2 らぁめん屋
この世界における人種以外の生物を大雑把に分けると六種類になる。
虫類・魚介類・動物・超獣・魔獣・神獣
虫類と魚介類の説明は省こう。
動物・超獣・魔獣・神獣の分類分けは各国の冒険者ギルド、生物調査組合、自然保護組合、その他諸々の団体施設によって定められている。
動物は脅威度の低い獣の事を指す。
一般的な草食動物、または大人数人で何とかできる肉食動物。家畜やペットにできるものなどは基本的に動物扱いである。
超獣は大人はおろか普通の冒険者達ですら手がつけられない脅威度の高い動物の事である。
魔法とは別に個体の能力として炎を吐いたり風を操るもの、また人種に比べてあまりにも巨大な生物等は超獣として分類される。
動物と超獣の区別がつきにくい獣が多く存在しており、ある国で動物扱いの獣が別の国だと超獣扱いされている事が度々ある。
では魔獣とはなにか?
ありていに言ってしまえば”魔法を使う獣”である。強かろうが弱かろうが、大きかろうが小さかろうが虫類だろうが魚介類だろうが魔法を使うのならばその個体は魔獣なのである。
なので動物以外にも弱い魔獣が家畜にされてる事などは珍しく無い。
「ほら、前にあった亀のやついたろ?首すっ飛ばしてくるやつ」
「うん、こわかった」
「あれは魔法さえ使わなければ多分超獣扱いされるんだろうけど光と闇の魔法を使ってたから魔獣扱いになる。コルティオの最後に見た硬毛猪やさっき見たグレフィブルゼブラは暴れてたり毒飲んでたりしても普通の大人が捕まえたり大人しかったりするから動物扱いされるんだよ。硬毛猪は……ちょっと際どいけどな。めっちゃ硬くて暴れ方酷いし」
「へぇ……じゃあスーさんはまじゅうじゃないの?」
「確かにスーさんは魔法使いまくるし魔獣っぽいよな。でも神獣と他の獣じゃ決定的に違う事があるんだよ」
「ちがう?」
「ほら、スーさんと二郎見てみ?」
テオはカウンターの上に座るスーと厨房で食器を持った二郎に目をやる。一見すると不思議生物が向かい合っているだけなのだが……
「※※※※※※?※※※※※※※※※※※※※」
「※※※※※※※※※※※※※※!」
喋ってる内容がおかしい。
”ゲロ”や”ガァ”などの鳴き声しか出した事が無いスーが流暢に喋ってる事自体おかしいのだが、二匹の言葉は何故か聴き取れない。
喋ってるのは確かなのに理解できない。
「何言ってるか全然わかんねぇだろ?あれは”神言”って言うんだよ」
「しんごん……?」
「そう神言。五柱の神と神獣にしか扱えないとされる言語だ。普通の人間はおろか本能で生きる獣達にも聴き取れないし喋れない特殊な言語でな。獣で神言を喋れる奴等は総じて神獣扱いになる」
「なるほど」
「あと神獣は知能が高い。超獣や魔獣にも知能があって人の言葉を喋れる個体もいるけど神獣はほぼ全員人の言葉を理解できる。二郎みたいに喋れる個体も多いぞ」
「じろうさんは、なんていうしんじゅうなの?」
「”ブラックグリザイア”だな。基本的に温厚で人や獣を恐れない。つぅかむしろすり寄ってくる。同じ種類の神獣でホワイトグリザイア”ってのがいるけどこっちは凶暴もしくは狡猾で人を騙したり攻撃したり、酷い時は殺しにくるから神獣だけど害獣扱いだな」
「わるいしんじゅうもいるんだね。じゃあじろうさんはいいしんじゅうなんだ!」
「エヘヘ!ジォウイイコ!」
「二郎、丼二つ」
「ハイ」
「テオちゃん、二郎……ブラックグリザイアは生まれつき空を浮遊する事ができるんだが他に得意な魔法があるんだぜ?」
「じろうさんもスーさんみたいにまほうつかえるんだ!」
「スー嬢ちゃんの魔法と比べるとアレだがな……と、ほら、テオちゃんの方のラーメンできたぞ」
元一郎はできたラーメンをカウンター越しにテオの前に置いた。
「ふあぁ……いいにおい!これがラーメンなの?」
「そうだ!美味そうだろ?」
「今回のラーメンは綺麗なスープだな、透き通ってるみたいだ」
「嬢ちゃんのラーメンの出汁にはリョコウバトを使ってる、言うなりゃ鶏ガラだな。透明なのは鶏ガラを煮る時一緒に干した”色取小花”を加えてる、雑な色は抜けてるから綺麗だろ?あとは自家製の塩出汁で味を整えてる。麺は前の街で買った普通の小麦粉。トッピングはチャーシューになる様な豚の獣が見つからなかったからリョコウバトのモモ肉をパリッと揚げて代用したわ。あとは買ったネギとセイリョウザンタケノコのメンマ、ダークバードの煮卵で完成だ!名付けて鳥塩ラーメン!……安直か?あとはそこにある華仙ニンニクを入れても美味いはず……あ、箸かフォークはそこのニンニクの隣の箱ね」
