど」

「あぁ俺より優秀な妹はもっと偏差値の高いところに通っている。俺は兄として自慢できる妹を持ってしまったことに苦痛まで覚えてきた」

「まぁあなたが落ちぶれているからね」

「可愛すぎるから他者から我が妹の守護神と化して防衛しなければならない」

「それが苦痛かどうかはわからないけど、一つわかったことがあるわ」

「なんだよ?」

「あなたがすごいシスコンだったってこと」

「フッ」


 鼻で笑える。そんなこと……。


「気づくのが遅いぞ」


 俺は威張り気味に間戸井に突っかかった。

 シスコンのどこが悪いのか……否。誰も悪いなんて言わない。何かを言うとするならきっと……。


「気持ち悪いわ」

「うぅッ……」


 そう“気持ち悪い”だろうな。遠回しな否定ほど返す言葉が見つからない……そんな俺は口をつぶるほか無かった――。



 「着きそうよ」


 わかっている。なぜなら見かける生徒数が半端なく多くなってきたからだ。周りの生徒は俺が誰かわからないだろうが、隣のこの女は違う。みんなのアイドル的な、スポットライトに常に照らされているような、源光のような存在感がある女生徒であるようで。


「間戸井さんおはよぉ~」

「高木さんおはよ」

「見て見て、間戸井さんがいる」


 間戸井の周りは間戸井をはやし立てるように挨拶が飛び交い続ける。

 そんな注目を浴びている彼女の隣にいる俺は非常に不愉快と思うばかりでしかない。それに耐えきれないとわかった俺はスタスタと先に行こうとすると。


「ごめんね、急がないといけないから」


 そうして間戸井が俺を追いかけるようについてきた。マジ察しろ! こいつは俺を救いたいのか、はたもや奈落の底に本格的に落としたいのかどっちなんだッ。

 それにしても聞こえてくる。周りの生徒が俺を視界に認証し“あいつ誰”という囁き声が聞こえてくる。なんという屈辱だろうか。これが青春というのなら不幸とは青春ということにならないか? まぁ俺は絶対にこれっぽっちも認めるわけはないがッ。


「誤るわ」

「誤ることはないだろう」

「え?」

「まぁ俺のことを知ってる奴なんてそうもいないわけだし、学校の有名人がこんな落ちぶれと一緒にいればどうなるかは分からないわけでもないだろう」

「私が有名? 面白い事いうわね」


 気づけよ。こんだけ人が集れば、思わないことでもないだろう。


「それに神崎君」

「どした?」

「問い直すけど、私が有名に見える?」

「この一連の騒動みたいなのをみると、な」

「そう……実は私有名なのよね」


 知ってるならさっきの言葉はなんだったんだ! それに認めてるところもどこか腹立たしい。


「この学校には私以外にも有名? というか人目を引くような人が何人かいる。だから有名かどうかというと曖昧なところだけど有名ということにしておこうか」

「大変そうだな」

「あなたにはわからないわ」


 御もっとも。


「私達の教室はここ、二年一組よ」

「ハァ~……緊張する」

「この時間なら生徒はそうも多くないはず」


 そういいながら間戸井はため息を一つ零し教室のドアを開け中へ入っていく。俺も尻に引かれるように入室。


「間戸井さんおはよぉ~」

「間戸井さんだぁ~、今日もかわいい」


 などと間戸井はやはり有名ではないか……人気なのか? どちらにせよ同じようなこと。

 間戸井との挨拶をしながら視線をこちらにチラチラ向ける生徒達。


「俺の席どこ?」


 間戸井に小声で問うと席の場所を教えてくれた。俺は一直線に自分の席へ座り込み両耳にイヤホン、両手には読み飽きた小説。そのスタンスでこの場を乗り切ろうと自棄になる。

 隣の席に誰かが座ったのが視界に入ってきたが小説に視線を置いた。すると隣の生徒は俺の右肩をツンツンと突いてきた。イヤホンを取りたくなかった俺は、イヤホンを耳にはめたまま隣の生徒に視線を移す。

 隣はジョ、ジョ、女生徒だった……イヤホンし音楽を流しているため、その女生徒の声は聞こえなかった。それを知ったのかイヤホンの片耳のほうを外してきた。


「聞いてる?」


 こんな至近距離でイヤホンを取られるとは……手が近い、近い……いい匂いが鼻の先に香ってくる。これはズルいだろう。


「えっと……なに?」

「だから久しぶりだねって言ってるの」


 久しぶり? どこかで会ったか?


「えぇ~っと……俺は初めましてなんだけど」

「な、なに言ってんのッ。一年の時同じクラスだったじゃん」


 “じゃん”と言われても俺は覚えがない。


「今日からよろしくでもいいかな?」

「別に構わないけどね。それでこれまで何してたの?」

「引きこもりってやつ」

「うっわ……成績優秀だったのに、勿体なッ」

「そんな称号あっても仕方ないから」

「で、間戸井さんとはどういう関係性?」

「友達じゃないの?」

「友達かぁ……私ってほら、こうんな風にフレンドリーに会話するから」

「答えになってないぞ」

「だから、みんな友達でみんな上辺」


 この返答は納得できなかったが、納得できてしまう奴もいるのだろうか。


「それみんなに言ってんのか?」

「言うわけないないってッ。嫌われちゃうし」


 俺には嫌われていいってことになるけど大丈夫なのか?


「まぁ嫌われるのが怖いってことは大切にしてるってことだろ? 友達って認識に変換してもいいんじゃないか」


 友達いないからわかんないけど、という無駄な一言を省くことにした。


「そ、そっか……神崎っていい人なんだねッ」

「今更かよ」

「もう一度、自己紹介するけど私は【白華々美 佳奈】よろしくッ」

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