3 テオと魔法
「…で、お前ら何やってるの?」
ゼルエルが戻ると地面に倒れてるテオとテオのお腹にちょこんと座るスーがいた。認識遮断がないので外から丸見えだ。
「ふぁぁぁゼルぅ、スーさんが……えっと……なんかやってくる〜」
「なんかって……スーさん何やったんだよ?」
「ゲロ」
スーはゼルエルとテオを包み込むように先程の淡い青の光を放つ。
「ふおぉぉぉぉ……!」
「あぁぁぁぁぁ……」
二人は光の中で幸せそうに倒れていくのだった。
☆☆
「スーさん魔力強いんだから”リラックスフィールド”なんて使ったら俺達動けなくなるだろうが!」
”リラックスフィールド”とは空間属性の第二階位魔法である。辺りに淡く青い光を灯し近くにいる生物の心を落ち着かせる魔法。
範囲内にいる者の心を癒すという事から心に病を持つ患者、または精神異常を回復する心療方法として使われる。そのため空間魔法の第二階位を扱える者は医療の現場で重宝されるのだ。
だが魔力の強く込めすぎる、または長時間この魔法を当て続けると身体の力を限界まで抜かせ思考が回らずやる気が起きなくなり堕落させるというデメリットがある。
とはいえこういった魔法は余程魔力保有量が高かったり理解が深くなければ堕落させるほど強くもできないのだが、そこは魔力の塊”魔玉蛙”。一瞬で相手の力を抜かせる事など朝飯前なのである。
「グェ」
「いや、つーかなんで認識遮断消してまでリラックスフィールド使ってんだよ?」
「ゲロゲロ」
「えっとね……」
-説明中-
「つまりスーさんが舌でテオを舐めつくした挙句オールの練習をするテオの邪魔をしていたと、かまってちゃんかブフェッ!」
「グァァァ!」
理由を聞かされたゼルエルの変な言い回しに納得がいかないのかスーは長い舌で思いっきり殴る。
だがこんなやりとりをするとはいえお互い付き合いが長い、ゼルエルはスーが何を言いたいのかだいたい理解していた。
「……まぁだいたい分かったよ。テオ」
「なぁに?」
「オールやってみ?とりあえず自分の思う通りに」
「ゲロ」
「え?あ、うん、やってみるね?」
テオは言われるまま自分なりにオールを行う構えをとる。最初教えた時と大分違いガニ股立ちで全身に力を込めプルプルしている。右手を目一杯広げ左手で右手首を思いっきり握りしめる、そのままーー
「オォォォル!!」
叫んだ。
認識遮断がなければ獣達が近づいてきそうな程の大声で、テオにしてはやけに低い声で叫んだ。何故こうなったのか。
何も変化はないまま数秒時間が過ぎる。失敗なのは目に見えているのだがテオの表情は険しいまま手をわちゃわちゃ動かしている。
「……うん」
ゼルエルが立ち上がりテオの両肩を掴む。
「力みすぎじゃね?」
「りきみ?」
「身体中力入れ過ぎだとスーさんは言いたいんじゃないかな?あとそのポーズやめろ、なんか嫌だ」
「……うん」
「とりあえず座って、休憩、な?スーさんの言いたい事を説明してやるから」
「わかった……」
「じゃあその間に飯の準備するか。テオはどうする?」
「あ、てつだう!」
テオはそう言ってテントの中の道具を漁り始める。ゼルエルは溜息をついてから自分の頭にいつの間にか移動していたスーに目をやる。
「才能ありそう?」
「ゲコ」
「そっかー」
舌を動かしジェスチャーをするスーと会話?しながらゼルエルは拾ってきた薪で焚き火を作り始めるのだった。
☆☆
食事の途中でゼルエルはテオにスーの言いたい事を分かる範囲で説明した。
簡単に言えばテオが魔力を感じようとする際、右胸に意識を向ければいいという事。
身体中に力を入れ過ぎている、座って身体の力を抜いたら良いのではないのかという事。
「………………それだけ?」
「多分、それだけ。…………炎魔法 第一階位【ファイアーボール】、スーさんそれだけ?」
「グァム!……ゲロ」
それっぽく説明しても二分とかからない短い説明にテオは疑問を浮かべている。ゼルエルも少し自信なさげにスーに視線を向ける。
スーは長い舌でファイアーボールを吸収しつつピシッ!と上に立てた。おそらく意味として合っているだろう。
「まぁあんだけ身体中力んでたら魔力より筋肉に意識向きそうだしな。テオ、魔力は力を込めたら感じれるもんじゃなくて、もっとこう、精神的に感じるもんなんだよ炎魔法 第一階位【ファイアーボール】!」
「グェァム!」
「せいしん……こころ?」
「そう心。これからオールの練習をする時はできるだけ気持ちをリラックスさせて右胸に意識を向けてやるといいよ。右手を出してはいるけど右手に意識を向ける魔法じゃないからね」
「わかった!たべおわったらやってみる!」
「時間的に文字の勉強を始めます」
「えー」
「どっちも覚えるんだろう?効率よくいかないとな炎魔法 第一階位【ファイアーボール】!!」
「グァァム!!」
会話の途中にファイアーボールを挟みつつ二人と一匹は食事を続けた。
結局今日もオールは成功しないまま文字に頭を捻らせテオの一日は過ぎていくのであった。




