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第一話 入学式Ⅰ

 薄暗い部屋の中、手に持つとそれは鉄のように重く…冷たく感じる……。そう、高校1年生になったある日。僕の手元には弟観察日記・・・・・と書かれたノートが握られていた。


 4月の上旬、僕は学園の入学式に向かうべく、朝から長い長い坂を登っていた。

 今日の気温は暖かくもなく、寒くもなくといったところだ。そう思いつつ、歩くと5分位たったのか分からないが、かなりの距離を歩いたらしい。僕もビックリするくらい身体が疲れていた。


「これから入学式なのに、大丈夫かな? 僕……」


 と入学する前に既に家に帰りたい気分になってきた僕だか……いや、今はそんな気分になっている暇はないんだと思いつつ、僕は学園の門をくぐり抜けた。


 私立高森しりつたかもり学園は普通の学園と同じで、特に何処かが非常に優れているわけでも、劣っているわけでもないので、僕にとっては過ごしやすい所だと思い、受験し、合格したのだ。だが、それだけが理由ではない。

 この学園に、僕の姉がいるということも含まれる。何故姉がいるからという理由で進学するのか、それは中学3年生の時、僕と姉が家で話をしていた時ーー


「カズ君は、私と同じ学園に進学するよね~」


 僕がリビングのソファーに寝そべっているその上から見下ろすように美羽姉は、もう確定してるよねみたいな瞳で見つめてきた。まあ、そんなに期待した目で見なくてもいいのに


「そんなこと言っても僕が行きたい所に進学するよ」


「私と同じ学園に進学するよね~」


「だから、僕が……」


「進学するよね~」


「ちょっ!? 何で急に頬を膨らませて、こっち睨んでるの!?」


「そんなことはいいから、お姉ちゃんの言う通りにし・て・ね?」


「…………はぁー、分かったよ。美羽姉の言う通りにするよ」


「うん! 良くできました!!」


(はぁ〜、全く一体何を考えているの! 美羽みうねえ


 結局その後、勉強はあんまり得意ではない僕は美羽姉と同じ学園に行くために両親に無理矢理(・・・・)受験勉強をさせられ、合格するまでの間、どんな時でも毎日コミュニケーションを取ってくる美羽姉は僕に近づいてくることもなく、入学式の日になってしまった。

 僕は急にコミュニケーションを取らず、近づこうともしなくなった姉の訳が知りたくて、ここに進学することにしたんだ。


「それにしても、そこそこ広い学園だな。入学する前にホームページで見たけど、それより大きくなっているような……」


 そう、僕が学園のホームページの内容を確認した時には確かに、ここら辺の土地は無かったはず、新しくここに建物でも建てるのかなと思考を巡らせていると、背後から何か重い一撃が……


「ぐはぁっ!! …………くっ、一体誰だよ」


「よぉーっす!! 久々だな、和馬かずま! って、おやおや? この顔お忘れですかな? 大事な親友を忘れるなんて……酷い!!」


「……ってなんだ、信三しんぞうか、知らない奴だったら殴ってたよ」


「と言いつつ殴るのはやめください、お願いいたします」


「そうだな……なら、今度何か奢ってくれればやめてあげよう」


「全力で奢らせて頂きます」


 こいつの名前は、竹光たけみつ 信三しんぞう、まあ昔馴染み、いわゆる腐れ縁って奴だ。こいつには何でも話せる仲ーー


「っとそういえば、お前、また中学生と間違われたって? 高校生になったってのに残念だねー」


 ーー間だと思ってたが、こいつには財布の金が無くなるまで奢らせよう。それよりも、何故僕が中学生に見られるかというと、ずばり、背丈が低い。

 僕の背丈は160㎝あるかないか位小さいのだ。こいつは何処からそんな情報を手にいれてきたのだろうと考えていた時、学校からチャイムが聞こえてきた。っと今は、そんなことよりもクラスを確認して席に着かなくては。僕は元仲間の信三を置いていき、素早く学校の方に走っていった。


