3 彼と少女とカエル
陽が沈んだせいで辺りが暗い。森の中なので風にあてられた枝葉の音が周囲を満たしている。
どの季節であっても夜は寒いのが普通であり夜風が冷たい空気を運んでいるため冬の昼間程度には寒い。
旅を続ける事で既にその寒さに慣れたゼルエルは集めた薪を適当に集めて焚き火を作った。寒さを凌ぐのもあるが料理をするためでもある。
彼は料理用のナイフで道中採った山菜を適当に切りながら昼間拾った少女の事を考える。
(痩せてる感じはあったけど飢えてる感じじゃないよな……でもなんかあったら嫌だしスープ系だな。喉詰まらせて死なれたら洒落じゃすまない。あ〜前会った冒険者の話だともうすぐ町に着くんだったかな?結構ダークチキン余ってるから使っちまおう)
テントの中から予め持ってきていた袋から黒い鶏肉を取り出し細かく切る。起こした火の上に小さい鍋を吊るしブロック状の油を引いてから黒い鶏肉を焼きはじめた。
「…口に合うといいが」
そう呟きながらゼルエルは調理を続けた。
☆☆
白い蛙に見つめられ続ける事にも慣れ、やる事もなく、というより動いて良いのか分からずにボーっとしているとテントの入り口の方からいい匂いが漂い始めた。
気になって思わず顔を上げるとテントのチャックが開く。
開かれたテントの入り口から自分を助けてくれた黒髪の少年であるゼルエルが顔を出した。
「メシの準備できたから悪いけど外に出てきてくれ。あ、少し寒いからこれ着て」
ゼルエルはそう言うと少女に自分の着てるコートをかけた。少女にはデカいだろうが寒いよりマシである。
そしてコートに包まった少女はそのままゼルエルに持ち上げられた。いきなりコートに包まれ持ち上げられた少女は訳が分からず小さな声を出す。
「うぁっ…!?」
「君裸足だろ?外に適当な布引いてるけどそこまで抱えてくから、ほら、スーさんも」
呼ばれたスーは何やら荷物の中を漁っていた、そして舌で小さなケースを取り出しゼルエルに投げつける。
少女を抱き抱えていたため取れずにゼルエルの胸に当たり持ち上げられた少女のお腹あたりに乗っかった。
「うぉぉ!?……と、あぁ、忘れてたよ、ありがとう。でも思いっきり投げたろ、結構痛いよこれ」
「ゲコォ」
スーが投げ付けたのは塗るタイプの傷薬だ、少女には沢山の傷が付いており血は止まっているが見てて痛々しい。それに死体の近くで倒れていたのだ、何もせずに放置していたら病気になる可能性もある。
「メシの前に君の傷に薬塗るわ、ゴメン、着せて悪いんだが一旦コート脱いで。あと背中にも塗るから上着も脱いでくれ、なるべく前は見ないから」
そういうと少女は目を見開いて首を横に振った。
「だめ……」
「あぁやっぱ恥ずかしいか、でも脱いでくれないと塗らないから…」
「ちがう!……かえせない」
「返せない?」
”かえせない”という言葉の意味を考え、そして理解する。おそらく薬代が払えないという事だろう。
「あー……お金とかは別に気にしなくていいよ、そんな高いものでもないし。返してほしいわけじゃないから」
ゼルエルは薬代を請求するつもりはない、というよりも奴隷服を着てる時点で金目の物を持っていない事くらい誰にでも分かる。
それにもしゼルエルが金を欲しているのならそれこそ厄介事を抱えているかもしれない少女をわざわざ連れてくるよりも馬車の残骸を隅々まで探して金目の物を頂いていたところだ。
だが少女は薬を近づけると弱々しく押し返す、騙されると思っているのかもしれない。
ゼルエルは真っ直ぐに少女と目を合わせた。
「………」
「大丈夫、信じて」
「…………………………はい」
真剣な眼差しに折れたのか、少女は戸惑いつつもコートを脱いだ。そして着ていた奴隷服の上着も脱いで上半身を晒す。
