6 糸の町『コルティオ』
ペルティエはテオを抱えて奥へと向かった。
ゼルエルとメルドは店内の椅子で向かい合うように座り話していた。
「……で、一番安いので良いのか?」
「良い訳無いだろ。しばらく面倒な場所歩いたりする事もあるんだからできるだけ丈夫なのが良いな」
「ほぉ……旅人ってのは金のねぇ連中が多いってよく聞くんだが、お前金はあるのか?」
「まぁそれは間違ってないな、一部じゃ戦いも商いも下手な奴等がなるのが旅人だー…なんて言われてるし浮浪者扱いもされるからな。だがまぁ、俺は例外と思ってくれ」
そういってゼルエルは純魔道具で得た金貨を取り出し見せる。
「……ウチは貴族様の履くような靴なんか売ってねぇぞ」
「ちげぇよ!そんな大層なもんは買うつもりないからな!?」
「……金があるのはわかった、……で、具体的には?」
「う〜ん……銀貨六枚か七枚ってところだなー。丈夫な靴はどこでも高いしな。蜘蛛糸製ってどんくらいが基本単価なのかわからねぇけど」
「結構出せるんだな、まぁ金貨持ってんなら当然か。……それともう一つ」
「なんだ?」
「あの子何人種だ?硬いとか言われてたが…?」
「……」
その言葉にゼルエルは言葉を詰まらせた。
テオの親は死んでいる、元主人のレギスによっておそらく殺されている。テオはハーフだ、片親は多分”人”でもう片親はなんらかの”龍人種”だ。
比較的控えめで大人しい彼女だが、まだ幼い少女だ。
人種を聞いたら死んだ両親を思い出してしまうのではないのか?ゼルエルはそれを危惧してあえて聞かないでおいたのだが…。
「なんだ?わからねぇのか?」
「あぁ……その、実は拾い子でな……話の流れで両親が死んだ事、聞いちまってな。思い出して泣かれたらと思うと聞き辛くってよ…」
「そりゃ…………。まぁ聞き辛いだろうけどよ。ウチはできるだけ客に合った品物を売りてぇんだ」
店主の言い分はもっともなのだ。
人種や住んでる場所によって人の生活は変化する、それは着るものや履くものにも出てくるものだ。
蜘蛛人種の人々の着る服に腕を通す部分が六ヶ所付いているのと同じで、その種族に合ったものを身に付けるのがベストなのだ。
「より嬢ちゃんに合ったものを買ってやるつもりなら聞いてくれねぇか?」
「……随分親切だな、他の店なら聞かなきゃなにも言わずに売るだろうに」
「そりゃそうだ、物売る連中なんざ売れば給料増えるんだからな。客が知らずに買おうがしったこっちゃねぇのさ。だがまぁ、俺はプライドが高くてな。自分の作ったもん売った後にいちゃもんつけられたかぁねぇのさ」
「成る程な……」
メルドは自分の仕事にプライドを持っている、おそらく有耶無耶なまま靴を売ろうとはしないだろう。
「わかった……戻ってきたら一応聞いてみるよ」
「あぁ、頼んだ」
「テオを待つ間蜘蛛糸の事を教えてくれないか?服を買う前に参考にしたい」
「答えられねぇ事はあるが、いいぜ」
ゼルエルはメルドに蜘蛛糸の事を詳しく聞きつつ、テオを待つ時間潰しをするのだった。
☆☆
結構長い間待ったはずだ。
蜘蛛糸の事もあらかた聞き終え店内の靴を眺めていたゼルエル。
メルドは椅子に腰掛け水を飲んでいた。
たまに上の階がドタドタとうるさい。
メルドの話だと店の奥に階段があり、上は靴を作るための工房と二人の生活空間があるらしい。
(……あ、そういやテオのコートの中に忍ばせてたスーさんどうなったかな?)