 校内は清掃しており、ほこりなどが全くない状態で、学校内の空気も良く思えた。僕は靴を履き替え、階段を上り、教室までの廊下を駆け足で歩く。


「えーっと、確かクラスは……おっ!あったあった」


 クラスは1‐5、スライド式の扉を開け、中に入った。教室では、僕のクラスメイトとなった人達がちらほらと席に着き始めている、僕も辺りを見回し席を確認すると、窓側の一番後ろから2番目の席らしい。しかも、先程置いていった信三が僕の後ろみたいだ、何故それが分かるかって? それは……


「おー、遅かったな親友!」


 既に僕より早く席に着いているからだ。全く、先に置いていったはずなのに、どうやって僕を追い抜いたかは分からないが、とりあえず、席に着いておくことにした。


 それから数分後、先生と思われる人物が教室に入ってきた。女性で見た目はしっかりしてそうだが、天然ぽい感じがする。髪は茶髪のセミロング、黒のスーツを綺麗に着こなしている、教師歴もきっと長いのだろう。


「はい皆さん、おはようございます。これから皆さんの担任を務めさせて頂く、原野はらの 一美かずみと言います。宜しくお願いします」


 原野先生がそう言って、礼をするが額を強く教卓にぶつけ、ふぎゃーと鳴いて頭を両手で押さえる。

 今の言葉は撤回しよう。人を見た目だけで判断してはいけない、この人は教師になってまだ日が浅かったのだろう。緊張しすぎて、行動が空回りしてしまっている。


「そ、それでは、体育館に移動してくだひゃい」


 さっきの「ゴツン!」が恥ずかしかったのか、舌を噛んでしまい、先生は顔を林檎(リンゴ)みたいに真っ赤になった。クラスメイトは特に気にしなかったのだろう。だが、一つ思ったであろう。この人天然だと。個人個人で移動を開始した。


 皆んなは流石に、入学式初日に仲良くは出来ないのだろう。一緒に行動しようとはしないようだ。まあ、僕には一応、知り合いがいるから問題ないがと思いつつ、後ろを向くが見知った顔がなく、僕は内心悲しくなりつつも体育館に移動し始めた。


*****


 和馬が教室から出てくるのを息を潜めながら見ている人物がいた――ここでは、α(アルファ)と名乗っておこう――それと同時に、小型トランシーバーを取りだし、あるところに連絡をした。


「ターゲットの和馬様が体育館に移動を開始しました。これから尾行を開始しますが、いかがいたしますか? ……はい。現状では問題ありません。……了解。では、そちらに合流いたしますので、しばし、お待ちください。では」


 そのように受け答えすると、αは周囲にバレないように、霧のように姿を消した。


*****


 既に体育館では、先輩方が集まっており、入学式が始まろうとしていた。周囲を見渡し、自分のクラスの場所を探す。

 すると、信三が手を振って、クラスの場所を教えてくれた。小走りで近づいていき、隣に座った。ちょうど座ると同時に入学式が開始された。正直、この手の行事の話は退屈でしょうがない。そう思って、僕はうとうとしながら、話を聞いていた。


「えーでは、次に、生徒会長より挨拶。岩永・・生徒会長、宜しくお願い致したします」


「えっ!!!」


 その名字には聞き覚えがある。それもそのはず、その名字は僕と同じ名字・・なのだから。それに、そんな名字は、この学校では1人しかない。そう、美羽姉本人である。

 先生によって呼ばれた美羽姉は、足音も立てずに壇上に向かって歩いている。制服は赤紫色のチェックのスカート、胸には大きな赤いリボンがついていた。服全体の色としては、黒色を基準としている。そのまま壇上の前まで行き、挨拶を始めた。その声は、約1年ぶりの美羽姉の優しい声だった。まさか生徒会長になってるとは思わなかった。


「はい、皆さん、おはようござい…………ぶはぁぁぁっ!」


「大丈夫ですか!? 生徒会長? 鼻血が出ていますが」


「い、いえ、大丈夫です。何でもありません」


「……」


 僕はポカンとしながら、様子を眺めていた。多分、新入生皆がそう思ったであろう。美羽姉は先生に言われて、ポケットティッシュを取りだし、鼻血を拭き取った。何故急に鼻血が出たのかは分からないが、美羽姉は咳払いをして話を戻した。


