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神崎有は歩みだす。

 「お兄ちゃん! 起きてぇー! 学校でしょ!」


 真央の声がドア越しというのにかなり響いて聞こえる。

 そうだったな、学校だっけか。はぁ~……ここまでくると引けないけど面倒だなぁ。何が面倒かって、学校に行くまでが暑い! クラスに入ったとき“あいつ誰”ってなるだろ? まずクラスどこかわかんないし、休憩時間とかマジ死にたくなりそう。


「起きてぇーー!!」

「うるせぇよ!」


 この一言しか出てこない。


「あ、起きてるね」

「あぁ着替えたら……俺の制服どこだっけ」

「部屋開けるよ」


 “開けるよ”と言いながら開けないでほしいものだな。許可もくそもないな、こいつ。しかし制服の場所は真央にしかわからないから仕方がない。俺は一切触れていないのだから。


「部屋きったなッ! うわッ! なにこれ!?」

「バカ! そこはゲームのパッケージあるからッ!」


 てんやわんやだが真央が押し入れから制服を取り出してくれた。


「袋被せといてよかったね」

「あぁ助かったな。じゃぁ着替えたら下りるから」

「うん! 久しぶりだなぁ~制服姿」


 親か!? 



 リビングへ下りると真央が姿勢正しく俺を待ってくれていた。


「お、お待たせ」

「おぉ! やっぱり制服似合うねッ」

「はずいからやめてくれ」

「それにしても寝癖酷い」

「かっこいいだろ?」

「これだから友達が出来ないんだよぉ」


 真央は呆れ交じりにそう言った。


「出来ないんじゃなくて作らないだ。孤立している俺の居場所は俺の心の中だけだ」

「意味がわからないんだけど」


 すまん、俺もだ。


「食べよっか」

「そうだな。そのあと寝癖どうにかしてくれないか?」


 前髪をつつきながら俺はお願いした。


「お任せあれ!」


 今日の真央は調子が良さそうだ。こんなテンションがハイな女子に声を掛けられたら惚れてしまえる。と言うか、惚れないとおかしいほどだ。間戸井より真央派だなやっぱり……まず我が妹以上に出来た女性はいないと確信しているわけだがどうだろう。

 【我が妹グランプリ】なんかあった日には圧倒たる優勝だな。そして俺にはブーイング……悲しい事を妄想したような気が……。


「真央は最近学校どうなんだ?」

「楽しいよ」

「楽しいとは? 彼氏とか?」

「彼氏なんかいないよぉ~。女の子友達だよ。いろんなこと話して笑って過ごしてる」


 聞いてるだけではどこが楽しいのか判断しかねてしまう。真央は会話するだけで“楽しい”という感情が溢れるらしい……俺にはわからんが、そうなんだろう。何がそうなのかわからないが。


「彼氏作らないのか?」

「彼氏かぁ~……いらないかなぁ~」

「なんで?」


 リア充は言うことが違うということか?


「お兄ちゃんの世話で忙しいから?」

「何故に疑問形? ってか俺はペットではない」

「でも世話してるもんじゃない?」


 確かにそうだ。“飼育”していると言われない分、許してやるか。


「俺に彼女が出来たらどうする?」

「笑えるけど」


 なんだと!? ちょっとバカにし過ぎじゃないか?


「でも素直に喜んじゃうかな……そしてちょっと悲しい。まぁそしたら、お兄ちゃんの世話任せて私も彼氏作るかな」

「そうか」


 俺の妹に彼氏!? 彼氏彼氏と言ってはいるが本当のところ、お兄ちゃんは許しませんからッ!


「私はお兄ちゃんのこと応援してるよ!」

「お兄ちゃんとしてカッコいいとこ見せないとダサいかもな」

「そうだよぉ~そろそろカッコいいところの一つくらいさ」

「仕方ないな」

「期待……してるよ!」

「俺が本気出したら俺の部屋にマネキン置いてあるから気をつけろよ」

「そ、そんな未来見たくないよーー!!」

「まぁそろそろ行くから寝癖どうにかしてくれ」

「オッケェ」


 他人に頭を触られるというのがこんなにも危機感を感じるのは仕方ない事なのだろうか……まぁ寝癖が直るのならいいが。


「出来たよ」

「おぉ……これ寝癖完全に直らなかったのか」

「たぶん癖毛」


 かなりマシになったほうか。


「じゃぁ行くか……俺ってどうやって学校いくんだ?」

「徒歩! 忘れ過ぎじゃない? 大丈夫?」

「あ、あぁ……大丈夫だと思う。真央は?」

「私は間反対だから」

「あ、あぁそう?」

「頑張ってねッ」


 他人事だなぁ……こんな適当な励まし方を俺はされたことがない。あ、まず励まされたことがありませんでした。

 インターホンが鳴り響く。


「誰だろう」

「新聞だろ? 取ってますっていうしかないだろ?」

「いつも新聞屋だったら、もう仲良くなってるよ」

「じゃぁ誰だよ」

「ちょっと出てくるね」


 リビングから微かに聞こえてくる対話。


「どなたですか?」

「間戸井真登と言います」


 な、なんだって!? もう一回言ってみろ!?


「えぇ~っと……なんの用ですか?」

「間戸井真登だと有君に伝えてください」


 間戸井真登がなぜ……ストーカー!? 学校で待っとくんじゃなかったのか? 何をしに俺の家まで招いてきたんだよ……誰もあなたを招待していないんですが!?


「お兄ちゃん友達来てるよ」


 おい真央、最近の中で一番傷つくこというんじゃねぇよ。俺には“友達”なんていません。ってか“友達”なんて出来たことないほどまである。


「んだよ」

「あら学校行くんでしょ?」

「学校で待ってるんじゃなったのか?」

「待ちきれなくて来ちゃった」


 可愛くねぇ~。むしろ恐怖でしかない。


「お兄ちゃんに彼女さんが!?」

「彼女の真登です」

「茶番はよせ。これから出ればいいんだろ?」

「そういうこと」

「はぁ~……じゃ行ってくるわ」

「あ、お兄ちゃん」

「どした?」


 靴を履き終わったところに両手で、綺麗に布で包まれた弁当というのを渡された。これが妹じゃなかったら告白してフラれ自殺しちゃうかもな。


「サンキューな」

「いってらっしゃい!」

「行ってくる」

「間戸井さんよろしくお願いしますね」

「任されました」


 お前ら今日初対面だろ? 仲良さげにしてんじゃねぇよ。

 それに俺は妹に捨てられたということだ。この女に押し付けたのだから……悲しいな、お兄ちゃんなのに。

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