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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
31/42

3 らぁめん屋

ズルッ……ズルルル……


「でな、別にお互い同じ方に向かってるわけじゃねぇんだけどよ?なんでかアンちゃんとは多く鉢合わせるんだよ?不思議だよなぁ」


「そうなんだ?じゃあわたしもまたラーメンたべられる?」


「おう、会えりゃいつでも作ってやるよ!」


ズルルルッ……ぶへっ!……ズルッ……


「なんさいですか?」


「今年で多分40だから……39歳だな」


「ジォウハジュウヨゥサイダヨ!」


ズルル……………………ズルッ…………


「のれんっていうんだよね……?のれんのもじ。わたしがべんきょうしてるのじゃないですね?」


「あれは俺の母国の字だ。日本語っつってな、あれでらぁめんって……」


ドンッ!


「……………………ごち」


ゼルエルはスープまで飲み干した後、丼をカウンターに強く置いた。

話に華を咲かせてた二人と二匹は思わずゼルエルを見る。


「どうだった?……あ〜っとぉ……”解毒ラーメン”」


「なんつぅふざけた名前だよ……ヌメリコマツナ使うならちゃんと下処理しやがれ……」


「あれ?」


意外なことだが解毒ラーメン自体はそこそこだったらしい。だがヌメリコマツナが作り出す潤滑液に問題があった。

ヌメリコマツナは下処理がめんどくさい他にもう一つ食材として使われない理由がある。

めんどくさい下処理を終えてなお、次の日には潤滑液をじわりじわりと排出しはじめるのだ。しかも日を追うごとにザラザラした苦い潤滑液に変わっていく。

ようするに即日調理しかできず保存が効かないのだ。


「まだ美味かったであろうラーメンを帳消しにするコマツナ……スープはザラザラヌメヌメで気持ち悪いし喉に絡んできて……」


「へぇ……ヌメリコマツナってそんな効果あったんだ。調理中そんなヌメッてたっけな……?いやーごめん、ラーメン食う?」


「いらねぇ、もう食えねぇ……」


ゼルエルは丼を二郎に渡してカウンター突っ伏した。


「ゼル……だいじょうぶ?」


「ヌメヌメが腹にキテる……うぇ……悪いけど少し寝るから……あ、外は涼しいし陽の光ねぇから外で寝るわ……テオはゲンさんと喋って時間でも潰して……えぅ」


「う、うん……あんまりむりしないでね?」


ゼルエルは椅子からのそりと立って自分のリュックを引きずってのれんの外に出る。少し覗くとリュックの中から寝袋を引っ張り出している。


「ふむ……ヌメリコマツナは使わない方がいいなぁ。採ったその日に食うとシャキシャキでいい感じだったんだがなぁ……」


「そうなんですね……ゼルだいじょうぶかな……」


ゼルエルが出てから元一郎は自分の手から水を出し食器を洗い始める。テオは心配そうにのれんからゼルエルを覗いていたが、やがてゼルエルが寝つきはじめると椅子に戻る。

スーと二郎はまるで気にして無いかのように神言で会話を始めていた。


ジッと食器を洗う元一郎を眺めるテオ。元一郎の使っている魔法も気になるところだがそれ以上に気になることがありソワソワしている。


「……む?テオちゃんどうした?」


「あの……げんいちろうさんのさっきのはなしのつづきがきになって……」


「んぁ?ヌメリコマツナの事か?」


「いや、その……”にほんご”とか……」


「あぁ〜」


「げんいちろうさんのいたくにってどんなばしょだったんだろうなぁ……って」


「別世界」


「………………?」


テオは元一郎の言葉が理解できずに首をこてんと横に倒す。


「俺は十五年前……くらいかなぁ?あのチビ……えっと、この世界では五柱の神だっけか?の一人に連れてこられたんだよ」


「えっと……べつせかい?ごちゅう?」


「”五柱の神”の事も分からないのか?奴隷身分の子は大変なんだな……おじさんが教えてあげようか?」


「えっと……おねがいします」



★★



『今回は長かったわね、何日会わなかったのかしら?』


『八十日くらいじゃないかなぁ?ゲンちゃんが言うには「俺達は国を渡るから常連ってのはできないはずなんだがな。ゼルエルのアンちゃんは珍しい常連の一人だ、会わないと少し寂しいな」って言ってたよぉ?」


『ホント見えない糸で繋がれてるんじゃないかって思うくらいによく会うわよね……ゼルエルの行く道なんて適当なのに』


『糸の魔法?スーちゃん進化したのぉ?それともゼルエルぅ?』


『そういう意味じゃないわよ……糸の魔法なんて無いでしょうに。……そういえば貴女まだ”二郎”なんて変な名前名乗ってるのね……可愛くないのに、”ウィルメ”って名前、私は好きよ?』


『二郎はウィルメでも良いけど、やっぱり二郎なんだよぉ?ゲンちゃんがつけてくれた名前だもんねぇ〜えへへぇ』


『ホント変な子ねぇ……そういえば店の飾り増えてるみたいだけど?そこの小瓶の砂と天井に吊り下げられたオレンジ色の透明結晶』


『んぅ〜?あぁそうだよぉ。そこの砂は赤小人種(あかこびとしゅ)の子で透明結晶はグリエルさんがねぇ』


『グリエルさん?神獣?』


『そだよぉ?』


『知り合い?』


『違うよぉ〜たまたま通りかかったんだよぉ?ラーメン食べてくれた時に名前教えてもらったんだぁ』


『そう……まぁ元一郎の側を離れない事ね、貴女すぐ人を信じちゃうくせに弱いんだから』


『ゲンちゃんの側を離れるなんて考えられないよぉ。それと、スーちゃん基準で弱いと言われましてもぉ』


『ゼルエルも元一郎くらい強ければ楽でいいのだけれど……』


『相変わらず先生だねぇ、ゼルエルも普通の子よりは強いでしょお?』


『まだまだよ。光と闇に弱いんだから、この前の亀にだって……』


『先生、キビシィ〜!』




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