1 らぁめん屋
「ゲンさん……?」
テオは笑いながらそう言うゼルエルと不自然な佇まいの建物を交互に見る。
”ゲンさん”というのは何だろうか?
そういった疑問を浮かべていると建物の中からのそりと誰か顔を出した。
黒い布を全身にかぶったような生き物。目はデフォルメのように丸い白、口?は白い糸のように見える。腕が生えており先が丸い、指が無いようだ。
建物内から覗き込んでいるように上半身のみ出しているため下半身が見えない。
ジッとこちらを見る謎の生き物。
そして口を開いた、口の中もデフォルメのような白である。
「ゼゥエゥ?スゥチャ?」
「しゃ、しゃべっ!?……ゼル?」
謎の生き物が突然喋り出した事に驚くテオの頭を撫でるゼルエル。
ゼルエルは笑いながら謎の生き物に話しかけた。
「おぅ久し振りだな二郎、元気してたか?」
「ゼゥエゥ!ァッシャイゼゥエゥ!」
「……ゼル……しってるの?」
「あぁ知り合いだ。二郎、ゲンさんはいるか?」
「ゼゥエゥ!ゼゥエ!ゲゥチャ、ゼゥエゥ!」
「ゲコ。※※※※※※※※※※?」
「スゥチャ!※※※※※※!※※※※※※※※※?ゲゥチャ!スゥチャ、スゥチャ!ゼゥエゥ!」
謎の生き物は舞い上がったかのようなテンションで建物の中に入っていく。
ゼルエルはテオの頭をぽんぽん叩きながらこの建物の説明をした。
「ここは……これは、だな。これは”ラーメン屋”の屋台だ」
「らぁめん?やたい?」
「そう、さっきの黒いのはこの店の従業員だ。この水は多分、店主が毒避けに出した魔法……細かい事はいいか。とりあえずこの中入るぞ」
「うん……」
ゼルエルは何の躊躇いもなく水の膜に入っていく。テオもゆっくりと入った。一瞬とはいえ水の中を通ったのに体は水滴一粒ついていなかった。
外から見て分かってはいたが中に水はなく空洞で霧は入ってない。だが立ち込める香りは外に比べてとてつもなく、テオは思わずごくりと唾を飲んだ。
建物に掛かっているのれんから中を覗いたテオは思わず目を奪われた。
五人ギリギリ座れる程度の狭いカウンター席、カウンターの奥には厨房があり食器や食材が数多く並べられている。デカい鍋には多量のスープが入っており、香ばしい匂いはそこから溢れていた。
店の壁や天井にはいろんなものがくっ付いてたりぶら下げてある。法則性は無くキラキラと輝く緑の水晶や巨獣の牙、光沢のある赤いツルなど様々である。所々油っぽい。
初めて見るものばかりの空間に高揚感を感じ始めたテオだが、厨房の後ろ側にある扉をペシペシと叩く謎の生き物を見て少し冷静になった。
「ゲゥチャ!ゼゥエゥ!ゼゥエゥトスゥチャ!キタ、キタヨ!キタノ?」
「いや、そこで疑問に持つなよ」
謎の生き物に返答する声が扉の奥から聞こえてくる。厨房の奥にある扉のドアノブが捻られ身長の高いガタイの良い黒目黒髪の男が顔を出した。
髪はオールバックで頭に布を巻いており紺色半袖長ズボンに白いエプロンを身につけている。
「ゼゥエゥ!スゥチャ!ソェト……メスノコ!」
「新顔ならお客様と呼べといつもだな……それより久しいなアンちゃん。スー嬢ちゃんも、息災でなにより」
「久し振りゲンさん。早速だけど店出すとこ思いっきり間違えてると思うんだけど?」
「それは分かってる。実は今日も一人しか来てないしな。まぁ場所によってはいつものことだが……」
「この毒に満たされた場所に……一人来たのか……?」
「あぁ、鎧とも呼べねぇ扇情的なピンクの鎧をつけたおっぱいちゃんがな。身のこなし的に武術家って感じだがそれよりエロおっぱいがな……ん?」
話が盛り上がりかけたところで男の目線がテオにいく。見た目圧巻の男の風貌にテオは思わずゼルエルの後ろに隠れた。
二人を交互に見て男は察した様に指を鳴らした。
「駆け落ちか、若い子は良いよな!」
「察せてねぇ!」
「ゼゥエゥ!メスノオキャクサマ!イススワッテ!スワッタァァクダヨ!」
「あぁそうだな、突っ立ってねぇでそこ座れよ?ラーメンくらい出すぞ?」
「コーヒー感覚かよ!……テオ、そこ座っていいぞ。緊張しなくてもこの二人は良い人達だから」
「う、うん……」
「ゼゥエゥトメスのオキャクサマオヒヤ!ハイドォゾ!スゥチャ、※※※※※※※※※?」
「※※※※※。※※※※※※※※※※※※?」
(……スーさん?)
ゼルエルが椅子に座ったの見てテオも隣に座って謎の生き物からお冷を貰うのだった。
☆☆
「あれ、このみずおいしい……?」
「普通魔法で作る水は不味いんだけどな、魔力を上手く練ることで味を変化させられるらしい。ゲンさんは魔力の練り方が上手いから美味い水が作り出せるんだよ。……しかもこれ聖水だし」
「やめろよ水くらいで、痒くなるぜ。まぁ褒められて悪い気はしねぇけどな!ハハハッ……と、嬢ちゃんは初めてだっけ、紹介が遅れたぜ。俺は梅田元一郎。あっと……この世界だと珍しいんだが名前の前が性で後ろが名だ」
「テオです、よろしくおねがいします……えっと…げんいちろうさん?」
「好きに呼んでくれて構わねぇよ?」
「俺は”ゲンさん”って呼んでる」
「メスノテオチャ!ジォウダヨ!」
「”メス”って言うのやめろ!……そっちの黒いのが二郎だ」
「よろしく、おねがいします?じろう……さん」
「テオチャ、オトモダチ?オトモダチ!」
「え?きゃっ!」
二郎は黒い手を伸ばしてテオの両手を掴みブンブンと縦に降る。
テオはいきなりの事で驚いたが、二郎の手の感触に不思議な感覚を覚えた。
「うわぁ……つめたい、ぷにぷにしてる……」
「テオ、そいつスーさんと同じで神獣だから」
「うぇ?そうなの?」
「お?テオちゃんは二郎が神獣って聞いても驚かないんだな?スー嬢ちゃんがいるからか?」
「いや、テオはちょっとした理由で世間知らずなんだよ。…………まぁ二人になら話してもいいか」
ゼルエルはテオと会った時の事を大雑把に説明した。
ちょっと知り合った程度ならテオが元奴隷だった事は誤魔化すのだがゼルエルは元一郎の事を信用しているので話す事にした。
話を聞いた元一郎は顔をしかめながら魚を捌いている。二郎とスーはおしゃべり中だ。
「そっか……テオちゃんも大変だったんだな……煮卵おまけしとくよ」
「えっと……?」
「でもアンちゃん、それなら神獣の事もそうだけどもっと一般的な事を教えといた方がいいんじゃねぇのか?無知は死を招くぜ?」
「それもそうだな……あ、俺も煮卵トッピングで。ラーメンができるまでの間に獣達の違いくらい教えとくか。ゲンさん」
「あぁ、ゆっくり作ってるから好きに話しな、どうせ客もこねぇ」
「じゃあテオ、スーさん達と他の獣達の違いを教えてやるよ」
「うん、わかった」
二郎:カ○ナシの仮面外して顔の部分にデフォルメっぽい目と口を付けたような見た目