ふと忘れていた自分の相棒を思い出す。
まぁ大丈夫だろうと心配しないでいると奥の方からドタドタと聞こえた。
二人が戻ってきたのだろう。
「ゼルエルさん!メルドーー!!」
「やっかましいな、なんだよ……なんで着替えてんの?」
「水浴びたんだよ、テオちゃんの頭洗うために。ついでに一緒に浴びたの!そしたらテオちゃんのコートの中から白いカエルが出てきてさぁ!なんか色々な綺麗な玉付いてるカエルちゃん!そしたら目の前で消えちゃってさぁ!!テオちゃんは”スーさん”って呼んでたけどきっとあれ守護霊って奴だよ多分!!」
「あぁ?カエルぅ?守護霊ってなぁ……」
「あぁ…」
多分見つかったんだなと、見つかってすぐに極小の認識遮断を発動して隠れたんだなとゼルエルは自分なりに理解し、説明をしようと口を開く。
「すまない、それウチの「ああぁぁぁぁぁあ!?」子でえっ!?なに!?」
ペルティエは指を指す、指した先はゼルエルの頭の上である。ゼルエルが頭の上に手を伸ばすといつもよく触る感触を感じた。丸い玉のようなツルツルと生き物のプニプニ感、スーがそこにいた。
スーは特等席に座るように堂々と頭の上にのさばっている。
「それ!その子!その子なんで、テオちゃんの守護霊じゃ!?」
「なんだぁそいつ……普通のカエルじゃねぇな?
「守護霊っつーか守護獣だなぁ……すまん、この白いの俺の相棒なんだ、無害なんだけど目立つから基本隠してるんだけどさ………お前見られたからって堂々とし過ぎだろ……」
スーは仕方ないといった様子で舌を出し揺らしている。
メルドとペルティエは不思議そうな顔をしているが、気持ちを切り替えるようにペルティエが話す。
「へぇ面白いね!それでほら、テオちゃん来て!」
ペルティエは奥から引っ張り出すようにテオを連れて来た、だぼだぼコートは変わっていないが髪の毛が別物になっている。
背中の中心あたりまで伸びていた白いボサボサの髪は艶が出て美しく輝いている、その髪を纏めて後ろで結ばれてポニーテールとなっている。
髪型を変えるだけでここまで変わるものか、元々の可愛さに更に磨きがかかっている。
「どーよこれ!?ちゃんと手入れすればこんなに可愛くなるのよ!」
「あぁ、正直びっくりだ…」
唖然とした表情のゼルエルに、胸を張って自慢するペルティエ。テオはもじもじとしながら下を向き、そして目だけゼルエルに向けて聞いた。
「……どう?」
「あぁ、可愛くなってる」
「……そう」
ゼルエルの言葉にテオは顔を赤らめている。
胸を張っていたペルティエは呆れたようにゼルエルに言った。
「髪の毛がさぁ、適当に切られてたんだよねぇ…。ゼルエルさんあれはないわよ」
「え?いや…俺が切ったわけじゃ…」
「とにかく私が切って整えてあげたから!次からはちゃんと綺麗に整えてあげなよ?」
「……」
俺が切ったわけじゃないのに、そう思ったゼルエルだったが言葉を飲み込んで我慢する。
元々奴隷だった事をわざわざ説明する必要は無いと思ったからだ。
メルドは町に来る前に拾った捨て子と聞いているため元奴隷とは知らないとしても理解している。
憐れむ目でゼルエルを見ていた。
「そういえばメルド!」
「……なんだ」
「テオちゃんの体あんまりにも硬いし肩なんか鱗付いてるから聞いたらさぁ、魔人と甲龍人のハーフなんだってさぁ、お母さんが魔人でお父さんが甲龍人っ!面白い組み合わせだよねぇ!?」
その言葉を聞いてゼルエルとメルドは目を見開いて硬直する。なにも知らないからなのか、ペルティエは平然とテオに人種を聞いていたのだ。
メルドは目を細めてまたゼルエルを見る。
ゼルエルは固まったままだ。
できるだけ傷付けないよう、悲しませないように聞こうと考えていたのだが、全て無意味となってしまった。
ゼルエルはゆっくりとテオを見る、テオは不思議そうに小さく首を傾げていた。
「テオ…大丈夫?」
「……?なに?」
テオはなにも気にしていないようで、ゼルエルはなんか安心したような、だが無駄に思考を巡らしていた事に複雑な気分を味わっていた。
何とも言い難い表情をするゼルエルにテオはまた首を傾げるのだった。




