五柱の神と三つの世界
五柱の神とは世界を司る存在である。
自然を司る神”シナヴァータ”
知恵を司る神”アレ”
魔法を司る神”ドルモン”
命を司る神”ヴォレゼビ”
魂を司る神”イルシャレンテーテ”
シナヴァータが世界を作り、生物はヴォレゼビが。それぞれの生物にアレとドルモンが知恵と魔法を与え、人間にはイルシャレンテーテが魂を込めた。
そうしてできあがったこの世界を五柱の神は長い時の果て”ハイリスデリアという名をつけた。
「なーんて簡単に説明したけど今の世界になるのに殆ど神は手出ししてないらしいけどな。魂の神が言ってた」
「へぇ……………………え?いってた?」
「別の世界から俺を連れてきた魂を司る神は俺の店にしょっちゅう酒呑みにくるんだが、そんとき聞いた」
「うぇぇぇぇ!?」
「あの野郎あんまラーメン食ってかねぇんだよなぁ、居酒屋じゃねぇっつぅの……あ、話戻すわ。魂のチビが教えてくれた内容混ぜるけど、この世界の常識と外れてるかもだからそこはあしからず」
「は、はぁ……」
五柱の神が初めて作りあげたハイリスデリアは長い年月をかけても成長が見られなかった。
生物や植物は進化せず人間は学ぼうとしなかった。
何故か?初めて作り上げた生物は全てが草食動物、自然は全てが穏やか。
神が創った人間は今の人間の基本”衣食住”などを必要とせず外敵もいないため危機感を覚えずに過ごせたからである。
「ここらへんは魂のチビから聞いた事が多いな。あまりこの世界の住人は知らないみたいだ。知ってるやつもいるらしいが」
「チビ……」
「まぁそんなハイリスデリアを望まなかった神達は試行錯誤した結果別の世界を創り上げたそうだ」
神々はハイリスデリアを見続け何がいけないのか話し合い、一つの答えを導き出した。
ハイリスデリアとは違う、自分達の管理しない世界を作ろうと。
「どういう結論でそうなったかは聞いてねぇから知らん」
「えぇ」
そうして神々は別の世界を二つ作り上げた。後にハイリスデリアで語られる二つの別世界、名称はこうである。
科学世界”アース”
魔法世界”サャナ”
ハイリスデリアより三分の一程の面積。それぞれに神々の力を少し加えて魂の神以外は触れず見守る事に徹した。
「命と魂の違いだけどな、命ってのは体や記憶を示すもので、魂は命に感情を宿すものらしい。魂は使い回しで命が死んだら他の命に移し替える。だから手出さないと決めても魂のチビだけは仕事しなきゃならなかったらしい」
そして神々が見守るだけのこの世界、効果はすぐに現れた。生物はそれぞれが生き残るために進化していく。過酷な環境下で生物達は進化を遂げ生き延び弱肉強食の世界を作り上げ世界を循環させていく。
ハイリスデリアよりも後に作ったこの二つの世界はあらゆる変化を遂げいつしか神の力を使わずに人間を作りあげた。
神々が創った人間よりはるかに不完全、だが美しいものに。
人間は生き残るために知恵を振り絞って逞しく育った。生物を狩り食らい、自然に負けぬよう住処を作り、あらゆる事を学び、時に人間同士で殺し合い数を減らした。
神々は理解した。生きやすい環境だけでは命は成長しないのだと。過酷な自然環境、天敵たる生物、そういった要素が無ければ世界は成り立たないのだと。
「んで、自然の神は二つの世界を基準にこの世界をやりたい放題変えて魂の神がたまにあっちから生き物や若くして死んだ人を転移させる事でハイリスデリアに刺激を与えて上手く回そうとしたわけだな」
最初は過酷な自然環境や脅威を生む肉食獣にハイリスデリアの生物や人間達は急激に数を減らした。
だが少しづつアースとサャナから送った人間達は上手く流れを作る。危機感の無いハイリスデリアの人々に生きる術を教え率いた。アースからは技術力を、サャナからは魔法を、どちらの知恵も吸収してハイリスデリアの人々は長い年月をかけて成長していった。
そして自然の神が創ったいきすぎた過酷な環境は様々な人種を生み出し別々の発展をしていく。
