5 糸の町『コルティオ』
純魔道具と金貨二枚を交換しゼルエルは倉庫を出て武器の並ぶ店の中に戻ると、後ろを歩いてた店主から声がかかる。
「靴買うっつってたよな?」
「あぁ。服もだけどとりあえずそこらの店回って考えようかなって」
「確かにこの町なら服や靴売ってる店なんざ腐る程あるが…。そうだな、この店を出て左を真っ直ぐ行くと左手に”アカグモファッション”って店がある。そこの隣の細い道を奥に進むと灰色の石でできた三回建の建物がある。一階の店は婦人用の小物店になってるが入る必要はねぇ。中から上には上がれねぇが外の裏側に回ると二階に続く階段があるからそこから二階の店に行ってみるといい」
「そこ靴売ってんのか?そんな面倒な場所売れてるイメージ無いんだが…」
「ま、そんな売れてねぇだろうな、見つけにくいし。誰か教えてくれなきゃわからねぇ知る人ぞ知る店だからな。だがそこにいる男が作った品物はそこらの見た目だけ映えた無駄にでけぇ店の奴らが作ったものより本物だぞ?潰れてねぇのがその証拠だ」
「ほぉー。じゃあちょっとそこに行ってみるかな」
「あぁ。この町で何かあったら力になってやるから言いな」
「ありがとよ」
「嬢ちゃんもまたな、良い靴買ってもらえよ!」
「うん」
ゼルエル達は武器屋の店主に別れを告げ、言われた建物に向かった。
☆☆
ゼルエル達は言われた通りの道を進むと灰色の建物を見つけた。
建物の入り口の赤い看板に白の文字で”レッドクイーン❤︎”と書かれている、ホントに婦人用の小物店なのか疑問に思ったが、とりあえず裏手にあるはずの階段へ向かう。
裏手に回ると若干錆びた鉄の階段があり、看板に小さく”靴屋”とだけ書かれている。
「ホントなんでこんなとこで店出してんだ…」
呆れるように呟きながら階段を登り、目の前にある扉に手をかける。
「おじゃましま〜…おぉ?」
「くつ、いっぱいあるね」
中は意外にしっかりとした靴屋となっていた。
店としては少し狭いが、間取りや棚を上手く使ってあらゆる靴を飾っている。見た目ですぐわかるような蜘蛛糸製の靴から皮や厚い布の靴など多種多様だ。
店の中を見回していると奥から声がかかった。
「あら?お客さん初めての人ね?」
声の主は蜘蛛人の女性だ。
青髪のショートで背が低く若く見える。
「おっ?…おぉ?おぉぉぉ!?」
こっちを見た女性が驚いたように声を上げている。
正確にはテオとドッペルを見て驚いているのだろう。
「貴方あれでしょ!?あれよ!…えっと、あれ……そうそう!迂闊に防御糸壁に触ろうとしてた影魔法使いの旅人さん!でしょ?」
「は?…あの、どっかであった事「ないわよ?」あ……ですよねー、俺もないしな……」
「違うのよ、夫が言ってたの、『影魔法で子供抱えた旅人の男が糸壁触ろうとしてた』って、いやぁ興味はあったけど本物にあえるなんてね!糸壁に触ろうとする人はいっぱいいるけど影魔法で子供抱える人なんか見た事ないしねぇ?」
(……ん?それって……)
「なぁ、あんたの夫って……」
口にしようとした途端に後ろの扉、ゼルエル達が入ってきた扉が開いた。
「ただい……あ?客か、珍しいな?………あん?」
「やっぱりあんたか」
そこには防御糸壁越しにゼルエル会った男、メルドが立っていた。
☆☆
「まさか昨日の今日で兄ちゃんに会うとはな」
「あぁ俺も予想外だ」
ドッペルを解除してテオを降ろす。
女性が椅子を用意してくれたので二人ともそこに座った。
対面には店の二人が座っている。
「ゼルエロ…だったか?」
「”ゼルエル”だ」
「あぁすまないな……。改めて紹介させてもらおうか、俺はメルド、メルド・シーエだ。この店で靴を売っている、まぁ作る側だがな。売るのはこいつ専門」
「初めまして!私はこの人の夫で、この店で店主やってます!ペルティエ・シーエと申します!……それでゼルエロさ「”ゼルエル”です」ん、そちらの可愛らしい子は……」
