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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
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5 清霊の花畑

はるか昔……空を駆け全ての大陸、海を渡る美しい馬の存在にあらゆる国の人々が魅了されたという。


長く雄々しい額の角、普通の馬よりもスラッとしておりそれでいて筋肉質な体格、瞳は丸く洗練された宝石のように美麗な青。

その馬の周囲は体色と同じ輝きを放ち、月の出た夜の空を駆ける姿はあまりにも神々しく、王城や宮殿にはその馬の絵画が当たり前のように飾られるほど人気を博した。


馬の名は”ユニコーン”と呼ばれ神獣で無いにも関わらず”神の使い”などと称されあらゆる国から信仰対象とされるほどであった。




ーーしかしそれはあくまではるか昔の話、現在では全国から絶滅推奨される程に嫌われた五本の指に入ると言われるほどの害獣である。


過去の栄光からは想像もできない現状、何故ユニコーンはここまで人々に嫌われたか?それはユニコーンが見た目とは裏腹にあまりにも悪質な性格をしているからである。


ユニコーンは三種類いる。

体が白く角が真っ直ぐな”ホーリーユニコーン”。

体が黒く角が捻れている”ナイトメアユニコーン”。

体が金色で角が短く、他のユニコーンと違い卵生の”ユニコーンモドキ”。

どれも絶滅推奨指定されている。


ここではゼルエル達の前に表れたホーリーユニコーンの解説をしよう。


ホーリーユニコーンは”顔の整った若い処女の女の子”を非常によく好む。

人の居る場所を探しその近くにある大きい木や高い崖の上、広い洞窟に巣を作り気に入った子を攫い自分の巣へ持ち帰る習性がある。長期間巣の中で愛でて汚くなったら最終的に自分の子を産ませるのだ。

女の子に家族がいる時は目の前で殺し、酷い場合は町中の女の子を攫うためにを国一つ滅ぼして女の子達の心を折り逃げないようにするという非道っぷり。何故そこまでやるのか未だ解っておらず、自らの欲求を満たすために皆殺しにしているのではないか?と一部学者や研究者からの意見も上がる程だ。


攫われた女の子はホーリーユニコーンの巣で数ヶ月裸で生活させられる。その間食べ物は与えられるもののホーリーユニコーンに身体中舐めまわされたり角で殴られたりする、殴るのは黙っている女の子の声を聞くためにやるらしく、繁殖行為となんら関係はないらしい。

極限のストレスで生かされ美しさを損なった女の子は処女を角で破られホーリーユニコーンの子を孕ませられ、子を産んだ途端殺される。


その後死体は川に適当に捨てられ、ホーリーユニコーンは新しい女の子を探しに巣を棄てて別の獲物を探し、また巣を作って人を襲うのだ。

産まれる子は全てホーリーユニコーンになる。子ユニコーンは親ユニコーンから女の子の扱い方を教わってから巣立ちをするという話があるがこれは事実かどうかはまだ分かっていない。




若いユニコーンは角での近接戦闘が主体であり成体になると強力な魔法を覚えるのだ。その実力たるや、一国の軍隊や名を馳せた屈強な冒険者達ですら怯むほどである。


ユニコーンの寿命は約二百歳と言われる。その歳月に攫う女の子の数はだいたい百を越え、殺された死者数は五百に登ると言われる。その悪辣非道な行い故に見つけたら全国から即刻殺す事を許可された絶滅推奨指定”黒星害獣”とされたのである。


