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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
17/42

10 糸の町『コルティオ』

ゼルエルとテオは町を歩いていた。

スーはゼルエルのコートのポケットの中である。


朝、宿を出てすぐテオに必要な物を求め店を歩き回り赤いリュックや器等を買っていた。

リュックに関してだが、テオはゼルエルと同じような完全に冒険者用のデカくて黒いリュックを選ぼうとしていたのでゼルエルがテオの体格にあった赤いリュックを選んだ。

服装真っ黒でセンスのないゼルエルが選んだものだが、赤いリュックはちゃんとテオに似合いホッとする。可愛い子はなんでも似合うものだ。

テオはリュックを買ってもらった事よりも、ゼルエルに選んでもらった事に喜んでいたのだがそれはゼルエルの知らぬところである。


昼になり昼ご飯を適当な定食屋で済ませる。

定食屋を出て向かう先は昨日同様服屋だ、ただし今回はテオのためではなくゼルエルのためだ。


「まぁ、せっかくこの町に来たんだし、冬月来る前に服買っとくのもいいよなぁ」


「わたし、えらぶよ!」


「まぁ、頑張って選んでくれ」


そうこう話してるうちに蜘蛛人種以外の服を取り扱っている服屋を見つける。


「いらっしゃいませー!」


中に入ると元気の良さそうな店員がお決まりの台詞を言ってきた。ゼルエルは軽く頷き店内を見て回った。


(……やっぱ黒ばっか着てたから何が似合うとかぜんっぜんわかんねぇ…………)


普段から黒に逃げていたゼルエルはカラフルに彩られた様々な服を見ても手に取ろうとしない。


ただキョロキョロと服を見ているとコートの中からスーの舌が出てきた。

舌は誰にも見られないようにゼルエルの右にある棚に置いてあるピンクのズボンを指した。


「ばっ!?お前こんなん似合うわけ…」


「お客様?どうかなされました?」


「あ、……ナンデモナイデス」


店員に尋ねられ恥ずかしくなったゼルエルは愛想笑いを浮かべながらバシバシとポケットをはたく、スーはにやけ笑いでも浮かべているのだろう。

そんな事をしている間に

テオが店員を呼んだ。手には暗めの青色と白の糸で編みこまれたフードと首から胸元辺りまでのチャックのついた服を持っている。


「これ……あったかい?」


「え、あ、はい。そちらの服は冬に備えて作られたものでして火炎蜘蛛人の糸と綿蜘蛛人の糸を編みこまれております。それだけでなく防水性や耐久性を上げるため水蜘蛛人と象蜘蛛人の糸も使用し、冒険者の方々などに……」


長々と喋る店員、テオはだいたい”あったかいんだね”くらいで理解して、喋り続ける店員に聞く。


「これきていい?」


「さらにこの服……はい?あ、えぇ、試着ですか?構いませんがその、お客様には少し大きいかと……」


「ちがう、ゼル」


テオは真っ黒な服装を纏った男を指差す。


「ゼル?……あぁ、そちらのお客様ですか、でしたらこちらでは逆に小さいかと。大きめのサイズをご用意して参ります。試着室はこちらですので」


「……あれ着るの?」


「……きないの?」


しょんぼりするテオ、ゼルエルは溜息をつきながら店員の持ってきた服を着るのであった。



☆☆



結果から言えばそんなに悪くは無かった。

テオは店員と服を沢山持ってきてはゼルエルに着せて楽しんでいた、自分の服にあまり興味を示さなかったくせにやはり女の子なのだろう、服選びが楽しそうであった。

ゼルエルは最初は慣れない服を着てらしくもなく恥ずかしがっていたのだが後半ヤケクソになっていた。持ってこられた服を着ては見せるという誰得ファッションショーが店内で行われていた。

横にかけられたコートの中から覗くスーは終始顔がにやけヅラだった。


結局勢いで様々な服を買ってしまった。

ノリに任せた事に後悔したゼルエルだったが、まぁこれから冷え込むし暖かい服を買い換える時期なのだろうと、そう思い込んでゼルエル達は他の店へ向かう。


向かった先は武器屋だ。


「らっしゃ……あんたらか、なんか用か?」


「あぁ、前来た時に買うの忘れてたんだ。テオ……この子に護身用の短剣かナイフを持たせたい、なんかあるか?」


「わたし?」


「そうだ。旅に出ると何があるか分からねぇからな、腰になんかぶら下げとかないとな」


「その子のか……ちょいと待ってな」


武器屋の店主は店に飾ってある物を歩きながら見渡し、小さな小刀を手に取り戻って来た。


「これなんかどうだ?軽くて小せぇの選んで見たんだが」


「俺のサバイバルナイフと違って随分真っ直ぐとした奴だな」


「あぁ、これは刀っつぅもんの小さいヤツよ。切れ味良く比較的軽い、鞘に納めてると一本の木の棒みたいで良いだろう?」


テオは手にとり鞘を抜いた。

抜かれて露出した光る刃を見て小さく「おー」とは言っているものの、きっとあまり分かってはいない。


「取り敢えずはそれでいいよ、何枚?」


「銀貨二枚」


「……いくらなんでも安すぎじゃないか?」


「純魔道具の礼だ、気にするな。どうせそんな高くないしな」


「そーかよ」


銀貨二枚を支払いテオに小刀を渡す。

店主に別れを告げ二人は店を出て宿に帰る事にした。



☆☆



荷物が大量に置かれた部屋を見る。

正確には買い物をした後の服や紙袋荷物の中から取り出したものなどが散乱しているために大量に見えるだけである。それでも……


「いっぱいあるね……?リュックに入るかな?」


「いや、リュックには必要な物しか入れないよ?後は腰に袋付けて吊り下げたりリュックの上か下にでも結んで付けるけど、他に入れるところあるから」


「そうなの?どこにあるの?」


「ゲロ」


テオの疑問に返事するようにスーが鳴く、そして背中の薄紫の玉が光りだして……


「待ってスーさん!」


「ゲ……」


「まだ入れるわけじゃないから、今使ったら入れられなくなるでしょーが」


「……?なに?」


「あぁこっちの話。スーさん、まだ時間あるし、それはこの町を出る前日にやるよ」


「……グェ」


テオはわけのわからないままにゼルエルとスーを交互に見る。


「テオ、取り敢えずは今ある荷物を整理しよう。服とかは畳んで綺麗に置いといて、要らない紙袋とかは明日捨てるからまとめとくよ」


「うん」


ゼルエルは買ったものを袋から出して整理をし始めた。テオは服の畳み方が分からず、途中ゼルエルから色々聞いて時間を掛けて自分の物を整理するのだった。




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