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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
20/42

13 糸の町『コルティオ』

「テオちゃん、絶対見送りに行くからまた会おうね!」


「うん、ペルティエさんありがと」


「……また会うかもしれないみたいだが一応、世話になったなメルド。ペルティエさんも」


「ああ、朝起きれたら俺も顔出すわ」


「メルドさん、バイバイ」


定食屋でメルド達と別れを告げたゼルエル達は宿泊してる宿へと帰ってきた。

店主に銅貨を渡し、今は湯浴み室の中である。

スーの体を泡で擦ってるテオの頭をワシャワシャと洗いながらゼルエルは明日の予定を話した。


「明日は必要な食糧とか買ったら部屋で荷物の整理始めるからな、何か必要な物あるならその時言えよ?明後日の朝には町を出るからな」


「んむ」


「グェゥ」


泡まみれで口が開かない一人と一匹は気の抜ける返事で返した。


その後、特に変わった事も無く湯浴み室で風呂に浸かった後に部屋で寝て明日に備えるのであった。



☆☆



次の日の朝、二人と一匹は食べ物の売っている市場に顔を出していた。山に囲まれたコルティオは海産物などは並ばないが、山で取れる山菜などが豊富である。また蜘蛛人のほとんどが肉好きであるため狩りで取れた獣の肉が大量に並んであった。

テオは見た事ないものに興味を示し、指を差してゼルエルに質問を繰り返していた。


「ゼル、これなに?」


「それは樹木人参だな、あまり日持ちしないから買わないぞ。探せばあるだろうし」


「あるの?」


「あぁ、普通の人参と違ってデカい木に刺さってんだよ。木の栄養を吸ってデカくなる」


「そうなんだ……すごいね!」


「すごいか?……あ、おっちゃんそれくれ」


「毎度、銅貨二十枚だよ」


「ゼル、あれ!」


「ほら銅貨、確かめてくれ。あれは何だろうな、何かの獣肉だろ?」


テオの質問責めを適当に流しながら答えつつゼルエルは市場の店を回り馴れた手付きで買い物を進めていった。


「いいかテオ、ある程度の知識と技術さえ持っていれば旅の途中で食糧難に陥っても山菜を採ったり獣を狩って解体して肉を食ったりできる。釣りで魚取ったりとかもな」


「うん、あ、あれは?」


「あれは普通のニラだな。……だけど調味料や香辛料は町に行かないと手に入らない。例外はあるけどな。無くても平気だ、けど食うなら美味い方がいいだろ?だからそういうものを中心に買っていって、後はなるべく腐りにくいものを選ぶんだよ」


「ちょーみりょうやこーしんりょうがあるとおいしくなるの?……あ、ゼル!あれすごいね!?」


「あぁ美味くなる。……随分デカい肉が吊るされてるな、鹿とかじゃねぇかな?あ、あった!」


ゼルエルはテオを引っ張り少し体格の大きい四十代程の女性が開いてる店に向かう。店には様々な色の四角い塊が売られている。


「ゼル、このしかくのはなに?」


「これはな、”メルト”っていう調味料や香辛料の塊みたいなもんだ」


「メルドさん?」


「……あの人はきっと美味くないぞ?」


メルトは料理大国”スウェルスン”発祥のものである。

あらゆる調味料、香辛料を混ぜ込んで作られたミックススパイスを凝縮し四角い固形物にしたものであり、具材を入れたお湯に溶かすとそれだけで料理になる便利な代物である。腐りにくく小さいため持ち運びも楽であり冒険者や商人、旅人達にとって必須アイテムとも呼べる。


「すごいね!」


「あぁ凄い、全国どの町にも絶対置いてる訳じゃないけどこれがあるのと無いのじゃ全然違うからな。場所によって素材が変わるもんだから同じものでも味が変わるんだよ。面白いだろ?おばちゃん、これとこれとこれとこれ、十五個ずつくれ」


店の女性からメルトの入った袋をを受け取り代金を払う。買い物はこれで全て終了だ。


「他ないよな?」


「うん」


「ゲロ」


「じゃあ宿に戻るぞ〜」


「お〜」



☆☆



食料品に衣類、旅に必要な道具などが部屋に並べられている。その量はゼルエルとテオのリュックや腰にかける袋、ポケットなどに入れても入らない程である。


「ゼル、どうするの?」


「まぁ見てな、スーさん」


「グァッ」


スーは背中の薄紫の魔玉を光らせ目の前に魔法を発動する。魔法は光を凝縮し、一つの箱を床に落とした。

ゼルエルの膝くらいの高さで横は縦より少し長い長方形の透明な箱である。中には黒い衣類が三枚と中に何か入っているであろう小さな袋が三つ。スカスカである。


「これな、空間魔法第四階位【ボックス】っていうんだ。持たずに中に物を入れて運べる」


「ゲコ」


「へぇ〜……」


「この魔法は少し特殊でな、こういう系統の魔法なら魔力量によって大きくなったり小さくできたりするんだがボックスは魔力量関係無くこの大きさの箱しか出せない。それでいて一度出したら次使えるのは一週間後だ。しかも消してても中の物は時間が進むし回りの気温や湿度の影響がもろに出るからあんまり食料は入れない方がいいんだ。途中取り出せないからな。……まぁメルトとかは温度変化に強いから半分くらい入れるけど」


「うん?……うん」


多分、食べ物入れちゃダメ程度にしか理解していないのだろうが、それさえ分かってればそんなに問題は無い。

テオは分からないままに返事をして、ふと机にある硬貨の入った袋を見た。


「おかねおもいならそれにいれちゃダメなの?」


「うん、俺も昔はそう考えてた。でも銅貨って際限無く増えるんだよね……だからまぁ、やっぱり必要最低限持ってるのが良いのよ。さっきも言ったけどこれに入れるといざって時に取り出せなくなるし」


「へぇ……」


「だからまぁ食料品とかは俺が持つから、テオは普段自分が使うものをリュックに詰めな、櫛とか。で、着ない服とかはボックスに突っ込む感じで。あと場所が余るようなら何か持ってもらう感じで頼む」


「分かった!」


するとテオは迷い無く一着掴んでボックスに突っ込んだ。ペルティエと一緒に買ったスカートである。


(一度見てみたかったな……)


少し残念な気持ちになりながらゼルエルは自分の荷物を整理するのだった。




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