そんな害獣、ホーリーユニコーンがゼルエル達の前に現れた。狙いは一人、当然テオだ。


「ペク、テオを守れ。俺も出来る限りお前らを守るから」


ペクは頷きテオを守れるように前に出た。ゼルエルは手を影のように魔力で黒く染めた。テオやペク、動物達をいつでも守れるよう臨戦態勢をとる。

スーは断然”殺る気”である。普通の獣ならばゼルエル任せだろうが今回の相手はゼルエルの手に負えるものではないと判断したのだ。


「ゼル!スーさん、ペク、皆!」


「悪いテオ、ユニコーンは俺じゃどうしようもなんねぇんだ。スーさんに任せるしかない」


テオは心配そうにスーを見た。スーはいつでも魔法を発動させられるように魔玉を一層輝かせてユニコーンを見上げている。


ユニコーンはペクのせいでテオが見えなくなりこめかみに青筋を立てている。頭を振り体の光を角に集め、光でできた弾丸を飛ばしてきた。

テオ達には見えない、ゼルエルも反応するだけで精一杯と思われるほどの早い弾丸だがスーは余裕そうに舌先に大きな白い盾を作りゼルエル達を守った。


「……早ぇ!」


「ブルルァ!」


ユニコーンは光の弾丸を防いだ盾に驚きうねり声をあげた。盾を作ったであろう小さい蛙を睨み付ける。


スーは白い魔玉の光を強め背中に翼を作りあげた。絵画の天使の様な美しさ翼だが小さい体格に合わないほど大きく、小さい蛙についているのでなかなかシュールだ。花びらの多い花を千切り舌で掴んで羽ばたきユニコーンよりも高く飛び、スーは見下すように睨み返した。


憎らしそうに睨むユニコーンだったが、すぐに気持ち悪い笑みを浮かべた。自分より高く飛んだスーを無視して大量の光の弾丸をゼルエル達に飛ばしたのだ。

先程、スー以外自分の攻撃に反応出来ていないと気付いていたのだ。加えて盾で守った事からスーにとって周囲の連中が大事だという事も見抜いているようだ。


ーーあの人間共には弾丸は防げない。小さい蛙は強いが人間共を大切に思っている。ならば人間共を殺しにかかれば蛙は守らざるをえない。そのうちに殺す。ーーそう考えたのだろう。


だがユニコーンの考えはスーに見透かされていた。


光の弾丸は先程同様盾に守られた。今度は舌先では無くゼルエル達の前に現れたのだ。同時にユニコーンの全身を風のような炎が包んだ。炎は当然スーの出した魔法だ。

大量に撃ち放った光の弾丸が防がれ炎に焼かれた事で動揺したユニコーンに対し、スーはおかわりと言わんばかりに亀の魔獣にトドメを刺した光の魔法【天上の戦槍】を突き刺そうとユニコーンに思いっきり投げ飛ばした。


「ブルルァァァァァァアァァァアァアア!!?」


ユニコーンは周囲の炎を消し飛ばし蜃気楼のように体をユラユラとさせ槍を回避した。蜃気楼状態のまま別の場所に移動したユニコーンだが少し離れたところで実体に戻る。先程の醜悪な笑顔から一転、怒りと焦りを混ぜたような表情に変わっている。

ユニコーンは光と(まぼろし)の魔法を得意とする。先程スーの槍を躱した蜃気楼状態も幻属性の魔法だ。


スーは翼を羽ばたかせながら咥えた花の花びらを空中にばら撒いた。残った茎をユニコーンに投げつけてニヤついてる。


『|※※※※※※※※※※※※※※※《泥臭く死んでしまえ汚い馬面》!』


と神言で煽ってすらいる。ユニコーンは魔獣なので伝わることは無いのだが、ニュアンスは伝わったのか怒りで青筋が増えていた。


「ブルルルルルッ!!」


空を蹴り吼えたユニコーンの体に赤い線の光が作られ纏わり付いている。第九階位【光速】、身体強化の魔法であり自分の速度を上げる高等魔法だ。

とてつもない速さで空を駆けるユニコーン。自慢の角で刺し殺そうと考えたのだ。


回避のために横に飛んだスーだったがあまりの速さに逃げきれずにユニコーンの角を擦った。そのまま蜻蛉返り

のように戻りスーを突き刺そうとしたユニコーンだったが、突如スーが花びらに変化した。


勢いのまま花びらを突き刺したユニコーンは少し驚いたものの即座に周囲の魔力を感知し、下から飛んでくる槍をかわした。すぐさま体に【光速】を纏わせ下にいるスーに向かって角を構えて駆けたが同じように花びらに変化される。

光速で動くユニコーンと転移を繰り返すスーの追いかけっこが始まった。


「あんな並行で魔法撃つ奴なんか普通いないからユニコーンも驚いてるな」


「……そうなの?」


スーが使っている魔法。

天属性 第三階位【エンジェルウィンド】、背中に白い翼を作る。飛べるようになり、魔力を込める量と練り込み次第で速度を変えられる。

聖属性 第五階位【聖騎士の盾】天属性 第五階位【天上の戦槍】、どちらも本来は自分で持って戦う武器を作るものである。

空間魔法 第七階位【チェンジ】、自分と自分の触れた物と場所を入れ替える転移魔法。スーは空に舞わせた花びらとのチェンジを繰り返してユニコーンの攻撃を回避している。

炎魔法 第三階位【エアフレイム】、風のように広がり拡散する炎を作り出す。最初は纏まった炎の塊だが拡散するほどに制御ができなくなり威力も弱まる。練り込みはそこまで必要無いが魔力量で大きさと威力が変わる。


