やはり青春を追いかけてしまう。
この世の中。
“青春なんかしたくない”――。
そんな奴はいないはずである。まぁいたら……いや、いないはずだ! 俺だって青春はしたいさ。したいが、出来ないのが今の世の中……なんて残酷だろう。ボッチな奴は必然的に女が寄ってこない。
認めてしまっている俺は思う……。
“生まれ変わりたい”と――。
まぁ現実的に考えて有り得もしない幻想で、叶うことのない妄想だ。そんなモノに囚われているボッチな俺は……今現在、高校にも行かず引きこもり中だ。なぜ、引きこもりかという質問など答える気にもならない。誰だって一度は思ったことがある事柄なのだから。まぁわからない奴の為にいつかッ! 話してやろう……。
とりあえず引きこもり中の俺は生活も出来ているしPCもあるし携帯だってある。かなり充実した毎日を送っているわけだが、一つだけ悩ましいことがある。それは、妹が毎日毎日“学校に行け”と推してくることだ。
「面倒だ」
思わず口に出てしまうほど面倒なのだ。妹自体が面倒ということではなく、発言が面倒なだけ。料理、洗濯、掃除といった家事を全てやってくれている妹に“面倒”なんて言えない。
こんなことをPCゲーをやりながら思いつつ視界の入っていた時計の時間をチラ見すると、いつの間にか朝の六時になっていた。最後に時計を確認した記憶では夜中の0時だったはず……時間感覚まで分からなくなってきだしたか。
「あぁ~……寝よ」
時計の秒針を目で追いながらボーっとしていると突然携帯がバイブレーション機能を発動しだす。放置するのも罪悪感があるため電話を取ることに。
「こんな朝早くからなんだぁ……妹よ」
俺の携帯の登録番号には妹しか入っていない。他の家族の電話なども入っていない。そのため必然的に妹だと分かってしまえる。
「おはよ、おにいちゃん」
「うん。で、なんだ?」
「学校の準備しッ」
「しないッ」
「はやッ……まぁ朝食できそうだから下りてきて」
「朝食かぁ。昼間勝手に食べるから冷蔵庫に入れといて」
「だぁ~~め! 一緒に食べるのッ! わかった?」
「あぁ~はいはい」
「じゃぁ待ってるね」
ここで電話は終わる。なんというゴリ押しな妹だろう。“積極的な女性は男子から怖がられるぞ”と言ってやりたいくらいだ。
可愛い妹のため、仕方なく重たい腰を持ち上げリビングへと足を向ける。
リビングに下りると妹が行儀よく俺を待ってくれていた。この妹は俺のことが好きなのかもしれない……なんて気持ち悪いことを考えてしまった。
「おぉ……」
思ってみれば妹と顔を見合すことなんて二か月ぶりだったか。家族なのに遠いな……。別に俺が悪いとか思ってないし、妹が悪いのかと言われてもそれは“ない”と断言できる。近いのに遠い他人って感じだな。
「お兄ちゃん」
「ん……なんだよ」
「久しぶりに会った妹に何か言うことは?」
「お、おぅ……久しぶりだな。元気だったか」
どうでもいい会話をぶつけて何とか場を繋ごうとしているズルい奴がここにいた。俺のことだ――。
「お兄ちゃんより何倍も元気よ。そんなくだらない事よりッ」
「くだらないって……」
「そんなことよりッ! 学校は?」
「そりゃぁ~行かないだろ、普通」
「お兄ちゃんの普通は真央にとってみれば異常だからね」
さすがにその言葉は胸が抉られそうになる。“特殊”と言ってほしいものだ。
「高校だぞ? 行く意味は? 俺はこれからもこの生活をしていくんだ!」
「そんなんで生きていけるわけないでしょ。生きていくには“金”が必要なんだから。金のないお兄ちゃんは何処かの公園で朽ち果てる運命になってしまうかもしれないんだよ」
「どうせ行っても単位取れないし」
「お兄ちゃんって成績優秀じゃなかったっけ?」
「まぁそれなりに」
俺がまだ高校にいた時期、毎回のテストで学年一位を獲得していた。別にバカな高校というわけでもない。まぁ高校入試で満点を叩き出した俺は一躍“歩く教科書”と人気者になったものだ。
「じゃぁ大丈夫でしょ?」
「どこをどう見たら大丈夫なのかがわからん。それに引きこもってるから学習なんてしてない。追いつこうにも追いつけない……お手上げだ」
「夏休み前だし行ってもいいんじゃないの?」
「そ、そんなッ! そんなに経ったのか!?」
「なにが?」
今って……七月!? エッ!? 学校行かなくなってから一年経とうとしてんじゃんッ! これって俺の青春時間の終止符が迫ってるってことだろ。おいおいおいおい、どうすんだ! 高校いっても勉学には追い付けないし、かと言ってこのまま引きこもったら青春があっという間に去っていく。
「で、どうするの? 私は行ったほうがいいと思うけどね」
「バイト……バイトしたほうがいい……」
バイトで頑張って青春しよう……仕方ない……。
「お、お兄ちゃんが労働……?」
「な、なんだよ」
「大丈夫なの? かなり心配だけど」
「今日とりあえず探して電話かけてみるから学校はいかないッ」
俺がそう言うと真央は長く細いため息をつく。
「俺がこれから“頑張ろう”って時に目の前でため息なんかついてんじゃねぇよ」
「どうせお兄ちゃんのことだから、電話と言わずバイト求人なんて探さないに決まってるもん」
「俺が本気出したら次の日からこの家にメイドいるから」
「それお兄ちゃん労働してないじゃん。ってかメイドに興味があったの……」
俺を冷たい目で見るなぁ。男は誰だって一度や二度……いやそれ以上考え、妄想豊かにしてきたはず! 自分専用メイド……うぅ~ん、なんかキモいな。オレ……。
「とりあえず今日は行かないから。じゃ部屋戻るわ」
「わかったぁ~」
自分の部屋に戻ろうとリビングを出ようとしたとき、足を止め妹に一言。
「いってらっしゃい」
この言葉だ。妹は軍人でもないのに敬礼ポーズをとり始めた。
「うん! 行ってきます!」
これが俺の仕事といっても過言ではないくらい俺の中では重要な仕事かもしれない。
しかし、頑張っている妹を見て兄の俺がダメダメでは“いかん”と思ってしまう。それが今回のバイト探しに繋がったのやもしれない。
妹の為ではなく俺【神崎 有】のため頑張って青春を手に掴んでみようか――。