「それでは、挨拶の続きをいたします。新入生の皆さん入学おめでとう。私がここの生徒会長をやっている岩永と言います、どうぞ宜しく。高校生となると、皆さんは中学の時と比べ…………」


 うん、やっぱり昔から変わってない。しゃべり方も、歩き方も、昔のまんまだ。ただ1つ疑問なのが……


「そして、新入生もこの学園では、規則正し……ぶはぁぁっ!」


「生徒会長。本当に大丈夫ですか?」


「えぇ、だ、大丈夫です。いつもの事だから。」


「日頃から、そんなに出しているのですか!?」


(そう、僕もさっきからビックリだよ! どうしてそんなに鼻血が出てるの!?)


 そんなツッコミも胸の中にしまい、入学式も無事に終わりを迎えることができた。今日の放課後にも、美羽姉に会いに行こうかな。僕の内心は、とてもワクワクしていた。


 入学式は午前中だけなのて、ホームルームが終わると、荷物を手短にまとめ、鞄の中に放り込む。

 近くにいるクラスメイトに軽く挨拶を交わして、教室から出る。先程、信三にも会いに行くかと訪ねたところ…


「いや、俺はいいや。姉弟水入らずで過ごしてきな」


 と何故か親指を突き立て、歯をキラリと見せながらグッドサインを出してくる。多分、心の中だと『今の俺ちょーカッコいいいー』とか思ってんだろうな。


 信三に別れの挨拶をし、教室を出て、美羽姉のいる生徒会室に向かう。入学式が終わった直後なので、廊下では他クラスの生徒達が溢れ返っていたーーちなみに、1年生の教室は4階、2年は3階と下に続いていくーーそして、肝心の生徒会室は、この学校の屋上に設置されているらしい。

 つまり、僕が目的としている場所は最上階の屋上だということだ。廊下の人混みを潜り抜け、近くの階段を見つけた。そのまま階段を上がると、屋上への扉があった。だか、鍵とパスワードが掛かっており通れず、扉の前で立ち尽くしていると、不意に後頭部から硬いものを押し付けられた。


「動くな!!」


「ひっ! い、一体なにっ?」


「喋るな。そのまま手を頭の後ろに組んで、地面にひれ伏せ」


「わ、わかった」


「喋るなと言っただろ! 日本語も分からないのかこの原住民は!」


「その言い方酷くね!?」


 全く一体何がどうなってんだ? 僕は特になにもしていないと思うんだけど、とりあえず、言う通りにしておこう。

 バレないよう横目で後ろにいる奴の顔を見る。学年別のリボンの色は…赤みたい。つまり、2年の女の先輩だ。髪はロングポニーテールに夕焼けのように真っ赤な色のリボンで結んでいる。


「貴様、そこで一体何をしていた?」


「はい、僕は……」


「分かったもういい、すぐ楽にしてやる。ちょっと待ってろ」


「まだ答えてないけど!? それよりも何そのモデルガンみたいなやつ!」


「ん? あぁ、これか。これは、『ベレッタ M9A1』と言う拳銃だか? それより待ってろ、マガジン入れるから」


「え、なに!? それ本物なの? そもそも銃弾は普通込めておくよね! そんなんじゃ拳銃の意味ないよね?」


「ぼ、暴発しない様に撃つときだけマガジンを込めるの!!」


 先輩は耳を真っ赤にしてこっちを睨み付ける。ヤバイ殺られると思い目を瞑ったがなにも起きない。すると、気持ちを落ち着かせているために深呼吸をしていたみたいだ。

 なんと言うか、怖いことを言ってる割には、可愛い人だな。これはもしや、ギャップ萌えとか言う奴じゃないか。


「貴様、次喋ったら、容赦なく撃つ!」


 やっぱり怖い先輩だった。弾込めが終わったようで、銃口をこちらに向けて言い放った。


(…じゃあ、喋らないでおこう)


 むやみやたらに命を落とすこともないだろ。ここは、大人しく助けでも待つかな。そう思って無言でいると


「何故急に黙る」


(いや、あなたが喋るなと言ったからだろ!?)


