3 糸の町『コルティオ』
部屋に戻りテオをベットに寝かせた。
ベットをホントに使っていいのかとあわあわしていたテオを説得する。
おずおずとベットに乗ると、疲れていたのかベットに倒れるとそのまま沈むように眠りについた。
「………キッツぅ〜…」
テオが寝息を立てて寝始めたのを確認し、ゼルエルは荷物を漁りながら小さく呟いた。
なるべく気を使わせないよう、顔に出さないようにしていたが、ゼルエルの疲労は限界に近かった。
テオに地面を歩かせないため、影魔法【ドッペル】をほぼ一日中発動していたために疲労困憊となっているのだ。
今にも倒れそうな体を無理に動かし荷物の中から他の町で買った小さいナイフを取り出し、ベットの上のスーの前に置く。
「後は頼む……」
「…ゲロォ………」
スーの呆れたような声を聞きゼルエルはベットの上に沈んでいった。
☆☆
どんなに疲れていてもやる事があるなら起きねばならない。
ゼルエルはまだ怠く眠い体をゆったりと起こす。
テオはゼルエルより早く起きていた。
「…おはよ」
「おはようっ!」
「…なんかテンション高いね?」
「うれしいの…!しらないこといっぱいっ!」
「そりゃあ…よかった」
奴隷時代経験できなかった、知らなかった事がいっぱいあって楽しいのだろう、実に子供らしくて良い。
…と言ってもドッペルの上で森を進み町に入り宿で身体洗って寝ただけなのだが。
「ゲコ」
自分の枕の横を見ると小さいナイフの上に座るスーがいる。
「あぁスーさん、おはよう」
「ゲコ」
スーの下にあるナイフを手に取り目を細めてそれを見る。
「…これ、属性は?」
そう聞くとスーの六つの玉のうちの一つ、薄紫の玉が一瞬光った。
「そう、階位は?」
「ゲコ ゲコ ゲコ」
「…回数は?」
「ゲコ ゲコ ゲコ ゲコ ゲコ」
「……空間遮断五回とか売るとこ売ったら相当な値いくぞ」
「……?」
ゼルエルとスーの会話?が理解できず、テオは首を傾けていた。ゼルエルは手に持ったナイフを机に置いた。
「あぁごめんごめんこっちの話。…じゃあ今日の予定を説明します」
「うん」
「朝飯はまだ残ってるパンね、それ齧りながら話きいてくれ」
「…ありがと」
テオは申し訳無さそうにパンを受け取る、まだ会ってから約一日だ、遠慮しても仕方ないだろう。
(とはいえこれから靴と服買うんだからパンなんかでいちいち遠慮されてもなぁ)
内心で軽く笑いながらゼルエルは話を続けた。
「最優先事項として君の靴と服、それを買いに行く……がっ!お金がありません!」
「……えっ?」
「そんな淡水水鳩が雷魔法くらったような顔すんなよ。安心しろ、お金が無いのはいつもの事だから」
「……そうなの?わたしのせいじゃない…?」
「なんでそうなるんだよ…」
ゼルエルは小さく笑いつつ、机に銅貨と銀貨を置く。
「これがお金な、この茶色のがミユ銅貨で、テトの肩の鱗みたいな色のやつがミユ銀貨。他にはミユ金貨ってのがある。この銅貨が百枚で銀貨一枚と同じ値なんだ」
テオは不思議そうに、だけど楽しそうにゼルエルの話を聞いている。
「ここの宿に一日泊まるのに必要なのはミユ銀貨二枚とミユ銅貨二十三枚。どの国でも宿に泊まるのも外で買い物するにしてもメシ食うにしても金がいる」
「……そうだね」
「でもな、硬貨は一枚は小さいけど多くなると重くなるんだ。ほらこの袋持ってみな」
ゼルエルは傍らに置いてある硬貨の入った袋をテオに手渡す。
「うん……おもいね…」
「だろ?銀貨で買い物をすると釣りの銅貨で急に重くなっちまう。しかもかさばる。旅ってのは色んな道具を持って歩かなきゃならない。荷物は軽くできるだけ小さい方がいい。だから俺はできるだけお金を持たないようにしてるんだよ。なんかあると嫌だから最低限は持つけどね」
「そうなんだ…でも、それじゃあ……」
「そうだな”最低限”じゃ買えないものもある。だから…」
ゼルエルは再び小さいナイフを手に取り言う。
「金が無いなら作ればいい」
☆☆
コートを着せたテオをドッペルで背負いスーはコートの中に隠す。テオの奴隷服は脱がし、ゼルエルのシャツを着用させている。
宿の店主から”ある場所”を聞き出し宿を後にした。
「ゼル…どこいくの?」
「ホントは魔導研究施設とかがいいんだけど無いみたいだし、魔道具置いてある武器屋にね」
「ぶき…ナイフうるの?」
「まぁな」
そんな話をしてるうちに店主から聞いた目的地に着く。
そこそこの大きさの店に入ると色々な武器や防具が置いてある、客が二人剣を見ているが気にせずにカウンターにいる蜘蛛人の店主の元へ向かう。
「すまない、ちょっといいか?」
「あん?何の用だ?」
「実は魔道具を売りたいんだ、今時間あるか?」
「…魔道具だと?」
店主は怪訝そうな目でこっちを睨む。
「攻撃系か?」
「いや、補助系。空間魔法を込めた純魔道具だよ、見るか?」
「純魔道具だとっ!?」
椅子に座ってた店主が急に立ち上がり目を見開いていた。
剣を見ていた二人は驚いて振り向いていた。
「……本当だろうな?嘘なら承知しねぇぞ?」
「安心しな、信じてもらえるよう目の前で実践するつもりだから。回数は四回になるがそれでも十分売れる筈だ」
「よんっ…っつーことは五回使える純魔道具ってか?きなくせぇな…。奥に来い」
店主はカウンターの奥へ歩きこちらを手招きした。
ゼルエル達は店主の後に続いて奥に入っていった。




