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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
16/42

9 糸の町『コルティオ』

結局二人が店から出て来たのはそれから一時間たった後の事だった。陽は昼に比べだいぶ下に降りて来ている。

二つの紙袋を手に吊り下げて出てきた二人、ペルティエは笑顔なのだがどこか疲れた感じだ。テオは…


「テオ……自分で選んだか?」


「うん、ペルティエさん…いっぱいおしえてくれた」


テオは買った服を着ていた。

中は赤いシャツを着てるのか?上に着てる白いパーカーの首元からちらっと見える。下は茶色で裾の広いズボンだ。ベルトは無く、紐でキツめられるようだ。靴下は長い丈の白である。貸したコートは紙袋の中だろうか?

その姿を見て男二人は思う。


随分と男の子っぽい選択だなと。


旅で汚れるだろうにパーカーは白く、だがゼルエルの言った事を聞いてたのかズボンを選んできた。

非常に動きやすそうではあるのだが、八歳の女の子が選ぶようなものではないのではないのか?

男二人はテオの隣で疲れた笑いを浮かべているペルティエを見た。


「いやね……私も女の子らしい服選んだのよぉ…?テオちゃん可愛いじゃない?スカートとか着せたら凄くいいと思ったの!……だけどテオちゃんスカート着せると凄い嫌そうな顔するのよ……それに自分で選ばせるとゼルエルさんみたいな服持ってくるの……」


「え、それは……」


ゼルエルの現在の格好は黒い長袖シャツに黒い裾のゆったりしたズボンである、髪と目の色も相まって全身真っ黒である。ちなみにテオに貸したコートも黒だ。

確かにそんなものばかり持ってこられてもテオには似合わないかもしれない。


「兄ちゃんがそんなもん着てるからマネしたんじゃねーのか?」


「……汚れの目立たない服は便利なのですよ…」


ゼルエルは他の服も黒ばかり選んでいた、汚れが目立たないのは本当だ。

だが実際は服選びが下手で、何を着ていいのか分からず考えるのが面倒になり黒ばかり選んでた結果がこれである。


「ゼル……おなじがいい。だけどダメってペルティエさんが……だからあったかいの、えらんだよ?」


「えーテオちゃんが着てますこのシャツとパーカー、火炎蜘蛛人が作りし糸を使用してまして、とても暖かくしかも!パーカーの方は汚れが落ちやすい素材を編み込んでいるそうです!」


「へぇ、火炎蜘蛛人なんているんだ……いいな俺も買ってこうかな ?」


「あると寒い時に便利よ?ズボンも火炎蜘蛛人の糸混ざってるからゆったりとはしてるけど暖かいのよ?」


「他に買ったのもズボンなのか?」


「一着だけスカート買ったけど、それもあまり好きじゃ無いみたい……スカート可愛かったのに……。あ、あと下着とかも買っておいたので後で整理しといてね?」


「あぁ分かった。……テオ、スカート嫌いなのか?」


「ひらひらやだ」


しかめた顔で言うテオ。どうやらスカートのヒラヒラがお気に召さなかったようである。

正直テオのスカート姿を見てみたいとは思ったが言わないでおいた。


「そうか……他にも買うものはあるが明日にしようか。もうすぐ暗くなりそうだ」


「ねぇ、二人はいつまでこの町にいるの?」


「一週間だな」


「結構長く居るのねぇ、冒険者とかなら三日くらいじゃない?」


「テオの事もあるがちょっと予定があってな」


「そう、なら行く前にテオちゃん連れてまた来てね?あ、あとゼルエルさん!テオちゃんに櫛とヘアゴム買ってあげたから、ちゃんと梳かしてあげてね!?」


「分かったよ……メルド、あんたもまたな」


「ありがと、ばいばい?」


別れを言う二人、メルドは座ったままゼルエルを睨みつけた。


「待ちな……まだ行かせねぇ」


「な、なんだよ……?」


鋭い目で睨みつけるメルド、そして…


「なぁ……晩メシ奢ってくれよ」


「帰れよッ!」


睨みながらにへらとした口から出た言葉に思わずツッコミを入れる、それを見てたペルティエは「いいねぇ!?」などと言いテオはくすくすと笑っていた。


結局晩御飯はゼルエルの奢りで食べるハメになった。



☆☆



「たのしかったね?」


「そうか、そりゃよかった」


「ゲロ」


晩御飯を奢らされた後、二人と別れ宿へ戻った。

店主に金を払い湯浴みを終え、現在慣れない手付きでテオの髪を買った櫛で梳いている最中だ。

ゼルエルの服はそのまま、テオはペルティエと買った寝巻きを着用している。水色で白い水玉の模様があり、綿蜘蛛人の糸で編みこまれたらしいふわふわ素材でできていて暖かいとかなんとか。


「いいな…俺もなんか買おうかな?」


「ゼルなにかかうの?……わたし、ゼルのふくえらぶよ」


「あー」


「ペルティエさんいってた……ゼル、ダサいから真似しちゃだめって」


「マジか、ダサいか…」


「”ダサい”ってなにかわからないけど、ペルティエさん、ゼルのふくえらんであげたら?って。だからわたしがゼルのふく、えらんであげるの!」


「……そっか、ありがとな…………スーさん俺ダサいかな?」


スーは舌を出しニヤけた顔でゼルエルを見る、それだけで言いたい事が伝わって腹が立つ。


「まぁいいか……明日はテオのリュックと寝袋とか、あと……あぁ、器だな、メシいれる器とか、俺の分しか無いし。あと歯ブラシとかそんなん買うぞ」


「うん」


テオの髪を梳かし終えて頭を軽く撫でる、テオは嬉しそうに頭を揺らされている。

まだ会って少しだが懐いてもらえたのか、ゼルエルも嬉しくなり頭を撫で続けた。


「スーさんのふくもかう?」


「ゲロォ……」


「ははっ、そりゃいいな!……もう寝るか、疲れたろ?明日も歩くぞ」


「うん!おやすみゼル、スーさん」


「あぁお休み」


「ゲコ」


そうしてテオは布団に入り眠りにつく。

ゼルエルはそれを見て安心し、ロウソクの火を消してベットの上に倒れる。

ゼルエルは横に座るスーに小さな声で話しかける。


「なぁスーさん」


「ゲコ」


「テオいい子だよなぁ……早く安心できる孤児院とか探してやんないとなぁ……」


「……」


少しの時間、横になりながらスーに話しかけていると途端に眠気が襲ってきた。

ゼルエルは眠気に逆らわずに意識を沈めていったのであった。



☆☆



三階建の建物、二階と三階が自分達の家であり店である場所に戻った蜘蛛人の二人。

ペルティエはベットの上でにやけていた。

朝から一緒に居たゼルエルとテオの事を思い出していたのだ。


ドアが開いた、店内を掃除していたメルドが戻って来たようだ。


「なんだお前、まだ寝てねぇのか?」


「ねぇメルド」


「なんだ」


「最初は……女の子がいいなぁ」


その言葉にメルドは硬直しペルティエを見る。

そして溜息をつきながら頭を掻いた。


「俺はぁ男がいいな……お前みたいに喧しいのが産まれそうだ……」


「あー!酷〜い?私みたいな男の子かもしれないじゃん!?」


「そりゃあもっとメンドくさそうだな……」


「…………ふふっ」


「…………はぁ、水浴びて来るわ」


「うん」


メルドは顔を隠すように部屋から出た。

ゼルエル達と違い二人の夜は長そうである。



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