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神崎有は自分を騙す。

 面接……一年と少し前に初めてやったこと……変に緊張してしまうから俺はこれから、いつまで経っても苦手なモノとして挙げていくだろう。面接ってのは他人と、どう対応し話すことができるかが鍵ではないかと俺は勝手に推測している。

 まず、知らない人間との会話をしてきていない俺は今……憂鬱だ。だが、辿り着いてしまったのはなら意を決して立ち向かわねば妹にいい顔出来まい。

 肩の力を抜こうと思っても抜けやしない……今の俺は……。


「かっこ悪い俺だ」


 そう認めてしまうと却って緊張が解けていきそうだ。

 青春のためだけにバイトをする俺が一番青春しているのではないか……なんて思ってき始めたが、それを決めつけるのは浸ってしまっている証拠で、そこが終わりに見えてしまう。だから俺は決めつける。


“青春と断言してはならない”


 と――。


「さぁ、面接だ」


 店内に入るとピロンピロンと入店音と共に定員が出てきた……のだが……。


「いらっしゃ……い、ませ、ん」

「い、いらっしゃいません?」

「あ、あなた……生きてたの?」


 いきなり“あなた”呼ばわりされた。

 この女は【間戸井 真登】という女で高一のときに同じクラスだった。学校中でかなり話題になっている女子生徒である。なんたって学校内トップを誇る美人さ可愛さなのだから。優秀かと言われると俺より劣っているが俺よりも目立っていた人間だ。俺からすれば間戸井が目立ってくれたおかげで学年一位だった俺でも静かに学校生活を過ごせていた。ボッチだったが……。


「あなた今何してるの?」

「これからバイトの面接だけど」

「これから面接なのに、なんでここにいるのよ」

「わかれよッ。ここでバイトしようと思ってだな……そんで面接だ」

「私が落としてやるわ!」

「どんだけ権力握ってんだよ! 絶体店長落としてんだろ!」

「は? 店長なんて興味あるわけないでしょ。それより面接ね」

「あ、あぁ」

「待ってて、店長呼ぶから」

「助かる」


 それから十分が経過ようとしている。その間従業員の三人から……。


“お一人様ですか?”

「いいえ、バイトの面接にきてまして……店長待ってるんです」

“そうですか”


 という会話を繰り返ししてしまった。そろそろ“お一人”が“お独り”に変換されてしまいそうなんだがッ。


「あぁ~ごめんごめん。神崎君だよね?」

「はい」

「面接は事務所でやるから中へ入ってって」


 胸元のネームプレートに“店長”と書かれてある。雰囲気的にはまだ話せそうだからいいか……。

 なんて思っていたが、面接になるとそれとは裏腹にとてつもなく気だるそうな店長の姿が目の前には広がっている。


「じゃ、面接しようか」

「お願いします」

「って思ったんだけど……面接するの面倒だから一つだけ聞くよ」

「は、はい」

「神崎君はなぜバイトをしようと思ったの?」


 俺の中では恥ずかしくないこと……それが俺にはある。


「青春を終わらせたくなかったからです!」

「ほぉ~」


 なんか納得してくれたみたいだけど大丈夫か。

 不安すぎて視線がどんどん下へと下がって行ってしまう。


「採用にしよっと」


 かっるーーーー! それは大丈夫なんですか? 店長ですよね? 実は聞かなくても受からせるつもりだったとかかな……この店長……この店長の下だったら……“楽”ができる!


「あ、そうだ」


 店長は何かを思い出したかのように俺に問う。


「間戸井さんと知り合いなの?」

「店長。その男とは知り合いというレベルにまでも達しておりませんがッ」


 面接中だというのに俺の背後から突き刺すように間戸井は物申した。別にそこまで否定しなくたっていいのに……。俺ってそんな悪い印象与えてたっけか?


「じゃぁ顔見知りでいいのかな?」

「うぅッ」


 間戸井は“顔見知り”と認めてしまったらしい。


「同じクラスだったんですよ。まぁそれだけですけど」

「そうなんだ。それなら神崎君の教育係は間戸井さんということでいいかな」

「店長がそういうなら……」


 間戸井は俺を睨みながらしぶしぶ事柄を飲み込み頷いた。


「よろしくね、間戸井」

「なんで呼び捨てなのよ」

「あ、はい。間戸井さん」

「わからないことがあれば全て教えてあげるから、なんでも聞いてね」


 そういい間戸井……間戸井さんは事務所から姿を消していった。


「悪い子ではないから……」


 店長がさきほどの会話で心配してくれているらしい。


「知ってますよ」

「そ、そう?」

「はい、大丈夫です」


 俺は彼女を少しだけ知っている。高一のとき、ずっと成績学年二位だった間戸井さんは学年一位の俺を抜こうと熱心に勉学に励み、勉学共に部活動まで手を抜いてはいなかった。毎回テスト後日に学年順位が張り出されるのだが、そのときにわざわざ俺のもとまで来て……。


“次はあなたが下よ”


 と捨て言葉を吐いて去っていく……自分に厳しく、とても素直な優しい女の子だ。さぞ、この社会は嫌いだろう。


「一応これで面接はお終いだけど、なにか質問とかあるかな?」

「今のところは無いです」

「じゃぁ初めのバイトの日にちだけど……どうしようか」

「次、間戸井さんがシフト入ってる時間帯でいいです」

「それなら……」


 店長はシフト用紙にしばらく目を通すと。


「それなら明後日の夕方の……五時だね」

「大丈夫です」

「なら明後日お願いね」

「わかりました」

「今日はこれくらいだね」

「では失礼します」

「は~い」


 カウンターで間戸井さんを見かけたがそのまま帰ることに……。


「なに帰ろうとしてんのよ」


 え?


