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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
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1 彼と少女とカエル

彼は少女を抱えながら思う。


(…硬い)


だいたい5〜8歳くらいであろう小さな少女、手入れの行き届いていない白髪を生やしている。少し痩せているが愛らしい見た目である。


蝕んでいた肌の湿疹は馬車の残骸の下に埋もれてた時に比べると若干引いているが、それとは別にアザや傷などある、白い肌をしているため非常に目立ち痛々しい。


そしてなにより気になるのがこの少女、硬い。肌のプニプニ感などは若干あるものの子供にしては異様に硬い。肩などは特に硬い、鉄のようだ。


崖から落ちてなお無事な理由はこの硬さゆえか?


(いくら何でも硬すぎだろ…どの人種の子だ?)


彼は頭の中で自分の知っている限りの肌の硬い人種を思い浮かべる。


(こんだけはっきり人なのに人らしく無い硬さ…ってことはハーフかな?片親…硬い…うーん、甲虫系の人種ならありえなくも無いのかな?でも虫人らしい特徴もないよなぁ………あっ!貝系の人種ならありえなくも無いか?)


少女を抱え思考しながら森を歩いていると突然頭の上から何かが垂れてくる。頭に乗せている蛙の異常に長い舌だ。


「ゲコォ」


「ん〜?スーさんなに…ってもう陽が落ちるな。ここいらで野宿するかぁ」


「ゲロゲロ」


上を見るともう陽が落ちかけており辺りが暗くなってきている。陽が落ちては野宿の準備がめんどくさくなってしまうと感じた彼等は森の少し広い場所で野宿をする事に決めたのだった。



☆☆



テントを張り、背負っていた荷物を中に置く。そして彼は持っているナイフで周りの木に傷を付けた。


「この子はテントの中で寝かせておくか…いつ起きるか分からないし夜は冷えるから寝袋に入れておこう。スーさん、いつもの頼むよ」


「グァ〜」


彼の言葉に蛙が気怠げに返事をする。

直後、蛙の背中に付いている六つある玉の一つ、薄紫の玉が光り始める。光は広がっていき、スーを中心に円を描くよう周囲に散らばり、そして地面に僅かな薄紫色を残し光はぽつぽつと消えていった。


空間属性、第三階位の魔法【認識遮断】である。


冒険者や旅人にとって恐ろしいことの一つが野宿である。夜は活発になる獣が数多く存在するため寝込みを襲われる話などザラにある。そのため野宿をせねばならない長旅をするなら普通、仲間とパーティを組むか冒険者ギルドで冒険者を雇い一人か二人に深夜の見張りをさせるのが一般的だ。一人で長旅や危険な冒険に出る者は自殺志願者と勘違いされるほどだ。


彼等も一人と一匹なのでよく勘違いされるのだが彼等には獣から見つからない手段がある。それが蛙の使える”空間魔法”だ。


空間魔法【認識遮断】は発動している自分を中心に薄紫の円を作り、円の内側にある物を外側から見えなくする魔法である。見えなくなるだけではなく匂いや音も感じなくなるのでほとんど見つかる事が無い。


欠点としては円の中に入られると効果が無くなる。たまたま通りかかった獣に見つかる事も無いわけでは無いが、あると無いとでは段違いだ。


魔法を発動してる間は魔力を失っていくが蛙の魔力量は膨大だ、第三階位の魔法程度なら夜の間は余裕でもつ。


「じゃあ俺火元になるような枝とか拾ってくるから、遅くなったらいつも通り音飛ばしてくれ」


「ゲコ」


彼はナイフを持ち認識遮断の外に出て木を拾いに行った。周りの木に傷を付けてたのは”ここに円がある”と分かりやすくするためである。


蛙は彼が森に消えるのを見ると寝ている少女の前に移動し、鎮座した。



☆☆



彼が行ってすぐの事、少女が目を覚ました。

若干寝ぼけた感じで周囲を見渡す。今まで見た覚えの無いテントの中をゆっくりと頭と目を動かして確認、そして目の前にいる白い蛙をみて目を見開いていた。


「……………しろい…………かえる………?」


「ゲコ」


蛙は返事をするように返す。

少し驚いた少女。体を起こし寝袋の中でまた周囲を見回す。呆然とテントの周囲を見回し、ふと、違和感を感じ首に手を触れて気付く。


隷属首輪が無い。


少女は寝袋から飛び出した、両手で首元を触り始める。

蛙が呆然と見ていると少女は震え始めた。


「くびわ…ないっ!?なんで!?やだ、しんじゃう!しんじゃうよぉっ!!」


少女は首元を両手で抑え体を震わしている。

とてつもない恐怖を感じているのか、震え方が尋常ではない。


蛙人の感情や言葉を理解できる、蛙なのに頭がキレるのだ。そのため少女が何に怯え震えているのか理解できる。

声……というより鳴き声をかけようとしたところで少女はポロポロと泣き始めた。


「いやぁ…ひっぐ……しにたくないぃぃ、しぬのやだぁ……ぁぁぁああ」


首輪の効果など既に無い、だがそれを伝える術は人の言葉を喋らないこの蛙には無いのだ。

泣き続け息を荒くし始めた少女を見るのに焦りを感じた蛙は薪拾いに出た彼を呼び戻すために魔法を発動した。


音魔法、第二階位【対象音送】


印を付けた相手に自分の声を飛ばす魔法である。


《グァァァァ!グァァァァァアァアァァァ!ゲコ…グァァァァァァ!》


彼に音を飛ばし続けた、必死に、さっさと戻ってこの子止めろという思いを込めて…。



☆☆



《グァァ!グェ!グァァァァァ!》


「えっ早くね?まだそんな経ってないし…つか声必死だな、なんかあったのか?」


相棒の蛙の必死な鳴き声をキャッチした彼は拾った木の枝などを持ち、音の鳴る方向へ歩みを進めた。


(超獣か魔獣にでも中に入られたかな?いやぁでもスーさん、余程の事がないと負けるはずないよなぁ……)


信頼をよせる蛙のそこそこ心配しつつ歩いていると傷のある木を見つけた。目の前からスーの音が聞こえる、認識遮断で見えないがそこに居るのは確かだろう。


彼は両手を目の前に伸ばし認識遮断の結界を探す。そしてゆっくりと認識遮断の中に入っていき、目の前に自分達のテントを確認した。


「お〜い、今帰った……ぞ………?」


テントの中に寝かせていた少女が震えながらうずくまって泣いている。側にはぐったりしてる相棒の姿が見えた。


「え、なにこれ?」


「グェェ…」


「しにたくないよぉ……」


蛙がこちらを見ている、早く止めろとでも言いたげな目を向けている。

彼は状況を理解できぬままに取り敢えず少女を慰めにかかるのであった。



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