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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
33/42

4 らぁめん屋

ゼルエルがくたばって数時間、あたりは相変わらず霧に包まれている。夜になり外の視界が悪いものの屋台についている灯りが屋台の周囲をまばゆく照らしている。


長い時間話し合っていたテオと元一郎だが、元一郎の方は少し疲れ気味だ。

長話くらいならそこまで疲れることは無いのだがこの毒霧の中水の魔法を維持し続けているのだ。疲れるのも無理はない。


……そもそもこんなところで店を開く方がおかしいのだが。


「ふぁぁ……流石に魔法を維持させるのも疲れてきたなぁ……」


「ゲンさんだいじょうぶ?」


「ホントは昼ちょっと過ぎたら移動するつもりだったからなぁ……」


話し合う内に心を開いたのか、いつのまにかテオは元一郎の名前を呼ぶ際ゼルエルと同じ”ゲンさん”となっていた。


ちなみに二郎はとっくの前にゼルエルにもたれかかるように寝ている。スーはあまり眠らないのでテオ達の近くでジッとしていたのだが、元一郎の言葉を聞いてのそりと動く。


「ゲロ」


「……ん?どうしたスー嬢ちゃん?」


スーは元一郎に指差しもとい舌差しをして魔法を展開した。

背中の白い玉を光らせ、屋台と外のゼルエル達を囲うほどの球体を作り出す。元一郎の聖水膜よりもほんの少し小さい。


「相変わらずすげぇなスー嬢ちゃん。俺は休んでいいって事なのか?」


「グァ」


「……多分良いんだよな?悪いな、ありがたく休ませてもらうよ」


元一郎は厨房から出て聖水の膜に手を触れた。聖水の膜は溶けるように橋や毒湖に落ちていく。。毒湖に落ちたところは一瞬光を放ち綺麗な水に浄化されたがすぐに周りの毒水に汚染されて消えていった。

聖水の膜に比べスーの出した球体の方が小さかったので、手が少し出てたために一瞬毒霧を浴びたものの毒の魔法【解毒】があるため何の問題にもならなかった。


「じゃあ俺は寝るわぁ……テオちゃんは厨房弄らないなら好きにしてていいから……ふぁぁ……おやすみ」


「あ、おやすみなさい」


元一郎はゼルエルの隣にシートと寝袋を引いてもぞもぞと潜り込み就寝した。

残されたテオは元一郎が寝静まったところで椅子に座り魔法を展開しているスーを見た。


「スーさん」


「ゲロ?」


「にほんにはまほうがないんだって……なのにすごーくながいじかんゲンさんはみずのまほうつかってたね?……やっぱりすごいのかな?」


「グェ〜」


スーは舌をプラプラ縦に振る。

よく分からないがテオはとりあえず肯定と受け取った。


「そうだよね…………わたしもがんばらなくちゃ……!」



☆☆



「重い……」


ゼルエルが目を覚ましたのは日の出より少し前。体が動かず何事かと目を向けると体の上にテオと二郎が乗っかっていた。

二人とも熟睡である。テオに至ってはよだれまで垂らしている。

呆れつつも起こさないように寝袋から出て怠さを飛ばすつもりで体を伸ばしはじめる。ふと辺りを包む魔法が変わっている事に気付いた。


「ふぁぁぁ……お?聖水じゃないな、スーさんか?ゲンさんは……もう起きてるな」


屋台の方から包丁でモノを刻む音が聞こえてくる。ゼルエルはふらっとカウンターの方は足を運んだ。


「おうおはようさん!ラーメン食うか?」


「日も出てねぇ朝っぱらにラーメンなんか食えるか!……起きるの早いな」


「早起きは料理人の基本よ。まー今日は店は開かねぇけどよ」


「昨日のアレは料理人っつーか科学者の所業だけどな」


「味の探求者なのさ俺は」


「へいへい」


朝っぱらから元気な元一郎を軽く流しつつゼルエルは椅子に腰掛ける。そしてカウンターの上、箸の入れ物の隣で置物のように座しているスーを見つけた。


「おはよう、スーさん」


「ゲロゲロ」


「いやぁスー嬢ちゃんがいて助かったぜ。ほらこれ水、聖水は眠気を心地良く飛ばすぞ。スー嬢ちゃんは毒魔法でいいなら」


「聖水を眠気覚ましに使うのか……頂くよ」


「ゲロ」


ゼルエルは元一郎が魔法で作ったコップに入った聖水を飲む。だんだんと眠気が覚め、少しだが力が湧く。

スーは元一郎が手に作り出した毒魔法の第一階位【ポイズンボール】を舌で吸収している。普段はゼルエルの【ファイアーボール】しか食べないのでいつもと違うものにご満悦のようだ。