「もう店長が帰っていいってさ」

「は? そういうことじゃなくて。どうせこの後暇だから買い物に手伝わせてあげるわ」


 めちゃくちゃだ。どう捉えればいいのだろうかと……悩ましいほどに、本当にめちゃくちゃだ。ってかツンデレ要素らしきものが含まれていないだろうか。


「俺はこれから帰ってゲームしたいんだけど」

「あなたのことなんて知ったことではないわ。今日は買い物に付き合いなさい」


 この女、友達いんのか? 絶対にいそうにないな……反感を買ってそうな生徒会長にも見えなくもない。


「まぁいいけど」

「そ、そう」


 間戸井さんは少し驚いた表情だ。別に不思議なことではないだろう、買い物に付き合うくらい。これを青春などとは思っちゃいないが、勘違いはしてしまう。

 間戸井さんは俺のことが好きでも嫌いでもない……たぶん。人はいつだって勘違いする産物だ。異性に声をかけられる……それだけで“自分に興味を持っいるのかな”なんてことを思ってしまえる。今回のように“誘われる”というのは大きな勘違いをしてしまえる。それを知っている俺は騙されない……そんな世界の法則のような人間性など俺は認めない。


「じゃあどっかの店で待っとけばいいのか?」

「あなたバカじゃないの!?」

「あぁ~はいはい。勘違い……されるかもしれないもんな」

「そ、そうよ」

「それなら中でいいか?」

「まぁそうね」


 こういうことだ。なぜ待ち合わせすら堂々と出来ないのだろうか。なぜこんなに息苦しいのか……この疑念は晴れることは今は無いのだろう。晴れる日が来るとすれば、それは“青春”のど真ん中ではないかと――。



 それから店内で待っているがまだ上がる時間ではないらしい。誘った本人は何を考えているのだ! こんなことなら帰ってしまえばよかった……。

 買い物の荷物なんてたかが知れているはず。それなら俺がいる意味って……ないんじゃないのか? ただ話し相手が欲しかったとか、一人でいくのは暇すぎるとかっていう理由なら流石の俺でも叱ってやる。


「何か飲むか。カフェラテ、カフェラテ……」


 メニュー表を開き指でなぞるようにカフェラテを探していく。


「な、ない……」


 コーヒーでいいか……。


「あの、すみません」


 たまたま通りかがった女性店員さんに声をかけた。


「どうされました?」

「アイスコーヒーお願いできますか?」

「かしこまりました。それでは少々お待ちください」


 しばらくしアイスコーヒーが来た。


「お待たせしました、アイスコーヒーです。ごゆっくりどうぞ」


 綺麗な店員さんだと目を取られていると背後から。


「あんた何見てんのよ」

「ま、間戸井……さんかぁ」

「早く行くわよ」

「アイスコーヒー頼んだから飲むまで待ってくれ」

「ハァ~……仕方ないわねぇ」


 優しいのか当たりが少し強いのか微妙にわからん女だな。わかってるようにしてた俺が少々恥ずかしい。

恥ずかしさで暑くなってしまった心をアイスコーヒーで冷まそうか。

 では、一口……。


「ん!」

「どうしたのよ」

「い、いやぁ~……あんま美味しくなくて」

「入れる人によってかなり味違うからね。私が入れるコーヒーは別格よッ」


 自信満々にいってるが“美味しい”のか“もっと不味い”のかどっちがどっちだかわからない。


「じゃ、じゃぁ今度入れてもらおうかな」

「いやよ」

「そ、そうか……」


 即答で拒否されてしまった。

 美味しくはないが早く飲まなければ間戸井さんに失礼だろう……一気飲みを企てたが飲みたくないというほうが強く無意識に自分よりアイスコーヒーを遠ざけてしまった。


「もういいの?」

「ま、まぁな」

「そんな美味しくなかったの?」


 と、間戸井は俺の飲みかけのアイスコーヒーを手に取りだし口元へと運ぼうとしている。


「ちょ、ちょ!」

「ん? 何よ」

「おま……それは、ないだろ」

「何が? ……もしかして間接キスとか、なんとかって気にしてんの?」

「そ、そりゃぁ~誰だって気にするだろ」

「別にあなたが口をつけたところでは無いところから飲めばいいだけの事でしょ。なにいってるんだか」


 間戸井さんは呆れながらアイスコーヒーを飲む。

 確かに間接かと言われれば違う気もしなくもないが、やはり同じものを“共有”するとなればそんなことも思えてしまう。


「確かに美味しくはないわね」


 間戸井さんも同意見だ。それにしたって半分以上あったものをあっという間に飲み干すとは……俺とは別種だな、この女。


「よし! 買い物いこっか!」


 笑顔で俺を誘う間戸井さんはなんだか可愛い……俺の目は腐ってしまったのだろうか。今回ばかりは騙されたということでいいのかもな――。


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