11 糸の町『コルティオ』
食料品以外大方揃えた二人と一匹は町を観光していた。
最初この町に入った時もそうだがテオは周りの店や建物、町を歩く人達の活気などに目を輝かせキョロキョロと辺りを見回していた。
ゼルエルの手を握り離れようとはしないものの内心は好奇心旺盛なのだろう。それでもテオは”あそこに行きたい”といったことは言わない、だからゼルエルはテオが興味を示しているであろう視線を辿り手を引っ張って歩いた。
”糸の町”と称されるだけあってか所々に糸を使用した品物などが揃えられている店がたくさんある。やはり目につくのは衣類を扱った店で少し歩けば別の服屋がある程に充実していた。
ふと、テオが一つの店をジッと見た。ゼルエルはそれを見逃さずにその店へテオを連れて行く。
店内に入ると様々な人形が棚に飾ってある。どうやら人形を扱う店なのだろう。
コルティオでは糸で編み込まれた人形なども人気のようである。中は女性客や子連れ夫婦で溢れていた。
非常になれない空気の中、ゼルエルはテオと人形を見て回る。テオは他の人形に目もくれずにそれをジッと見ていた。
デカイカエルの人形だ。
緑と白の糸で編み込まれたカエルの人形、触り心地は滑らかでふわふわとしている。
スーはポケットの中から細目でそれを覗いていた。
「テオ、悪いけどこういうデカい人形はちょっと……」
「ううん、いらない」
「そうなのか?あっちの小っちゃいのなら買ってもいいぞ?」
「スーさんのほうがかわいいって……おもっただけ」
「ゲ……」
言われなれない言葉に硬直するスー。
ゼルエル笑いながらスーを指でつつく。
「良かったな、可愛いってよ?」
スーはゼルエルの指を舌で叩いてポケットの奥に潜った。
その光景を見たテオに今まで気に掛けていなかった疑問が浮かぶ。
「……ゼル」
「どうした?人形欲しいのか?」
「ううん」
ゼルエルの質問に首を横に振って否定するテオ、そして聞く。
「スーさん、おとこのこ?」
「メス」
「メス?……おんなのこなんだぁ」
テオはスーの入ったポケットをジッと見て、微笑みながらボソッと
「スーちゃん?」
と言った。
するとポケットから長い舌がにょろにょろと出てくる。
出てきた舌はテオの頬をグリグリと押している。
「ゲロォ」
「うあー」
「はっはっは……ぶへっ!?」
二人を見て笑っていたゼルエルの頬を舌が殴りつけた。
結局人形は買わなかった。
☆☆
夜、晩御飯を食べようと定食屋に入った時の事である。
「ゼル、おねがいがあるの」
「……」
メニューを見ながらテオにどんな料理が教えてた時の事、テオが自分からゼルエルにお願いがあると言い出した。
ゼルエルは内心喜んでいた。
子供らしいおねだりなんてできない環境で育って、まだ奴隷から解放されてまだ一週間の彼女である。
そりゃ助けたとはいえ会ってまもない男にそんなわがままとか言わないだろうなんて思う半面、手を繋いで隣を歩くテオを見てると思わず色々してあげたくなってしまう気持ちがあった。
「ど、どうしたテオ?何かしたい事とかあるのか?」
「うん、”もじ”がよめるようになりたいの」
テオは真剣な眼差しでゼルエルを見つめていた。
テオは字が読めない。理由は簡単、奴隷だったから。
奴隷にも様々な者がいる、中には字や勉学、魔法を教えられる者もいるがそんなのは極少数であり、基本的に男なら過酷な重労働、女なら娼館に売られたりである。
「わたしね、ちいさいころからレギス……さまのところでどれい、してたの。みんなのことばきいて、しゃべることできたけど……よめないの……」
おそらくテオは周りの人達の言葉を必死に聞いて喋れるようになったのだろう。だからなのかテオの喋り方は少し拙い。
「……だめ?」
「いや……むしろ読み書きできる方が後先便利だろうし、俺の下手な教え方で良ければ教えてやるよ?」
「……ありがと」
後日二人は一冊の本と紙束とペンを買った。
本当なら絵本などが良いのかもしれないが旅ではかさばるのでなるべく薄い文字練習の教本を買ってあげた。
あまり見栄えのよろしい本ではないものの、それでもテオは喜んで持ち運んでいた。
「ゼル、わたしがんばるね!」
「おう、頑張れ」
「ゲロ」




