1 テオと魔法
「テオ、魔法使いたいのか?」
「うん、スーさんにごはんたべさせたい」
ゼルエルはスーに殴られた頬をさすりながら考える。
(魔法に興味を持つ動機としては如何なものかとも思うが自分の身を守る術を覚えるてるのは良いかもしれないな……護身用の小刀じゃ心許ないし……。俺とスーさんがいるけどもしもの事があるかもしれないからなぁ……)
どうしたものかと悩んでいるとテオはスーさんを持ったままゼルエルの目の前に来ていた。
「……ダメ?」
上目遣いでこちらを覗くように首を傾げるテオ。
子供好きならすぐさまノックアウトであろう。
「別にダメじゃない……けど、テオは父親の血……半分甲龍人の血が流れてるからもしかしたら適正のある属性が少なかったり魔力が少なかったり、もしくは魔法自体苦手かもしれないぞ?仮に魔法が使えてもスーさんと同じ魔法属性があるとは限らない。スーさんには魔法を食べさせてあげられないかもしれないがそれでもって言うなら教えるぞ?」
「そうなんだ……うん、だいじょうぶ」
「……まぁ、母親は魔人だし……もしかしたら魔法が得意かもしれないしな。とりあえずメシ食おう、片付けてから教えるから」
「わかった!あ、おかわり!」
「はいはい」
テオから空の器を受け取りシチューを注ぐ。
二人と一匹が出会ってからまだ全然長く無いのだがテオは前に比べて少し遠慮が無くなった。遠慮され続けるよりは多少図々しい方が楽なゼルエルにとっては良い傾向なのだ。
テオは子供らしくなり遠慮がなくなる事で鍋も空にできる、ゼルエル的には一石二鳥なのである。
鍋の中を空にしてあらかた片付けをはじめる。
本来片付けを終えた後は読み書きを教えているのだが、今回は魔法の基礎を教える事にした。
☆☆
「いきなり階位魔法の使い方なんか教えてもできるもんじゃないので魔法の基礎から教えます!……教え方下手でも勘弁しろよ?」
「はい!」
ゼルエルとテオはお互い立って向かい合っている。
スーはいつもの頭の上である。
「魔法を使うためには自分の魔力を感じ、適正属性を知らなければなりません!階位魔法になると想像と呪文も加わるんだけどとりあえずそれはまた今度な」
「はい!」
手を挙げて元気よく返事するテオ、なんか微笑ましい。
ゼルエルは小さく笑いながら指を立てる。
「んじゃまず魔法を使うための基礎中の基礎、”自分の魔力を感じる”事だ」
「じぶんのまりょく……?」
「魔力ってのは自分の体の中と外を血液みたいに巡ってるものだ。体内魔力と体外魔力って言うんだけど、魔法を行使するのにはそれら二つと自然に溢れる魔力とかを練れるようにならないといけない。そのためにはまず、自分に流れる魔力を理解する事が必要なんだよ」
「へー」
「……わかるか?」
「うん?……うーん?」
「これは理解してませんねぇ……」
呆然としながら悩むテオ、ゼルエルは溜息をついて話を続ける。
「あれだ、イメージしろ。何かが自分の胸あたりからグルグルと全身に巡るイメージ。説明不足で悪いとは思うがこれだけは本人の感覚で知るしかない。魔法下手な人はここでつまずくぞ」
「や、やってみる!」
テオは小さな拳を握り目を瞑って力んでいる。
魔力を感じるのに力む必要は無いのだが……時折ハアァ…!と口走っている。なんか微笑ましい。
その様子をしばらく眺めていると力みながらチラッとこっちに目線を向けた。
「で……できてる!?」
「いや〜魔力は目に見えないから自分にしか分からん」
「えぇ……」
「だからこそこれが一番教えるが難しいし理解しづらいんだがな」
テオはがっくりと肩を落とした。
この様子だと魔力を感じれないか、感じててもそれが魔力か分からないのだろう。
「まぁ実際できてるかどうかは今から教える方法で分かるから良いけどさ。とりあえず次は自分の魔法属性を知ろうか?」
「どうやるの?」
「まぁ見てな」
ゼルエルは右の手を自分の前に出し、手のひらを上に向け広げる。空いた左手を右の手首にかぶせるように掴み、一言
「オール」
と呟いた。
するとゼルエルの五本の指のうち、三本の指に変化が現れる。
「うぇ!?ゼル!ゆびがっ!?ゆび!!」
「落ち着けって」
中指は真っ黒に染まり、薬指の先がほんの少し燃えている。そして人差し指はぽっかり消えていた。
「これが俺の適正属性だよ。”オール”は自分の適正属性の魔力も練らずに指から垂れ流す魔法だからな」
「ゆびが……きえ……」
「中指のこれは影、指が全部黒いからそれだけ濃く適正があるって事だ。薬指は炎、指先がほんの少ししか燃えていないから使えるけどほんの少ししか適正が無いって事だな。そして見えなくなった人差し指だけど……これは”無”だ」
「む?」
「無属性。指が全部消えてるから影と同じくらい適正があるんだけど理由があってあまり使えないんだよ。ま、それは今はおいといて」
ゼルエルは左手を離し右手の魔法を消した。
影と炎は消え、消えた指が現れる。
「わ!ゆびでた!」
「今のが自分の魔法属性の知り方な。自分の利き手を上に向けて逆の手で手首を掴む。後は適当に魔力を利き手に向けて送るだけだ。魔力を練ることは難しいが流すこと自体は感じていればすぐできるはずだぞ。その時”オール”って言うと発現する」
「なるほど……わかった!」
テオは早速と言わんばかりにゼルエルと同じポーズをとる。口から「ハァァ……!」と呟きながら魔力を右手に送る。そしてーー
「オール!」
そう叫んだ。
静寂、風の吹く音だけが聞こえる。
テオの指先に変化は見られない。
「オ、オール!オール!」
テオは叫ぶ、体を力ませて手を睨み何度も何度も。
しかしまるで変化は訪れない。
「全然魔力を感じれてないわけだな」
テオは顔を真っ赤にしながら同じことを叫んでいるがやっぱり変化はなかった。
ホントは止めるべきなのだがなんか微笑ましい光景なのでしばらく静観を決めるのだった。