「なんで喋ら…あ、じゃなかった。何故喋らない」


「……」


「……なんで黙ったままなの……ねぇ……ぐすん」


 すると、先輩は顔を俯き目に涙を浮かべた。精神面弱過ぎ! っとそれより…


(ヤバイ! 何か、先輩だんだん涙目になってきてね!? この状況、僕が泣かしたことになるのかな?)


 先輩は、僕が1ミリ足りとも動かないので不安になってきたのか、我慢してきた涙がポロポロと頬に流れ始めた。すると、銃を手放して、手の甲で涙を拭いている。

 僕は可哀想だと思ったが自分の命がかかっているのだ、悠長なことは言ってられない。今が逃げるチャンスだと考え、先輩が泣いている間に逃げようとしたが

 ーーカラッーーと何かを踏みつけてしまったようだ。


「な、なんだ!!」


 瞬間的に足下を見ると、銅色の小さな筒のようなものが視界に入った。それは先程、先輩が込めていた弾丸だった。くっ! 油断した。こんなものに足を取られるとは。僕はそのまま後ろに倒れてしまった。勿論、後ろには泣いていた先輩も居るわけで……


「……ッウウゥ、って痛くない? それに何か温かく、柔らかい物が手の中に……はっ!」


 そして僕は気づいてしまった。こ、これは男性陣達が必ずいだく夢、そしてロマンの塊であるオッパイ、ちち、胸、胸部、というものではないですか!! 更に無意識にその手を少し動かしてしまった。


「ーーはぁぅん!!」


「はっ! すすすすすみません、先輩!! とても気持ち……じゃなかった。許してください」


 反射的に謝って気づかなかったが、僕はまだ先輩の上に跨がっていて、先輩の服装をよく見ると着崩れていて、スタイルの良い身をよじっている。

先程泣いていた涙が目頭に浮かんで、妙に色っぽく感じる。やばい、ちょっとドキドキしてきた。ってこんな場面、誰かに見られたら初日停学なんてあり得るし、フラグ回収される可能性があるかも。


「ーーカチャリ」


 すると扉の方からギギギッと音がした。恐る恐る振り返ってみると先程閉まっていた扉が開いており、そこから見知った顔が出てきた。


「一体何の騒ぎですか? 生徒会への仕事の依頼ですか? あぁ、それならお断り致します。今日は仕事が多いので早めに終わらせて帰ろうかと思ってて……あれ?」


 天の助けかそれとも地獄からの使いなのか、多分この場合は後者の方が合ってるだろう。それに僕にとって今の状況は非常に説明しづらい。

 なぜなら、服を着崩し、涙を浮かべている女性が上から男性にまたがられ、そしてーー拳銃が落ちている……はいっアウト! 普通に通報されてもおかしくない状況だ。入学初日から問題発生とは、なんて最悪な日だ。これは……終わったな。しかも、見られた相手が美羽姉とかーー


「和馬じゃないですか? 一体どうしましたか?」


「あ……これは…その……」


 僕が言い訳のために思考を巡らしていると、美羽姉の方から先に周りの状況を理解したようだ。


「なるほど、言いたいことは分かりましたよ和馬。あなたはこのまま生徒会室もとい刑務所に……それに親衛隊長さん。あなたはもう下校して結構ですので、此方の事はもう大丈夫ですから」


「やめて!! 美羽姉! 本当に誤解だから!」


 け、刑務所だけは勘弁。あれ、そういえばあの人親衛隊長だったのか、名前とか聞いてないな。あれ? あの人どこだ?


「会長! こいつは一体誰なのですか!? まさか……会長のか、かれ、彼氏……とかでございますか? そんなことはございませんよね! 会長! そ、それともまさか! 会長をつけ狙うストーカーですか! 会長の弱味を握って放課後、教室に呼び出し『俺のためにその身体を差し出せ』とか耳元で囁いて強引に押し倒し、そのまま肉体関係に……」


 え、いつの間に!? そっち側に移動したの! あの人は忍者か何かかよ。それに少し息が荒くなってるし、あの人の方がストーカーじゃないのかな?


