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神崎有と間戸井真登はどこか交わる。

 買い物に付き合うことになったが付き合う理由が見当たらない。


「なぁ」

「なによ」

「なんで買い物についていかなくちゃならないんだ?」


 間戸井さんは俺に顔を見られないよう反対方向を向く。


「べ、別にいいじゃない」


 俺からしたら“別によくない”ことかもしれない。


「じゃぁなんで俺なんだよ」


 そう言うと間戸井さんは呪文を唱えるかのようにブツブツと俺には聞こえない程の小声でつぶやいている。なぜ俺なのか……という問いは俺自身ではどうにもならない問いである。


「聞こえないんだけど……」

「秘密よ」

「それは間戸井……間戸井さんの」

「呼び捨てでいいわ。“さん”付けなんて気持ち悪くて性に合わないしね」

「じゃぁ間戸井はさ」

「うん、何?」

「秘密と言ってるけどそれは間戸井の価値観なわけで俺の価値観とは違う……だから、まぁ言ってくれてもいいんじゃないかなって」

「バカね」


 間戸井は右手を口に当て笑いながら俺を貶す。


「価値観が違うから秘密ができるの」

「うぅッ……確かに」

「私のほうが優秀じゃないの?」

「俺は優秀ではないからな」

「自惚れないのね」

「そんなこと思ったって得はないからな。自分が優れているなんてさすがに浸りすぎだろ? そんな奴ほどバカな奴はいない」

「自分が優れていないという考えは本当に劣っていると感じている人達からしたらどうかしら。それこそ浸っているのでは?」


 間戸井は俺の一問一答を適格にひっくり返すかのように応じてくる。すごく面白い……こんなひねくれてる思考の持ち主と会話できるなんて最高だな。どこか俺達は似ている。だが議題がどんどん変わって行ってしまっている……がな。


「劣っていると感じているのが間違いじゃないのか? それこそ劣等感に浸っている証拠だ。だから俺に押し付けられても困るな」

「負けたーー!」


 いきなり間戸井は勝負すらしていないのに負けを認めた。そしてふくれっ面をした。


「こんなことより、何を買いに行くのか教えてくれないか?」

「普通に食材よッ。今日の夕飯の食材」

「間戸井って独り暮らしだっけ?」

「中学卒業して出てきたのよ。それで独り暮らしなの」

「偉いな間戸井は」

「引きこもってる奴に言われたくないんだけどッ!」


 なぜ引きこもりだとバレた!? そんな俺の今の顔は引きこもりみたいな顔しているのか……。


「勉学も部活も頑張って且つ独り暮らしだから家事全部やんないといけないし……かなり大変だろうに」

「私が決めたことだから仕方ないわ」

「妥協しないんだな」

「一番嫌いね」

「そうよ……」


 “妥協”という概念が嫌いな彼女だから俺のことを根に持っていたのか。まぁそうだよな。

 俺は毎時限のように居眠りをする生徒だったのだがテストでは学年トップ……これを氷山の一角というのか天才というのかは俺が決めてしまうことではないが、あえて何か付けるというのなら【隠れた才能】と付けようではないか。まぁその態度が間戸井を腹立たせているわけなんだが。


「ここで買い物するの」


 近所ではそれならに広いスーパーだ。


「今日の夕飯は何にするんだよ」

「教えないわ」


 そのくらいいいだろ……。

 しかし、あれだなぁ~……食材みていたらわかっていっちゃうんだよなぁ~。


「間戸井って和食派なのかぁ」

「なッ! なんでわかったの?」

「味噌汁と鯖の塩焼きにたくわん、ほうれん草のお浸し……か」

「ちょッ!? えッ!? な、なんでッ!?」

「誰でもわかんだろ」

「え、本当に?」

「だから言ってんじゃん。まぁいいんじぁねぇの」


 間戸井が何かごにょごにょと言っているが聞こえはしない。


「なんて言った?」


 俺は間戸井に近づくと後退りされた。


「きょ、きょ……も、も……」


 あまり聞こえない……。


「聞こえないんだけど」

「今日、もしよかったら食べさせてあげなくもないわッ……って言ったの!」


 いやいや、怒るところでは無いと思うのだが……聞こえるように話せよ。ツンデレっぽく喋ったらかなりゴチャゴチャになるということが今日わかった気がする。

 どうするかなぁ……真央が夕飯作ってたらなぁ。今は十九時だぞ。


「いや遠慮しとくよ」

「は? 来ないと口止めできないでしょうが」

「誰にも言わねぇし、行っても得がない」

「う、嘘じゃないでしょうね」


 どんだけ俺は疑われているんだ。だから友達といった人が出来ないんだぞ……俺もだが。


「買い物はそんだけか?」

「そ、そうね。お会計に行ってくるわ」

「あぁ」


 周りを見渡すとチラチラと同じ高校の制服を纏っている奴らが見受けられる。かなり気まずい……ここに俺を知ってる奴なんて現れたらたまったもんじゃない……。


「どうしたの?」

「い、いや居づらいなぁ……と」

「そうなるわよね。さっさと帰ってしまおうか」

「それが助かる」


 買い物袋案外重そうだな。まぁ持ってやらんでもないか。


「え、何?」

「重たそうだから……」

「このくらい大丈夫よッ」


 間戸井は強がっているのか素なのかわからないが、それでも俺は袋を奪う形で持った。すると間戸井は目を丸くしてポカンと口を開けた。


「なんだよ」

「ま、まぁありがとう」

「大層なことでもないだろ」

「そ、そう……ね。食べて帰らない?」

「え?」

「二人くらい変わらないし……」


 俺は誘惑されているのだろうか。俺はこの女に落ちてしまっていいのだろうか……否だ。それに噂なんてされたら本当に学校に行けなくなるしな。断るしかないだろ。


「お願いするよッ」


 ん? 俺は今何を……。


「本当にいいの?」


 いかんいかん、断らないとな。


「お邪魔するよッ」


 ファッ!? なぜ断らないんだ……きっとあれだな……本能が決めてしまったのかもしれない。なんせ童貞だからな。


「間戸井こそ大丈夫なのか?」

「え、えぇ私は問題ないわ。その代り襲うのは絶対に禁止だからね!」


 この女自分に自信持ちすぎじゃねぇの。自分を過剰評価することをダメなこととは言わないが、友達出来ないと思うのは俺だけか? そんなことはないだろう!