魔法は並行で使う事が難しいもので、魔法が得意な人なら二つ、魔法に長けた人種なら三つ、魔法に長けた人種の中でも更に訓練を積み重ねた魔術師ですら四つが限度だと言われている。


「魔玉蛙は餌の問題から死体が多いから世間一般じゃ雑魚神獣扱いされてるけどな。スーさんと長年一緒に生きてきた俺の知る限りおそらく成体の魔玉蛙は魔力保有量だけで言うならユニコーンの比じゃないはずだ。俺の相棒なめんな馬面が!」


「かてるの……?」


「昔スーさんと旅を始めた頃に女の子を背中に乗せた子供のユニコーンに出会ったんだがその時は楽勝だったな。ただ……あのユニコーン高度な魔法を使ったんだよな……話通りなら高度な魔法を使う奴ほど長生きらしいから戦いに慣れてるはずだ」


ゼルエル集中して二匹の戦闘を見る。速すぎて何がどうなってるか分からないがスーが僅かに傷付いておりユニコーンも幾らか火傷しているように見える。


「そうじゃなくてもスーさんはユニコーンの手に届かないような滅茶苦茶な魔法を使えるからやろうと思えば勝つ事自体はできるんだろうな。ただあんまり大きい魔法は花畑に被害が出そうだから抑えてるんだろうな」


スーは先程からなるべく環境を壊さないように魔法を展開している。ユニコーンは邪魔なエアロックを叩き落としたり光の弾丸による爆発で花畑に被害を出しているがスーはエアロックを全て避けているのだ。

花も最初の一本のみ、【エアフレイム】の火力は抑えなるべく火の粉を散らさないようにしている。


スーはゼルエルに被害を与える獣には容赦無いが無闇矢鱈に環境を壊し生物を殺す事を好まないのだ。

ゼルエル同様珍しい物や美しい環境が好きな事も関係しているのだが。


ユニコーンは転移で逃げ嫌がらせのような攻撃を続けてくるスーに痺れを切らしたのか、角に光を集め長い棒のように伸ばした。ユニコーンは駆けながら頭を振り鞭で殴りつけるように光を動かてスーを狙う。


スーは飛んだり転移でなんとな避けているものの、光に当たった場所は深く抉られ花畑や岩壁を次々に壊していった。当たったらひとたまりもないだろう。


「ブルルァァァ!!!」


「グァァ!!」


スーは槍を数本作り出し光の鞭をかわしながら迎撃している。お互い目を血走らせて空中戦を繰り広げており亀の魔獣とは比べ物にならない程の衝撃にテオはペクに抱きついて身を震わせていた。


「ぅぅぅぅぅぅ……………………え?」


ふと気付く違和感。空は夜に見合わないほど光が散り戦闘による衝撃で音は満たされており、目の前にはゼルエルとペクがいる中、テオは何かを感じ取り周囲をキョロキョロと見渡し始めた。


「…………だれ?」


ペクから離れ後ろに歩いていくテオ。気付いたのは一部テオの近くにいた数匹の小動物達のみであった。


そんなテオを無視するように戦闘は激しくなっていく。

だんだん調子が乗ってきたのか速さが加速し光の弾丸と鞭で周囲を壊し回りながら追いかけてくるユニコーン。転移で逃げ回っていたスーは痺れを切らしたのか【聖騎士の盾】で角を防ぎユニコーンの動きを止めた。そして濃い紫、毒の魔玉の輝きを強めて魔法を展開した。


長い蛇のような毒々しい化け物が七体、スーの背中から生えるように伸びた。それぞれの色や形が異なってはいるが全てユニコーンを睨み付けている。


「”オロチ”…………被害を出さないで倒すにも限界って事か……」


毒魔法 第十階位【オロチ】

並大抵の人間じゃ使う事すら叶わない程に高度な魔法。それぞれの蛇の毒の性質が異なりそれら全てが解毒薬や魔法による解毒や浄化が難しい強力な猛毒でできているため掠る程度でも致命傷である。

一匹一匹がユニコーンより遥かに大きいためエアロックを避けつつ花畑に完全に被害を出さないというのは無理なのだ。

スー自身やりたくないのか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているのだが、目の前の害獣を消すためには仕方が無いと割り切ることに決めたようだ。