なるべく見ないよう心がけるつもりだったゼルエルだが少女の背中を見て思わず目を見開いた。
「……鱗?」
少女の肩に銀色の鱗が付いていた。
「君……”龍人”か?」
「はんぶん…………は……」
鱗を持つ種族は龍人種か魚人種、もしくは蜥蜴人などがいる。様々な人種がいる中でゼルエルが”龍人”と思ったのには訳がある。
魚人種の鱗は一つ一つが小さい事が多い。対してほとんどの龍人種の鱗は大きいのだ。
少女の鱗はゼルエルが過去に見た成人の龍人程では無いにしても一枚がデカい、だから一目で龍人種と思ったのだ。
また、一言で龍人種と言っても数多の数が存在する。
火山に多い火炎龍人、ある森の奥地にこっそり住む閉鎖的な呪龍人、成長しても小さい妖精龍人、様々だ。
ちなみにゼルエルは蜥蜴人に出会った事はあるが鱗をよく見た事が無いため選択肢として出なかったのである。
(聞く……わけにはいかないよなぁ、気になるけど)
子供の奴隷の中には親を殺され無理矢理奴隷に落とされたり、口減らしのために親に売られた者がいるという。
ほとんどが攫われて奴隷に落とされるそうだがもしそうじゃないなら安易に踏み込んではいけない、そう考えたゼルエルは聞くのをやめた。
「じゃあ塗るぞ〜、沁みたりするかもだけど我慢しなよ」
そう言って少女の体に薬を塗りはじめた。
ちなみに体に傷はあったが鱗部分には傷一つ付いていなかった。
「そういえば…」
「……?」
「今更だけど君の名前、教えてくれ」
「……………………テオ」
「テオか、よろしく」
テオは頷くと同時に背中に塗られた薬が沁みたのか、ビクッと体を震わした。
☆☆
薬を塗り服を着せ、テオを抱き抱えた。スーはゼルエルの足に引っ付いている。
テントの外に出て広げたシートの上にテオを降ろし座らせる。
「器一つしかねぇや…」
旅で重要な事の一つに荷物の軽さがある。ゼルエルは必要最低限のものしか持っていないためスープを入れる器が一つしかないのだ。
スーは人の食べるものは食べれないので必要ない。
ゼルエルは小さな鍋で作ったスープを自分用の器に入れテオに渡そうとするが受け取ろうとしない。
「ほら、腹減ったろ?適当に作ったもんだけど…」
「…かえせない」
「さっきから腹鳴らしてるじゃねぇか。食えよ、金はいらないし返さなくていいから」
テオは目の前のスープの匂いにあてられたのか、先程からお腹をキュウキュウと鳴らしていた。
「そんな腹鳴らしてる子供放ってこっちはメシ食えねぇよ。君の……あーっと、テオのために多めに作ったから残るかもしれん。スープだから残ると保存できないし俺のために一緒にメシ食ってくれ」
そう言いながらテオの前に器を差し出す。
少し俯きつつテオは遠慮しがちに受け取る。遠慮しがちだが器の中身を見て目を輝かせているあたりやはりお腹を空かせていたのだろう。
「ダークチキンと道で拾った山菜、水にブッ込んで町で売ってたコルメオニオンスープの元と塩で味付けただけだからそんな美味くねぇかもだけど、食ってくれ」
ゼルエルはそう言うと袋から干し肉を取り出した。
「じゃあ食うかぁ、いただきます」
「……?いただ……?」
「む、いただきますって知らないのか?」
テオはコクコクと首を縦に振る。
「”いただきます”っていうのは自分を活かしてる食べ物達に感謝して食べますって意味が篭ってる…って、昔婆ちゃんに聞いたな……合ってんのかな……?」
ゼルエルは自分の祖母に聞いた話をぼんやりと思い出そうとするが面倒くさくなり考えるのをやめた。
「まぁとりあえず食べる前は手を合わせて”いただきます”って言っておけばいいんだ」
「……わかりました」
「うん……それじゃ」
「「いただきます」」
「ゲロ」