「間戸井家はここからどんくらいなんだ?」

「そうね……」


 間戸井は目を斜め上にあげ考えているようだ。


「たぶん五分ちょいかしら」


 そんくらいなら考えなくてもよくないかッ! わからない……間戸井真登はこんなにも神経質なのだろうか……違うな。ただ単に真面目なだけだったか。


 五分くらいだろうか。歩いたところで間戸井は足を止めた。


「もしかして……お前の家って……」

「ここよ」

「首が痛い」

「高いから仕方ないわね」

「どっかのお嬢様なのかよ、間戸井って」

「両親がどちらともビジネス会社の社長ってだけよ」

「ここも営んでるのか?」

「えぇ」

「すげぇな」

「私はそうは思わないけれど」


 間戸井の少し曇った目が見えた。きっと間戸井は間戸井なりな考えがあって、それはきっと一般的な俺のような人間には理解不可能なんじゃないか。


「大変そうなんだな」

「あなたにはわからないわよ」


 間戸井の抱えている苦悩は俺にはわからないし、これから先だってわかるということは難しい。


「あぁわからないけど何か思っているのくらいはわかるからな」

「なにそれ、慰め? なら止めてくれない。私は慰められるのが嫌いなの」

「慰めなんて思うのはお前だけだな。これは忠告だ」

「忠告?」

「そう、忠告だ。このまま溜めたって爆発するだけだ。それを阻止するためになにか動かないといけないだろ? っていう忠告だ」

「何かとは?」

「それは俺にはわからない、間戸井自身がわかっているはずだ」

「あなたって意味のわからないこと言うわよね」

「うぅ……」


 そうなのかもしれない……よく妹に言わてしまう。意味はわかるはずだ……だが納得は出来ないのだ。だから“意味がわからない”と言い訳をする。

 言い訳がいいことだとは思う。人間いつだって言い訳三昧でそれで生きてきているのだから。しかし言い訳を使ってもいい場面とそうでない場面は理解しなければいけない。

 これは俺の持論ではあるのだが“言い訳”が過ぎると“逃げ”に繋がり“虚言”という限度、階級がある。それを判断するのは自身ではなく他人である。

 まぁ何が言いたいのかというと、今回に限っては間戸井に素直になって欲しかった……ただそれだけだ。


「ここが私の部屋よ」


 一〇二三号室……覚えてしまわなくてもいいのだろうが何かと覚えてしまえそうな番号の順列だ。

 女子の家に上げるというのは何かと気恥ずかしさもあり、抵抗がすごくある……モゾモゾとしていた俺を出迎えてくれるかのように間戸井は両手を広げる。


「いらっしゃい!」

「あ、あぁ……お、お邪魔します……」

「何恥ずかしがってるのよ。私以外誰もいないんだから楽にしなさい」


 間戸井の言う通りなんだろうが、それになるのは不可能だ。


「ハァ~……とりあえずこの部屋は開けないこと! わかった?」

「わかりました」


 寝室なんだ。女子の寝室ってどんな感じなんだろうと妹持ちな俺が思ってしまっている。

 別に変態だとか、そんなわけ……あるかもしれない。誰だって思うだろ? 女子の布団っていい匂いなんだろうなぁ~ってさッ!


「こっちがリビングよ」

「ひっろいな……」

「あなたには合ってない空間ね」

「広すぎて邪魔だな」

「どういうことかわからないんだけ……料理するから手伝いなさい。手伝わない奴にはないわ」


 誘っといてこれかよ……持成してくれるんじゃないのかよッ。


「俺は何をすればいいんだ?」

「ほうれん草を茹でて頂戴」

「わかった」


 水を鍋にいれ沸騰まで待つことにしたが効率を考えほうれん草を切ることに……。


「ちょっと! 何やってるの!」

「ほうれん草を切ってんじゃん。見ればわかるだろ?」

「なぜ切るのかってこと」

「茹でて切るのも、茹でる前に切るのも一緒かと」

「はぁ? あなた料理したことは?」

「すまんがない……」

「ハァ~……引きこもりだったわね……」


 間戸井は長くため息をついた。


「料理ももう私がやるから座って待ってなさい」

「あ、あぁそうさせてもらう」


 真央に連絡しとかないとな。


『もしもし、お兄ちゃん?』

「あぁ俺だ」

『どうしたの?』

「今日の夕飯はいらない」

『え? どうして?』

「高校一緒の奴の家で食べて帰るから」

『もしかしてバイト先で出くわしたとか?』

「ま、まぁそんな感じだから今日は……」

『女子? 女子なの!?』

「もういいか? 切るぞ」 

『はぁ~い。気を付けて帰ってきてね』

「任せろ」


 電話が終わる。

 お、キッチンからいい匂いがしてきた。

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