表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
8/42

1 糸の町『コルティオ』

町や村は住む人や周りの環境で大きく姿を変える。


ある場所では周囲の森から切り取った木を使用し建物を建てた。

またある場所では強風で木の家が壊れるため、石や岩を削り組み立て頑丈な建物を作ってそこに住んだ。

種族的に言えば土竜人種などは深い地下に町を作り、水の中で息のできる魚人種は水の中に町を作ったと言われる。


戦争の多い国は城壁や防壁に力を入れ、人の少ない寂れた村では申し訳程度の柵などで村を守ろうと努力している。


このようにその場所で生きる人種や領主の考え方等で町や村は多種多様に変化する。


では糸の町と呼ばれる『コルティオ』はどうだろうか?


ーーゼルエルは町に近づくたびに驚愕の表情を浮かべていた。

テオはドッペルに背負われたまま言われたとおりにコートで身を隠している、こちらも驚いた表情である。

スーもリュックの中に入り外の様子を見てたが、怪訝な表情を浮かべていた。相変わらず表情豊かである。


コルティオは白く太い糸の網に囲われていた。


町を囲むように広がる糸の網は高く、網の隙間から町の中が見える。

おそらくこの町における”防壁”のような役割などだろう。


しかし謎である。

この網、風の影響を受けても揺れもしない、網なのに。

またこの高い網が上でどう止められてるのかも気になった。


「どうなってんだこれ…はじめてみたぞこんなの…」


「すごいねっ…!」


テオは少し興奮した様子で網を見ていた。

そんなテオを見て微笑みつつ、興味が湧いておもわず糸の網に右手を伸ばす。


「おい、それに触るのはやめといた方がいいぞ?」


急にかけられた声に驚き、声の出所を探して、目の前を見た。

網の向こうに男が立っていた。


だいたい二十代後半くらいだろうか?

金髪で長髪のオールバック、目は赤色でやる気の無さそうな目付きをしている。

上は水色のワイシャツ?、下は白いストレートパンツを着用している。


ワイシャツ?と疑問系なのは彼の腕が六本あり、シャツの腕を通す部分が六ヶ所ついていたからだ。


「うで……おおい」


「ん?嬢ちゃん蜘蛛人種を見るのは初めてか?……ってなんだその黒いの?」


蜘蛛人種の男はテオとドッペルに見ながら笑いつつゼルエルに顔を向ける。


「この糸は町を襲う超獣や魔獣対策に作られているんだよ。かなり頑丈で魔法に強い。しかもくっつくと離れなくなる程の粘着性を持ってる。ほら、そっちの看板に書いてあるだろ?」


男が指差した方向を見ると、すこし離れた場所に看板が立っていた。

ゼルエル達は看板のある方向へ移動する。

男はゼルエル達を追うように町の中から付いていく。


『この糸は粘着性が強く、触るとくっつきます!一度くっつくと離れないため触らないようにしてください。もし触ってしまった場合は町の中の人に頼んで警備団体の方を呼んでください。警備団体より。』


ゼルエルは看板を読んで顔を引攣らせる。


「……っぶねぇ」


引き攣った顔のゼルエルを見て男は小さく笑っていた。


「くっくっくっ…あんた冒険者だろ?冒険者なら知らねぇもんに興味本位で触らないこった、身を滅ぼすかもしれねぇぜ?」


「ご忠告痛み入る、一つ訂正させてもらうなら俺は”旅人”だ。興味のあるものに反応を示すのはサガなんだよ」


「旅人か…珍しいな」


「さっきはありがとう、おかげで蜘蛛に囚われた蝶にならずにすんだよ、俺はゼルエル、こっちの子はテオだ。黒いのは俺の影魔法だから気にしないでくれ」


「あぁ、俺はメルドだ、よろしく。…町の入り口ならこの網の、そっちから見て右の方歩いてりゃ見つかるだろうよ。」


「すまん、助かったよ」


「あぁ」


メルドは手を振り町の奥へ消えていく。それを見てゼルエル達は教えられた通り入り口へ向かうのであった。



☆☆



町の入り口は白い糸で編み込んだような門でできていた。

門の前には見張り役の男がこっちを見ていた。


ゼルエル達を見た見張りの男が近づき声をかける。

当然蜘蛛人種で腕が六本ついている。


「…なぁ?その黒いのはなんだ?」


不思議そうに指差す先にはテオとドッペルがいる。


「こいつは俺の魔法だ。影魔法…ここではあまり見ないかもなぁ、使ってる人居なかったし。気になるならか確認してくれて構わない」


「ほー影魔法ねぇ…」


見張りの男はじろじろとドッペルを見ている。


「連れの少女の靴がおしゃかになっちまってな、少し疲れるんだが魔法でおぶってるんだよ」


「へぇ、お嬢ちゃん大変だったね」


笑いながらテオを見る見張りの男に、テオは無言で小さく頭を下げた。


「町に入るのかい?」


「あぁ一週間程滞在するつもりだ、問題ないかな?」


「構わないよ、簡単なルールさえ守ってくれればこの町は君達を歓迎するさ!」


笑顔でそう言い放つ見張りの男を見て、ゼルエルは軽く笑い返す。見張りの男は人差し指を立て説明をはじめる。


「まず、この町では一部の人を除いて殺人、極度の暴力行為などは禁止されてる。喧嘩くらいなら許されるがやりすぎ注意だな!店への迷惑行為や盗みなどもやっちゃいけない。これを破れば町の警備団体に粛清されるから気を付けてくれよ?」


「警備団体というのは?」


「町の平和を守る団体の事だ。この町で作られる服などは他の町で売ってるものよりも性能が良い、そのせいか昔は一部、他種族の盗みが横行してな。この町を愛している強者達が集まってできたのが警備団体だ」


「なるほど………その事で他種族を見下してたりとかは?」


「ハハハ!それはないから安心しな!悪いのは他の種族の一部の奴等だけってのは皆わかってる。他種族全員が悪なんて誰も考えてねぇからな!」


「そうか、なら安心だ」


「あとはまぁ、滞在は三ヶ月が限度だ。蜘蛛人と婚約していない他種族以外がここに住むのは禁止されてる」


「問題ない、さっきも言ったがここにいるのは一週間程、長くても一ヶ月程度だからな」


「そうかい…ルールはだいたいこんなもんだ。町の名産は糸、それで作られた服とかはそこらの町と比べ物にならない程質の良いものだ、是非買ってくといいよ」


「そのつもりだよ、この子の靴も買わなきゃならねぇしな」


「はっはっはっ!そうだな!それじゃ嬢ちゃんが外歩けないしな!」


テオは困惑したような表情で下を向いていた、ゼルエルと見張りの男はそれを見て笑う。


「さてそれじゃあ…ようこそコルティオへ!お客人、歓迎するよ!」


「ありがとう」


テオを背負ったドッペルを連れて町の中へ向かおうとするが、「あ!」と思い出したように見張りの男を見る。


「悪いがもう一つ、湯浴みのできる宿とかないか?できるなら安めのやつ」


ゼルエルの質問に見張りの男は迷ったように答える。


「ん〜………町に入ると道が三つに分かれてるだろう?そこをまっすぐ行くと大きい道にでるから、そこを左に曲がると結構な数の宿があるはずだ。スマン、それ以上はわからん、住んでると宿なんか使わなくてな」


「それだけ聞ければ十分だ。ありがとう」


気さくな見張りの男に別れを告げ、ゼルエル達は宿のある大通りに向かうのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