生物達も生き残るために進化を遂げ、一部では他の世界ではありえない進化を遂げた生物も現れた。
だが成長する過程でまた一つの問題が出てくる。
時が経つにつれアースとサャナから送られた人々はハイリスデリアの環境で生きていけなくなったのである。
「あっちの世界の人から見ればこっちはファンタジーだからな」
「ふぁんた?」
「ファンタジー。夢や幻のような表現……か?龍とか幽霊っぽいのとか人並みの知能を持つ獣とか常識外れの大自然とか、あっちにはそういうのないんだよ。ハイリスデリアだとそういう化け物を単独で倒す奴結構いるけどあっちではそういうの居たとしても単独で倒せるような奴はいない。若いまま死んでこっちに飛ばされる訳だから多少知識があってもあっちの世界の武器を作れる奴なんか極少数。俺はアースから飛ばされたけどよ、アースにも化け物と戦えそうなモノはあるんだがそれを作れるか使えるかってのは俺には無理だ。そんなんだからハイリスデリアに送られてもあっちの知恵が活かせない程の強大な環境に殺されたらしい」
これはサャナの方の人々も同じだ。
ハイリスデリアの魔法とは根本が違うらしく、軍にでも所属しなければ戦闘用の魔法は得られない、趣味や勉強で得られる魔法は限られていた。
神々は新たにできた問題に悩ませ、やがて答えを出す。
他の世界の子に力を授けて送り出そうと。これならば環境に殺される事も無いと。
「だけどこれを実行した最初の頃は最悪の結果に終わったみたいでな」
「ダメだったんだ」
「力を与えすぎたらしい」
神々が傍観に徹していつしか生まれたアースやサャナの人間達の欲は底が見えないものだった。
たった数十名、これらにそれぞれ強い力を与えハイリスデリアの各地に放って様子を見た。
彼らは神から得た力で好き放題にやった。窃盗、暴力、強姦、殺人、支配、種の絶滅、自然破壊など各地で暴れまわりハイリスデリアを壊していった。
「神ってのは人が人を殺そうがそれを悪とは思わないらしい。ルールってのは人間が生んだもの……って魂のチビが言ってやがったな、酒の勢いで。ただ当時は限度を超えた酷さになったらしい」
多少人類が減ろうが自然が壊されようが気に止めるつもりも無かったらしいのだが、欲望振りまく転移者達の度を超えた破壊活動を見て神々は改めて学んだ。
新しい風は必要、だが力を与えすぎるとダメだと。
かくして転移者達に与える力はハイリスデリアの人々の平均能力の一部を参考にした”身を守る術”程度のものとした。
こうしてハイリスデリアは世界としての拮抗を保ち、成長する世界として生まれ変わったのである。
「実際は細かい問題点はいっつも上がってるらしいがな。神様ってのは案外世界作りが下手だったみてぇだなと、笑っちまうよな?」
「なんかむずかしぃ……げんいちろうさんはかみさまからちから、もらったの?」
「アースは魔法が無いんだが俺は神からもらって魔法を使えるようになったぞ。水と毒属性、どっちも最初は第三階位までだったけど」
「このおみせつつんでるみずも?」
「これは第四階位の”聖水”を練って形作ったんだよ。食材狩るために使ってたら色々できるようになってたわ。……こんなところか?」
「にほんごは?」
「アースにある国の一つ、俺の故郷”日本”の言語だ。この世界じゃあっちの奴等が結構いるみたいだしそのうち別のアースの奴等とも会えるかもな」
「にほん?にほんってどんなばしょ?」
「おいおい、まだ話を聞きたいのか?さっき難しいって言ってたじゃねぇか?」
「うん、でもしらないことをもっとしりたい!」
文字や魔法の件でもそうだがテオは向上心が高い。今まで触れなかった自分の知らない未知に興味津々なのだ。
理解できてるかはまた別の話である。
最初に見た頃よりだいぶ変わったテオを横目で見ているスーは少し笑いながら溜息をついた。
「しゃあねぇなぁ、おじさんでよければ付き合うよ」
「ありがとう!」
「俺の居た日本ってのはな……」
こうしてテオは自分の知らない世界を教えられながら時間を過ごしていくのであった。