「ホント魔力練るの上手いよな、普通こんな美味くならねぇのに」


「アンちゃんだって影魔法上手いじゃねぇか。それよりも俺達は昼になったらアンちゃん達が来た方向に行くけど、アンちゃん達はどうすんだ?」


「俺達も進むよ、戻る必要もないし。そういやあっちに何があるかゲンさん分かるか?」


ゼルエルは自分達が進む方向を指差し問う。元一郎は指差した方向に目を向けながら「あぁ」と呟く。


「あっちはアンちゃんが好きそうなところが広がってるぜ?」


「あん?」


「近場の町じゃ”清霊の花畑”なんて言われてるところだ。ま、ネタバレになっちまうからこれ以上は言わねぇけどよ。楽しみにしてるといいぜ」


「ふぅん……あ、聖水おかわり」


「ほらよ」


元一郎は笑いながら聖水を作りゼルエルのコップの中に入れた。

ゼルエルは聖水を飲みつつ指でスーを撫でながら二人が起きるのを待つ事にした。



☆☆



ブラックグリザイアの睡眠は規則性がある。

明日の日の出を予測し、日の出の八時間前に寝るというものだ。ブラックグリザイアは日が出ると否応無しに目が覚めてしまうのである。曇りや雨の日の場合は十時間後キッチリ目覚める。


日が出てほんの数分、二郎がよだれを垂らしたテオを抱えてカウンターに入ってきた。


「ゲゥチャ、ゼゥエゥ、スゥチャ!オハヨ!ヘイ、テオチャオマチ!」


「ぐぅ……」


テオはまだ目覚めていない、小さい体を持ち上げられゼルエルの前に差し出される。


「テオチャ、カタイ、アゲル」


「いやいやいや、もう少し寝かせてあげろよ……あーもうよだれ、昨日何やってたんだよ?」


「近所のおばちゃん達による井戸端会議並みの長話を少々」


「全然意味が分からんが長く話してたんだな、歩いて疲れてるってのに……」


ゼルエルは寝てるテオを受け取って膝に乗せて溜息をつく、テオの体は硬いため肩や尻の当たってる部分が少し痛い。

気持ち良さそうによだれを垂らして寝息を立ててるテオを見てスーも溜息をついた。

テオがここまで熟睡しているのは歩き疲れたからだけではない。深夜まで魔力を感じ取る練習をしていたからである。オールと呟くだけの時間ではあったものの、元一郎が寝付いてからさらに数時間もやっていたので精神的にきたのだろう。

スーはその光景を寝てたゼルエルにテオが倒れつくまで永遠見せられたのだから溜息もでるはずだ。


「とりあえずテオちゃんが起きるまでに朝飯にするかぁ、パンでいい?」


「あぁ俺は自分のパン食うよ」


「ゼゥエゥ!ラァメゥ!ヘイオマチ!」


「いや作って無いから、二郎もパンでいいか?」


「バタ」


「はいはいバター付きな、……バターあったっけ?」


「スーさん、炎魔法 第一階位【ファイアーボール】」


「毒魔法 第一階位【ポイズンボール】、ほらこっちも」


「グァム」


日が出てるのは分かるが毒霧が濃くて辺りは暗い。

何をするにしてもテオが起きてからなので各々はそれまで自由な時間を過ごした。


結果的にテオが起きたのは日が上に登りかけてた時間。ゼルエルが元一郎に頼んで普通のラーメンを頬張っていた最中、横の椅子に移されカウンターに突っ伏していたテオはビクッとした後にキョロキョロと目線を動かしながら起きた。いきなりの事に目の前にいたスーも目を丸くしている。