「ありがとうございます!いただきます!」
テオは箱の中からフォークを取り出しラーメンと向き合う。慣れない手つきでフォークの麺を取り顔を近づけてかぶりつく様に食べた。
口に入れた瞬間に広がる味の深みにテオは目を見開いた。長い麺をあぐあぐと口に運び全て飲み込んでから元一郎に向けて一言
「おいしい!」
と叫んだ。そしてがっつく様に夢中で食べ始めた。
元一郎は思わず顔をニヤつかせる、元一郎は自分のラーメンを美味そうに食べる客を好む。
ゼルエルもテオの喜んだ顔を眺めている。
正確に言えばゼルエルの場合、目の前に置いてあるラーメンから目を背けているのだが……。
「おい店主……俺のラーメン透き通るどころか紫色なんだが……?」
元一郎はゼルエルとテオに別のラーメンを出していた。テオのはある程度レシピの固まっている確実に美味いラーメン、そしてゼルエルに出されたのは……
「試作品だ、食ってくれ。…………忘れてた、毒魔法 第二階位【解毒】。はいどうぞ」
「おかしいだろ!食べ物にやる魔法じゃねぇだろ今の!何入れたんだ!?」
「出汁はこの湖で取れたギークリンデフィッシュとカイエゾサソリのアラから。鳥塩同様塩で味を整えて、麺も同じ。トッピングは茹でたカイエゾサソリとヌメリコマツナ、あとは昨日見つけたグレフィブルゼブラの燻製肉。ちなみに水は湖からな。煮沸消毒して入れた。これを魔法で解毒して完成だ!」
※ギークリンデフィッシュ:世界中のあらゆる場所に適応する魚。川や海は勿論、毒沼、溶岩、氷海、地底湖などにも住み、住んでる場所によって体質を変える。毒の湖から取れたギークリンデフィッシュは紫色で血に毒を持つ。生息してる場所により身の味も変わる。
※カイエゾサソリ:神経毒を持つサソリ。掌サイズで森に縄張りを作る。普通食べない、
※ヌメリコマツナ:川の付近に群生する小松菜。茎から多量の潤滑液を出す。食用にするにも潤滑液を除去する作業がめんどくさいため向いてない。一部地域では潤滑液は夜の営みに使用される事があり人気商品たりえる。潤滑液は酷く腹に溜まる。
「いやぁあっちの世界では出せねぇよなこんなもん」
「アホか!客に出すもんじゃねぇだろ!」
「アンちゃんは客っつーか毒味役の方がイメージ強いんだよな……大丈夫だろ、俺の解毒でダメだったらスー嬢ちゃんいるし安心して食え」
「確かにスーさんいるから死なねぇけど!……えぇ……これ、食うの?」
「骨は拾って茹でとくから」
「俺は美味くねぇから!」
ちなみにこのラーメン、無臭である。
これだけおどろおどろしい見た目をした毒ラーメンでありながらなんの匂いもしないのは不浄反射のおかげではない。スーは水の膜に入った時点で不浄反射を消している。
では何故か?その答えは二郎、ブラックグリザイアの得意な魔法が関わっている。
「テオちゃんそのラーメン、実は普通に作ったらそこまてま匂いが広がるもんじゃねぇんだ」
「ズズズッ!ズルッ!ほぅなんへすか?」
「さっき二郎は得意な魔法があるって言ったろ?二郎は”香属性”が優れてるんだ」
「かおり?」
「匂いを操る魔法でよ。その魔法の第一階位【スメルボール】をそれぞれの素材に当てて匂いを強くしてるんだよ。スメルボールは当てた対象の匂いを強くする魔法だからな」
「そうなんだ、ふたりともすごいですね!」
「エヘヘ!ホメァェテウ?」
「あぁ褒められてるぞ、良かったな二郎。……で、アンちゃんのラーメンは第四階位【絶臭】を使ってる。一定時間対象の匂いを消す魔法だ。作ってる時匂いヤバかったからな……良かったな、これで食いやすい」
「作ってる時点で諦めてほしかったよ……わかったよ食うよ、食えばいいんだろ……」
「ゼゥエゥ、ガァバッテ!」
「……いただきます」
元一郎とゼルエルは知り合ってもう四、五年はたつ。客と店主、歳の離れた友人、そして目的は違えど同じ旅をする仲間として理解しあってるところがあり、だからこそ分かる。
この世界でラーメンを食べれる店はおそらくここだけである。ゼルエルは初めて元一郎に食べさせて貰ってからラーメンがの味を気に入ってるのだが、偶に出る実験料理を食べねば美味いラーメンは出てこないのである。
ゼルエルは嫌々箸を取る。普通のラーメンが食べたい一心で目の前の実験料理に手を付けるのだった。
ちなみにテオは出されたラーメンを大変美味しく完食した。
ホワイトグリザイア:二郎もといブラックグリザイアと違い体の色がクリーム色で目と口が真っ黒。




