神崎有は期待する。
再び部屋に引きこもりパソコンのキーボードをカタカタ鳴らし、マウスでカリカリとスクロールし求人募集要項を見ていく。
「ふぅ~……時給で考えるべきか、楽さで考えるべきか」
目に留まる要項はいくつかある。その中から決めてしまおうという魂胆。しかし思うように自分の理想なバイトはなかった。
理想なバイト、それはすなわち。
“楽して金稼ぎ”
と、まぁ非現実的な理想像である。ないことはわかってはいるが、それでも少しくらいは可能性というものにしがみ付きたかったのだッ。今現在、楽をしている俺はこれからも楽がしたい! その一心なのかもしれない。
「やっぱ面倒だなぁ~」
この一言ですべてが終わりそうだ。とはいっても始まってもいないモノを終わらせることなどできやしない。クソ面倒だが再度募集要項を見ていこう。
あれから三時間程だろうか。探しに探しまくった結果一つのバイト募集要項に絞ることが出来た。
“ワースト カフェ”
というとこだ。“最も悪いカフェ”ってなんだよ……そう思いつつ、しかし自ら決めたことだ……後ずさりなんて自分自身に認めない。
Web応募と電話応募の二つの選択肢があった。普通に考えてWeb応募だ。
「いや、待てよ」
Web応募より電話応募のほうが受かりやすかったりするのだろうか……もし、電話の対応ができるとここで知らしめることが出来ればバイト面接に受かりやすかったりするのだろうか……でも、Web応募のほうが正確な記入になるし、今電話して店長がいなかったら再度連絡をしなければならないという面倒さが増してしまう。
一つ長くため息をつき携帯電話を取り出す。
“お待たせいたしました。ワーストカフェ店の櫻井です”
「あ、あのぉ」
“はい!”
「そちらの求人募集要項を見させていただきまして、そちらでバイトをさせていただきたいなと思いお電話させていただきました」
“ありがとうございます! それではいくつかお聞きしてもよろしいですか?”
「あ、はい。大丈夫です」
それからいくつか応答して日時を指定され、その際に履歴書の提出をお願いされた。
これほどまでに電話というものに緊張したことがない。まず電話することが無かったからかもしれない。もしくは、コミュ障が発動してしまったからかもしれない。っていうか誰だって初対面の人とは緊張するだろ? “しない”という人なんか俺は見たくない……認めたくもない!
「気分転換にゲームでもするか……」
“気分転換”というより毎日欠かさずやっていることなのだが、今の時間帯だとフェスティバル中で経験値がかなり貰えるクエストが山ほど出ているはず。これだから引きこもりは止められない!
「ただいまぁ~」
かすかに聞こえる真央の声に耳を傾けてしまったせいでHP四十だったのが会心の一撃をくらいHP0になってしまった。ゲーム開始から五時間経ってしまったことには驚くことも、もうなくなってしまった程に引きこもりをやっている。これは誇るべきことだと決めつけまでしてやろう。
「お兄ちゃん、帰ったよぉ~」
真央が部屋のドアを開け俺に言ってきた。
「帰ったことに関しては“おかえり”と言ってやる。しかし、ノックも無く勝手に部屋を開けたことに関しては重大な事件だと思ってほしいなぁ」
「座り心地のよさそうな椅子に座って人を注意してる奴ほどムカつく奴はいないよ」
「真央はいい目をしているようだ。この椅子……最高です! ほら、座ってみるか?」
「その誘いは断る」
「えぇ~」
「そんなことよりバイト探したの?」
「見つかったし、電話だってした。問題ない」
これでどうだ、妹よ。少しくらいはお兄ちゃんを見直したかッ。
「あ、そうなんだ。まぁそれが普通なんだけどね」
真央は鼻で笑うように俺を貶すように言った。
「とりあえず決まったし、俺の青春はまだ終わってないってことさ!」
「バイト先で青春って……高校に戻ったほうが青春の二つや三つすぐ送れそうだけどね」
「俺は友達ができない」
「そんなことをサラりと言わないで」
このオンナァー……。
「友達は出来ないがバイト仲間ならできる。どうだ? 青春だろ?」
「それは無理やりすぎない? そっちのほうが痛いと感じるのは真央だけ?」
とことん俺を追い詰めてきやがるな、我が妹よ。
「バイトの履歴書とかは明日持っていくから」
「え? お兄ちゃん履歴書もう書いたの?」
「まさか。この俺が書くと思うか? まず用紙がない。真央に買ってきてもらおうと思ってな……」
段々と眉間にシワを寄せていく真央を見て段々と小声になっていく。
「はぁ~……怒ったって仕方ないし」
「お、俺も一緒に行くからさぁ」
「じゃぁ早く支度して。真央は玄関で待ってるから」
支度というほどの支度もないためシャットダウンしたPCの画面越しで髪の毛をチェックし部屋を後にした。
外に出ると灼熱の日差しが肌に突き刺さる。目なんて開くことすらこんなほどに眩しい。
「お兄ちゃんと買い物とかいつぶり?」
「知らんけど、俺が思うに一年間は外出てないからなぁ~」
「あぁ~わかんないね」
「ってかどこに行くんだよ」
「コンビニにあるんじゃないかなぁ~って思ったんだけど……」
「へぇ~最近のコンビニってそんな便利化が進歩してってんのかぁ……知らんかった」
着いたコンビニは俺が高一から帰宅途中に寄っていたコンビニであった。
「他に何か欲しいのある?」
「金」
「こんなところで大胆に言うもんじゃないよッ」
真央は小さな声で叱ってきたが癒しのある声のせいか、そう感じることは難しかった。
周りを見渡してみたものの欲しいものなんてない。なぜなら“金”が欲しいからだッ!
「いや……なんもねぇな」
「それじゃ会計して帰ろっか」
俺達の買い物は一時間も経たないままピリオドが打たれてしまった。
家に帰還して最初に思ったこと……。
「涼しい!」
「冷房効いてるからね。はい、これ」
「あ……写真」
「ワスレテタ」
真央も片言になるまでにうっかりしていたらしい。まぁ撮りにいこうかぁ~。
撮りに行くのには時間もかからなかった。まぁ真央は夕飯の準備やらで一緒にいくことは出来なく不安でなったが、さっきのコンビニ同様くらい距離地だった。
まぁこれで履歴書書いて写真貼り付ければ明日の準備おっけーだな。高校は在学中になってるから高校のとこは記入できる。平日は夕方からで土日祝日は昼でもいい……みたいな感じで面接のとき言えばいいか。別に楽しみなわけではない。労働という一番したくないものをしてしまうかもしれないのだから……しかし青春という名の二文字を捨てることは、この歳ではまだ諦めることはできない! そう……青春のため、俺のためにバイトを仕方なしにこなさなければならない。
それで青春が送れるのかという疑問に関しては一概に答えは出せないが望むことなら出来てしまえる。だから俺は“青春を謳歌したい”と期待してバイトを頑張ろう。
まぁその前にバイトが受かればいいのだが――。