「ふぁ!………………うぇ?」


「ズルズルズル……おはようテオ」


「おはようテオちゃん、なんだっけなそれ?無茶な体勢で寝るとなるやつだっけ?……ジャミング……ジャグリ……まぁいいや、テオちゃんもラーメン食うか?」


「ふぁ……はい……?」


「寝ぼけてんな。悪いが水を出してやってくれ、あとラーメンじゃなくてこっちでパン出すから」


「はいよ〜」


「テオチャオハヨ!」


「ゲロ」


「あ、おはようございまふ……ふぁ」


目覚めたテオは寝ぼけながら現状を確認しようと再びキョロキョロする。

後に昼近くまで寝ていた事に驚き、ゼルエルに何故起こさなかったのかと問いただしたが「急ぎの旅じゃねぇし……」と軽くいなされたのだった。



☆☆



胃に物を入れて荷物の整理をし、出掛ける準備を終えたゼルエル達。元一郎達は屋台にあるもので全てなのでほとんど準備する必要はほとんどない。


「水魔法 第四階位【聖水】」


元一郎は合掌をして魔法を唱え、ゆっくりと両手で円を書くように開く。

手からは水が現れて昨日見た自分達を包む膜となった。


「すごい!」


「まー、こんなもんよ!アンちゃん、この霧どれくらい続く?」


「一時間半くらい歩いてりゃ薄くなるけど、森が深いから屋台壊さないようにな。よし、スーさん頼む」


「ゲコ」


ゼルエルの頭の上に乗ったスーが昨日と同じ不浄反射を自分達に張り球体型の結界を消した。


「ゼゥエゥ、スゥチャ、テオチャ!ゴッソサゥ!」


「ごっそさぅ?」


「ご馳走様でしたって意味で……って二郎、それこっちのセリフだろ」


「アンちゃん、息災で。まぁスー嬢ちゃんがいりゃ問題はねぇだろうが。テオちゃんもスー嬢ちゃんも元気でな」


「ゲロ」


「またな、今度はまともな実験料理にしてくれ」


「……」


全員が笑いながら別れを言い合ってる中テオだけが複雑そうな顔をしていた。それを見た元一郎は鼻でふっと笑う。


「テオちゃん、寂しいのか?たった一日の付き合いなのに嬉しいねぇ」


「うん……」


「テオ、何もなければ五十日くらいでまた会えるだろうから気にするな」


「……えっ?」


不思議な話ではあるのだがゼルエル達と元一郎達は何故かよく会う。目的なくフラフラ旅を続けるゼルエル達と転々と屋台を引いてラーメンを売る元一郎達は、別の方向に別れても何故かすぐに出会ってしまうのだ。

ちなみに元一郎はこの現象を”俺達は切れないコシのある麺で繋がっているんだ!”と言っているがゼルエルはあまりこの表現を好きになれていない。


「そんなだからこの人達の別れを寂しがっても仕方ないぞ」


「そうだぞテオちゃん!テオちゃんがどっかの孤児院に入っちまったらアレだがそうじゃないなら多分近いうち会えるから安心しろ!」


「そうなんだ……そうなんだ!」


テオはまたすぐに会える事を知り喜びの顔を浮かべる。全員、テオの笑顔を見てフッと笑みをこぼした。


「じゃあ行くかぁ、またなゲンさん、二郎」


「またね!」


「ゲロ。※※※※※※」


「バイバイ!※※※※※※※※※※※※」


「またのお越しをお待ちしてるぞ!」


元一郎達は屋台を引いて自分達が来た方向に足を進めた。元一郎の動きに合わせて聖水の膜も移動していく。

聖水膜から出たところでゼルエルはテオに顔を向けた。


「じゃあ、行くか」


「うん!」


「ゲロ!」


ゼルエル達も橋の向こう側に向かって歩き出そうと、二歩ほど歩いたところで後ろから「あぁぁ!」と大きな声が聞こえてきた。

元一郎の声である事にすぐ気付いたゼルエルは焦って後ろの屋台を見て叫ぶ!


「ゲンさん!?どうした!!」


「アンちゃん!ラーメンの勘定!」


「…………」


なんとも締まらない別れとなった。




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