出会い
目の前に潰れた馬車があった。
崖の上の道から落ちて来たのだろう、馬車が通れるほどの広さはあるとはいえ岩や砂利の多いこの山道を馬車で来ようと思う人はそんなにいない。
「潰れてはいるが落ちてからそんなにたってないな。馬は……うわぁ……」
馬車を引いてた普通の馬よりも巨体な馬、”重馬”は落ちた時に岩にぶつけたのか頭が原形を留めていない。馬車を引いていたであろう御者も遠くで血塗れで死んでいた。
「格好と馬車の装飾を見るに貴族の人かな?多分中にいる人達も死んでるだろ」
食べ物が無事であるなら貰っておこう、そう思いながら潰れた馬車の残骸を漁る。
きっと中に居た人の血だろう、残骸を漁る度に赤く染められた物が出てきた、ワインの瓶は割れ、食べ物は潰れ汚れて食べれたものではない。
「こりゃダメだ、ロクなもん…あっ?」
大きな木の板をどけてそれを見つけた。
高そうな服を着た男、腹に鋭く折れた馬車の棒が刺さっており泡を吹いて絶命している。そしてその死体の横には幼い少女が倒れていた。灰色で汚い半袖半ズボン、奴隷専用の服を着ている。首についてたであろう奴隷の証である隷属首輪は壊れている。
「はぁ……あぐぅ……」
隷属首輪は丈夫ではないが魔呪印を施されている。主人以外の者が無理矢理外そうとしたり壊された場合魔呪印に込められた魔力が奴隷の身を蝕み殺すよう施されており、魔呪印の効果は主人の込めた魔力の属性によって蝕み方を変える。
炎属性なら体を内部から焼いていく。
雷属性なら体に電流を流し続け狂わし殺す。
風属性なら風の刃が体を刻み続ける。
どの属性を込めても碌な死に方は望めない。
奴隷であったこの少女も魔呪印に侵されており、苦しそうに手足を動かしたり体を掻いたりともがいている。
呼吸が荒く汗が酷い、身体中にブツブツとした紫色の湿疹が出ており痙攣を起こしている。
「毒属性…かな?」
毒属性の魔呪印は三種以上の毒で奴隷の身を蝕む、この三種が何の毒かは発動するまで分からないが他の属性で湿疹が出るものは知る限り無いはずなのでおそらく毒属性だと考えた。
このままほっとくのは流石にできない、奴隷とはいえ隷属首輪は外れてるし主人であろう男は死んでいる。
それに幼い少女が毒に苦しんでるところをほっといてサヨナラというのは気分がよろしくない。
なにより治せるのだから。
「スーさん」
「ゲコ」
「多分、毒属性だと思う。食べる?」
「ゲコ」
彼の頭の上に乗っていた蛙が返事をする。背中には別々の色を持つ六つの魔玉がくっ付いている白く小さい蛙だ。
彼は蛙を少女の元に降ろした。蛙は少女の顔に近づき頬に舌を当てた。
すると舌をくっ付けた頬の周りが紫色に光りだした。舌を通して少女を蝕んでいた毒属性の魔力を吸い取っているのだ。
「ゲコォ…」
蛙は蛙とは思えない高揚とした表情で魔力を吸い取っている、彼は苦笑いしながらそれを見ていた。
やがて光が小さくなり蛙は少女の頬に触れていた舌を離して彼の元に戻った、差し出した彼の手に乗り壁を登るように彼の体を登り頭に座る。その表情は満足といった様子だ。
毒属性の魔力が抜けた少女は痙攣を止めていた。魔力によって引き起こされてた湿疹は時間をたてば元に戻るであろう。
「さて、どーしたものか…」
ここは血生臭い、ほっとけば血の匂いにつられた獣たちがが集まるかもしれない。せっかく治してあげてもほっといたら死ぬことは目に見えている。
「スーさん、この子を連れてここから離れよう、少し離れたところで野宿にしようか?」
「グァ」
彼は少女を抱えてこの場を後にした。