「岡野さん、そんなことはないとして……あなたの私に対して心配してくれる気遣い、さらには生徒会の仕事の手伝いまでしてくれる優しさなど……私、好きですよ。それにそこの新入生は私の弟です」


「えっ!?」


 すると、岡野先輩が意外そうな顔をして、こちらを振り向いた。こんな奴が弟みたいな雰囲気を(かも)し出していた。


「そ、それでもですよ! どうして私に…下校してなどと仰ったのですか?」


(何かこの人……凄く焦ってない? たかが下校してって言っただけなのに。それに、さっきの反応は……まあ、仕方がないかな、美羽姉は綺麗だし、僕みたいな冴えない奴だと姉弟とか思われないんだろうな)


「それは、学園の問題は生徒会の問題でもあるからです。親衛隊長であっても、生徒会とは無関係ですし、学園の先生方に見つかる前に事を終わらせたいのです……それに今日は予定がありますし……と、とにかくそんなに大きな問題にならないように私が片付けるので、今日のところは下校してください」


 なんだか美羽姉少し顔が赤くなったような? 僕の気のせいかな?


「わ、分かりました。今日のところは引き上げさせて頂きます」


 そう言うと、親衛隊もとい岡野先輩が承諾したようだ。はぁ、やっとこの気まずい空気から解放される。僕も細かい説明は後で美羽姉にたっぷりじっくりと説明するかな。別に誤解させたいわけではない。ただ単に、美羽姉はさっきの出来事のようなことがあると、しつこく説明を求めてくるのだ。

 すると、岡野先輩がこちらに近づいてきた。しかもゴミでもみるような目つきで……


「貴様、会長にどんな手段で近づいたか知らんが……会長に何かしてみろ。貴様は明日から外に出られないような状況にし、世界各国の軍隊に連絡して貴様の家に襲撃してやるからな!」


「なんで世界各国!? そもそも先輩に軍隊を呼ぶ力なんてないでしょ! それに手段も何も、僕はそこにいる岩永生徒会長の弟ですから、昔から近くにいますよ?」


「……そ、そんな事は分かっている。あと、軍隊を呼ぶ事は……可能だからな。それと世界各国は大袈裟(おおげさ)に言っただけだ」


 この人はあれだ、えーっと、単に馬鹿(バカ)なだけだな。いや、そうじゃない。美羽姉以外に対しては興味がないから頭が回らないんだな。さっきも美羽姉が僕の事を弟と言ったのにも(かかわ)らず、その事すら覚えていない。動物で例えるなら鳩に近いのかもしれない。

 ん? それよりさっき可笑しな言動があったような。まあ、気のせいだな。


「で、では今度こそ。会長、私は帰らせて頂きます。それではまた後日……」


 岡野先輩は(ようや)く帰るようだ。そして階段を下りていった。全く今日はとんでもない日だな、さっきの先輩に拳銃を突き付けられたり、美羽姉に迷惑かけたり、家に帰って寝たい気分だよ。

 すると、右肩に手を置かれる、恐る恐る振り返るとーー鬼がいた。


「……ねぇ〜、カズ君、さっきの岡野さんとの会話で私の事を岩永生徒会長(・・・・・・)って何で呼ぶのかなぁ〜? 昔言ったよね? 私を呼ぶ時は、美羽姉と呼ぶようにしなさいって、それなのに何で名字で呼ぶの? 私の事が嫌いにでもなった? それもそうだよね、1年以上もカズ君と話とかあんまり出来なかったもんね。それでも私、今日はカズ君に第一声に『美羽姉ーー、I Love you』って言って欲しかった。それなのに…それなのに……ぐすん。あと、さっきの岡野さんとの出来事について教えてもらえる?」


 美羽姉はそう言うと、手が見えない程のスピードで鍵とパスワードを使い、屋上への扉を開けた。


「あ、そうだ。カズ君に言い忘れてた。ーー入学おめでとう! これから一緒に楽しく過ごそうねーー」


 僕はその時の美羽姉の笑顔が気持ち悪いくらい笑っていて、正直怖かったです。


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