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自由なる旅人  作者: ブラックニッカ
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4 糸の町『コルティオ』

木箱や武器が置いてあるだだっ広い倉庫のような場所に案内されたゼルエル達。


「ここなら広いし大丈夫だろう。…見せてくれるか?」


ゼルエルは持ってきたナイフを手渡した。


「……そこらへんに売ってそうなただのナイフじゃねぇか?」


「だから純魔道具って言っただろ?」


「純魔道具なんか見た事ねぇんだ、悪りぃな」




魔道具とは魔法が使える道具の事である。


魔法は己の体内に流れる魔力を練り込み-想像(イメージ)呪文(スペル)を通して発現するものである。

人によって扱える属性は違い、また数種類の属性を持っていても得意不得意がある。

ゼルエルは影魔法は得意だが炎魔法は微力な第一階位しか出せない。

階位とは所謂”技”であり、魔法の階位は一から十二までありどの属性も階位は十二まで、階位が上な程発動させる難度が高く扱う魔力の量の消費も大きくなる。


種族によって差異はあるが魔法はある程度素質を持っていないと使えない、複数の属性が使えても体内の魔力の練り込みが下手で使えないと言う人は結構多い。


それでも魔法を使ってみたいという人が、魔法に長けた人と共に幾度の研究を重ね、努力と執念で編み出したものが魔道具である。


魔道具は魔法の素質がない人や属性の違う人でも扱うことができる。


世間一般に流通してる魔道具は内部に魔力を流す回路を作りそこに魔力を流し閉じ込める事で完成する。

魔力を込める人の魔力量や属性、道具の回路の複雑さや精密さ、また大きさや形によってそれらは多種多様の魔道具へと変化を遂げる。


だが魔道具に込められた魔法は本来の魔法に比べどうしても劣る。魔法を回路の仕組みなどで擬似的に体内で練り込む魔力の流れを作れても、威力や性能は最高でも第二階位の魔法以下であり、最低ならば第一階位にも満たない微弱な魔法になってしまう。また魔力を込めた人の実力によるが、回数も一回〜五回で内包した魔力が切れてしまうのだ。


それでも多様な属性の魔法を使える魔道具は戦闘や冒険などで重宝するので高値で取引される。


ーーならば純魔道具とは何か。


純魔道具、それはただの道具に強力な魔法が仕込まれたものである。

魔力の扱いに長けた人が莫大な属性階位の魔力をただの物に込める事で強力な魔道具に化ける。


作るのにとてつもない集中力と時間、それと魔力がいると言われており、ただの第一階位の魔法を込めるにしても五、六倍以上のの魔力を込めなければならない。


そうしてできた魔道具の魔法は普通の魔道具から出る劣化の魔法と違い、魔力を込めた魔法使いが使用するような強力な魔法と同じ驚異的な威力を発するという。

使用回数は込めた魔力の量や質次第らしい。


純粋な魔法の込められた魔道具。

それが純魔道具だ。


魔法使いの血の汗で滲んだ努力の結晶であり、純魔道具を作れる魔法使いは”神に近い魔法使い”とさえ言われるほどなのだ。


普通に生きている庶民なら見る事もない。

貴族かよほど有名な実力のある冒険者じゃない限りこんな代物手に入るわけないのだ。

ましてや第三階位の純魔道具、たった一回分の使用ですら膨大な魔力を要しなければならない。

ひたすら魔法に心血注いだ魔法特化の種族なら作れないことでもないのだが、そんなにはいない。


そう考えると神獣の魔玉蛙の規格外っぷり分かる。


「中に込められてるのは第三階位の空間魔法【認識遮断】だ。魔法の内容は知ってるか?」


「あ、あぁ。実際に見た事はねぇがな…。確か周囲の獣共から見られなくするってやつだろ?」


「正確には魔法を発動した人を中心に結界を発動させるものだ。結界の中の人、物は結界の外からじゃ見えなくなるってやつ。音も匂いも感じなくなる便利な魔法だよ」


「………」


「ま、疑うのも無理ないだろうね、実演するよ。って言ってもナイフを床に刺すだけだけどな。店主、それとテオも少し下がってくれ」


言われた通りにゼルエルから距離を置くテオと店主。

ゼルエルは近くの武器の入った木箱の近くに寄り、床にナイフを投げ刺した。

するとーー。


「……なっ!」


「きえちゃった……」


二人の視界からゼルエルが消えた。

ゼルエルの周りの木箱も無くなっている。

床に刺されたナイフも見えない。


「空間魔法自体初めて見たが……こいつぁ…」


キョロキョロと周りを見渡す。

ゼルエルや周りの荷物が見えなくなった、消えたのは分かっているのだが視界に違和感は無い。

いつも通りの倉庫内に見えて、店主は違和感を感じない事に違和感を感じていた。


瞬間ナイフを持ったゼルエルが目の前に現れた、消えた荷物と共に。


「うぉっ!?」


「わ!」


「これがこのナイフの効果ね、床からナイフを抜くと解除される。分かったと思うけど消えたと分かっても周りの景色に違和感は無いだろ?実際は見えないだけで目の前にいるんだから」