毒蛇達に睨まれたユニコーンは鼻を鳴らして角を構える、【オロチ】を見せられてなお負けるつもりは無いようだ。


「……だれ?…………おこってるの?」


「テオ伏せろ……おいテオ!?」


二匹の獣が使う魔法に身の危険を感じたゼルエルが叫びテオの方を振り返る。だがテオはペクの側を離れて何かを探すように逆方向にふらふらと歩いていた。


「テオ何やってんだ!ペク!テオを守れ!!」


二匹の戦闘に緊張してテオが離れてることに気が付かなかったペク。ゼルエルの叫び声でようやくテオが離れてる事に気付きすぐさまテオの方へ走る。


「ギャァァァァァァァァ!!」


スーが作り出した毒蛇達が一斉に吠えてユニコーンに向かっていった。

ユニコーンは毒蛇達の猛攻をかわしつつスーの懐に入ろうと【光速】で行動を開始した。


空のエアロックは粉々に吹き飛び破片が岩壁や花畑を荒らす。毒蛇から飛んだ体液が地面を溶かしユニコーンの光が無数の花を散らした。


「どこ?そこにいるの?」


「テオ何言って………………ッ!!?」


毒蛇達とユニコーンが動き始めてほんの数秒、ユニコーンがスーの懐に入り赤い毒蛇の一匹がユニコーンの脇腹に噛みつこうと口を大きく開いた直後ーー


「ブルルァ!?」


「ゲロォ!?」


二匹の魔法が霧散するように消えた。

【オロチ】は勿論、【エンジェルウィンド】も消えたスーは落下し、ユニコーンの光が無くなった事で日が沈み始めた暗い静寂が辺りを包んだ。


あまりに突然の事に戦闘中だった二匹はおろかゼルエルや小動物達ですら困惑している。


スーは落ちないよう再び【エンジェルウィンド】を展開しようと天の魔玉を光らせるが魔力が減るだけで全く発動しない。


「スーさん!!」


ゼルエルは砕けて低空に浮いたエアロックを払いながら花畑の中に走り飛び込んで落ちたスーをなんとかキャッチした。

手の上に乗ったスーは魔玉を何度も光らせ魔法を発動させようとしている、その表情は普段スーが見せないような焦りを感じさせる。


ユニコーンは魔法で空を駆けていないため空にとどまったままだが何が起こったのか分からず困惑した様子だ。隙だらけのスーを見ても動かないで周囲を探っている。

ゼルエルは深く息を吸い込んでスーを優しく撫でつつ魔法が使えなくなった理由を探した。お互い同時に魔法が散る事はあり得ない、ならば外部からの妨害の可能性を考えたのだ。


そしてその答えはすぐ見つかった。

今日どころか花畑に入って一度も見かけたことの無いプロペラのように広がって回る黒染めの花。それらがゼルエル達を囲むように無数に浮いていたのだ。


そしてその花の存在に気付いた直後、テオがいる方向にとてつもない威圧感を感じ全員がその方向に顔を向けた。


「あなただよね……?」


いつのまにかテオの目の前には花畑を埋め尽くす程大きな獣が現れていた。




ホーリーユニコーン「やはり二十歳以下の処女最高」

ナイトメアユニコーン「二十歳以上の処女最高、教会とか格好の餌場!」

ユニコーンモドキ「年齢なんて関係無い、やはり美形な男最高。いっぱい愛でて腹割いて卵産みつけたい」


☆☆


オロチ赤:血液毒(傷に流し込み血液を固める)。歯が尖っている。

オロチ橙:熱毒(触れた部分が焼け爛れ体内にまで広がる)。ヒレのようなものが何枚も付いている。

オロチ黄:神経毒(神経を狂わせ脳を停止させる)。体の横に針が付いており目が細い。

オロチ緑:幻覚毒(幻覚を見せる)。幻覚毒を混ぜたガスを吐き出すが無差別のため今回は守りに徹している。

オロチ青:腐食毒(触れた物を腐らせる)。首の部分から触手が大量に生えており伸縮自由。

オロチ藍:性病毒(強力な性病を植えつける)。一番小さく素早い、執拗に性器を狙う。

オロチ紫:酸毒(あらゆるものが溶ける)。液体の酸を吐くが周囲の被害を考え今回は守りに徹している。


どの毒も掠るだけで治せない重症となる。

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