やけにテンションの高い蜘蛛人の女性、ペルティエはテオの方を見て六本の手の指をわきわきと動かしている。
正直怖い。
ゼルエルは下を俯いているテオの背中を軽く叩く。
「ほら、自己紹介しな?」
「テ…………テオ」
恥ずかしいのか怖いのか、テオは小さく呟くように言った。着てるデカイコートの袖をめくってゼルエルの服を掴んでいる。
「テオちゃんね!テオちゃんよろしくね!」
「う…うん」
「可愛い!どうしようメルド、この子可愛い!」
テオを見て騒ぐペルティエにメルドが溜息をつく。
「はぁ…お前ちょっと静かにしとけ……で、その子の靴買うんだよな?昨日言ってたしな」
「そうだ、子供用の靴あるなら見せてくれ」
「テオちゃん何歳?髪綺麗だねぇ……綺麗……」
「えっと…」
「お前静かにしろって……どうした」
ゼルエルとメルドは話を止めテオの近くに片膝立ちをしてたペルティエをみる、何故かわなわなとしている。
「ゼルエルさん、この子の白い髪全く手入れされてないんですが」
「え、あぁ。一応昨日ちゃんと洗ったけど?」
「洗っただけですか!何やってるんですか!」
「はい!?」
ペルティエはゼルエルの方を向く、何故か怒った表情だ。
「こんな綺麗な白い髪なのに!ちゃんと櫛とかで梳かしてあげないと痛むじゃないですか!しかもこれしばらく手付けてないのでは!?信じられない!」
「え…」
「しかもこんなだぼだぼコート着せてるなんて!ちゃんとした服を着せなきゃダメじゃないですか!」
「それはその、この後買う予定で…」
「あ、そうなの?でもだめ、この髪はダメよ!ちょっとこの子借りてくわね!」
「あ、はい「いや!」……テオ?」
勢いに押され了承しそうになるところをテオが拒否した。
ゼルエルに身を寄せ服を掴んでる、少し震えている。
まだ他の人が信用できないのかもしれない、そう思うと自分は信用されているのだという高揚感に包まれる。
ついでに奴隷時代なら拒否なんてできないはずだ、少しは心に余裕ができたのかもしれない。
が、せっかく綺麗にしてあげると言っているのだ、ここはありがたくそうさせて貰おう。
「ご、ごめんね、嫌がらせるつもりじゃ……」
「はぁ……お前さぁ…」
「いや、いいんだ。好意なのはわかってる。…テオ」
「……なに?」
「ペルティエさんはお前のこの長い髪を綺麗にしてくれるって言ってるんだ。俺は男だからそういう事に疎いしさ、だからまぁ…ペルティエさんと行ってちょっと綺麗になってこい」
「……きれいじゃなくてもいい」
「いやいや、綺麗になってもらわないと俺が困る。ボロボロの少女連れた男がいるー!って目立っちゃうからな」
「そーなの…?」
「そうだよ。だからさテオ、俺のために綺麗になってくれよ」
「相手が相手なら告白みてぇだな」
「ちょっと黙ってもらえませんかね?……とりあえず、だ。テオ、ペルティエさんに綺麗にしてもらえ、俺はここで待ってるから」
「…………うん」
「ペルティエさん、あんまりテオに変な事しないでくれよ?」
「任せなさい!なんか凄い可愛くしてあげるから!あ、靴ないなら歩かせられないから抱き抱えていいかな?」
「……うん」
「じゃあ失礼して…よいしょお!……硬いわね、え、ホント硬くない?」
テオを抱き抱えたペルティエは部屋の奥に向かおうとする。それをメルドが引き止めた。
「まてまて、…なぁ嬢ちゃん」
「……なに?」
「こー、欲しいような靴とかあるか?何の色が好きとか?柔らかいとか硬いとか?」
「…………」
抱き抱えられつつ悩むテオ、そして…
「いちばんやすいの」
そう言った。
直後ゼルエルはメルドから呆れた視線を、ペルティエからは鋭い目つきを向けられた。
ゼルエルは二人の視線を浴びて小さく溜息を吐くのだった。