急に姿を現したゼルエルを二人は口を開けて見ていた、ゼルエルは気にせずに話を続ける。


「冒険者達は依頼で討伐任務や収集任務を繰り返すだろ?そんな冒険者達は遠出の際、危険な森や山で寝るわけだけど、野宿は必ず見張りが必要になる。夜は超獣や魔獣、獣達が活発になる時間だ、気の休まる事は無い。より危険な場所の討伐なんかは更に神経を尖らせなければならない。そういった連中にこれは売れるだろうよ」


ポンポンと売り文句を吐くゼルエルはさながら露天の売り上手のおっちゃんのようだ。

売り文句を聞いてた店主は考え込んでいる。


「……いくつか聞きたい」


「おう」


「なぜ他の店で売らない?ここは糸の町で、よく売れるのは蜘蛛人が作る衣類や布とかだ。俺はぁこの町で長く武器屋やってるが衣服を売ってる店ほど売れちゃいねぇ。ここに冒険者ギルドがねぇからな。…純魔道具の値打ちが曖昧な俺より他の町の魔法研究施設や魔道具により詳しい武器屋に売れば正当以上の金で売れるんじゃねぇのか?」


「そりゃ今金が無いからな、ここで売らなきゃ物が買えないし」


「そ、そうか……。で、この純魔道具はあんたが作ったのか?」


「いや、俺の知り合いに魔法に長けた奴が居てな、そいつから売ってもらったんだが使い道が無くてな」


(嘘は言ってないぞ、スーさんは相棒だけど知り合いみたいなもんだし、スーさんいればこの魔道具使い道ねぇしな!)


答えを聞いた店主はまた考え込む。

それを見たゼルエルは若干悪い顔をしながら提案する。


「店主、この魔道具、金貨一枚でどうよ?」


「は…はぁ!?馬鹿かお前ッ!つぅか馬鹿にしてんのか!?いくら俺が純魔道具に対して無知で金貨一枚で済む値段じゃねぇって事ぐらい分かるぞ!?しかもこれなら金貨五枚でも安いはずだ!違うか!?」


焦ったように吠える店主はなだめる。


「まぁまぁ、いいだろぅ店主、売れる代物が安く手に入る、嬉しい事じゃねぇか?」


「アホか!流石に限度が「まぁまぁ」」


店主の前に指を出し静止させる。

渋い顔をしてる店主に微笑みながら言う。


「確かに沢山お金が入るならそれに越した事はないですがねぇ……俺、旅人をやってんだよ。沢山の荷物持って歩いてるけどさ、ほら硬貨ってじゃらじゃら重いじゃん?俺の中じゃ無駄に沢山金を持ってても邪魔なだけなんだよ」


硬貨の入った袋を持って目の前に出す。

中身は銅貨だらけでじゃらじゃらと音を立てている。


「だから金貨一枚だけ貰って、そうだな。他は口止め量って事でどう?」


「……口止めぇ?」


「そうそう、俺がこれを売ったって事を隠してほしい。命に関わりそうなら流石に喋ってもいいけど、基本誰にも言わない方向で頼むよ。それさえ守ってくれればこのナイフ、他の人に沢山金貨ふっ掛けて売っても俺は口出ししねぇからさ」


笑って言うゼルエル、眉間に皺を寄せて悩んでいる店主は溜息をついて言った。


「俺が約束守らねぇで誰かに話して、お前に追っ手が迫ったらどうすんだよ?今日会ったばかりで信用しすぎじゃねぇか?」


「前にいた国で似たような事あったけど逃げ切った事あるし大丈夫じゃねぇかな?俺逃げるの得意だし」


「……」


ゼルエルは旅に出た当初、スーの作った規格外な純魔道具を質屋に売ったことがある。

自重せず規格外な純魔道具を作ったスー、それを平然と売ったゼルエルは後に国の王や貴族、魔法研究施設の追っ手に追われることになってしまったのだ。

それ以来、売るための純魔道具を作らせる時、売る時は注意を払うようにしていたのだ。


「……金貨二枚だ、それで手を打とう」


「普通俺みたいなのがいたらもっと安く買おうと思うけどね」


「アホが。もう大分安いじゃねぇか。金貨二枚でも罪悪感が湧くぜ。……こいつは貴族か冒険者に高値で売っぱらうことにするよ」


「分かった、それでいいよ」


こうして金貨二枚で純魔道具を売ったゼルエルはテオを見て言う。


「金入ったし、これでやっと靴買えるな!」


「う……うん」


「靴買うために純魔道具売るとか普通ねぇよなぁ……」


テオに笑顔で金貨を見せるゼルエルを店主は六本の腕を組み呆れながらそう言った。




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