2 亀の魔獣
後ろには周囲を光で照らして森の草花を踏み荒らし、首を引っ込めて長い足を懸命に動かしバタバタと追いかけてくる牙を剥き出した亀の魔獣がいる。キモい。
「だかぁらさぁっ!あの亀相手だとテオを守りながら近接できねぇの!」
「グァァ!」
右腕でテオを抱えながら逃げるゼルエルは左手で鷲掴んでるスーに助けを乞いている。
スーはすこぶるめんどくさそうだ。
「倒せない相手はスーさんがやってくれる約束だろ!」
「ゲェ」
「いや確かに倒せるけど!倒せるけどさ!あぁほら!頭飛んできた!」
飛んでくる亀の頭を躱しつつ、ゼルエルはまるで会話ができているかのような素振りでスーと話す。
テオは一人と一匹を交互に見て疑問を口にする。
「ね……ねぇ……スーさん、たたかえるの?」
神獣の事を理解していないテオはスーが”魔法を使うカエル”ぐらいにしか思っていないのだ。
テオの質問に対し不愉快そうな顔を浮かべるスー、ゼルエルはそれを見てにやりと笑う。
「ほらスーさん、テオも気になるってさスーさんの実力!」
「えっ?」
「ここらでバシッと一発決めて俺より凄いってとこ見せてあげないとさ!今のテオの印象、”便利で可愛いカエル”程度でしか無いぞ〜?」
「グァ……」
「え、え?」
スーは目を細めてテオをじっと睨んでいる。テオは腕の中であたふたしながら言う。
「あ……えっと、カメ……こわいからどうにかしてほしい……かな?」
ゼルエルはムカつくにやけ顔を浮かべている。
スーはテオの言葉に軽く溜息をついて、ゼルエルの手から脱出すると腕に乗って舌を出しジェスチャーをする。
「グァ!グェ!」
「ん〜……あぁ止まれって事ね、はいはい。テオ、ほら」
「んぇ?……うわ!」
スーの指示通り走る事を止めてテオを地面に降ろし、向かってくる亀の魔獣の方を向いて手を突き出した。手の甲にはスーが乗っている。
「これでいいか?」
「ゲロ」
「あ、あぁ!ゼル!?カメが……」
「まぁそこで見とけ」
「う、うん……まぶしい……」
亀の魔獣は光の玉を出しているため眩しく見え辛いが首を思いっきり引っ込めて体に埋めている。おそらくまた頭を飛ばすつもりだろう。
だんだんと距離を詰める巨体な亀の魔獣に対しこちらは動かずにスーが行動を起こすのを待っている。
テオは手で光を抑えながらゼルエルに捕まって震えながらスーを見て、そこで気付く。
光が溢れるこの場で色の違う光がスーの背中から輝いている。
赤い輝きは亀の生み出した光を飲み込まんとする程にだんだんと強くなっていく。
ふとゼルエルに視線を移すと顔にシワを寄せて冷や汗をかいていた。
「……お前ッ!嫌がらせか!」
「……」
スーは知らんと言わんばかりに無視し、周囲に青い炎を散らし始めた。
散らばった青い炎は少しづつ集合し、二匹の狐のような形に変わる。
亀の魔獣は二匹の狐に身の危険を感じたのか、足を止める。
そして尻尾を突き出し光を強くしてーー
瞬間、一匹の狐が凄まじい速さで飲み込むように光の玉ごと尻尾を燃やした。燃えた尻尾は時間もかけずに灰へと変わり果てる。
「ーーッ!!?」
亀の魔獣は鳴かないのだろう。だがいきなり燃えた尻尾に痛みを感じて大口を開き叫ぶような表情をして暴れている。
亀の魔獣の頭が飛ぶ速度より遥かに早い狐の動きにテオは驚愕していた。
光は消え周囲は青い光ととスーの赤い魔玉の輝きに支配されている。そしてじわじわと背中に付いている薄い黄色の魔玉が光を放ちだした。
尻尾を失い痛みで暴れていた亀の魔獣はこちらを目を血走らせて睨んだ。鋭い牙を持つ大口を開き頭を吹っ飛ばしてきた。
「きゃああああああ!」
砲撃のように飛んでくる頭の標的は炎魔法を放ったスーだ。テオは真っ直ぐ突っ込んで来る頭を見て思わず叫んだ。
吹っ飛んできた頭はスーとゼルエルの手を噛みちぎってーーいない。
亀の魔獣の頭はスーの目の前で止まっている。
牙を剥き出していた大口は小さく開かれ、血が中に溢れ地面に垂れ流している。
「…………えっ?とまって……ひっ!?」
テオは目の前の血を垂れ流す頭では無くその後ろ、伸びた首の方を見て驚愕した。
亀の魔獣の長い首に三本の槍が刺さっている。
淡く輝く槍は長く首を貫通して地面に突き刺さっている。上から地面ごと刺して飛んでくる頭を止めたのだろう。
まだピクピクと動いている亀の魔獣に追い打ちをかけるようにスーは舌を出して炎の狐に指示をだす。
二匹の狐は亀の魔獣の体を囲むように走りだす。やがて亀の体が青い炎で燃えていく。
「ーーーー……っ」
亀の魔獣は苦しむようにもがいていたが、やがて力尽きて地面に倒れた。
倒れてなお二匹の狐は駆ける、そうして青い炎が全身を包み時間をかけずに灰になっていった。
灰になった亀の魔獣を見てスーは狐と槍を消した。背中の魔玉はもう輝いていない。
すると突然ゼルエルが声を上げた。
「あっついわ!!毎回言ってるけど俺の体に乗りながら炎魔法使うのやめろよ!本気で熱いの!痛いんだって!」
「……」
騒ぐゼルエルを無視しテオの方を向くスー。
顔はどうだ?凄いだろ?と言わんばかりのドヤ顔である。
腕から解放されたテオはぺたりと座ったまま口を開けて灰になった亀の魔獣を見つめていた。




