砂上の楼閣4〜女の勘
『芽依いいだろ?』
『え? まだ明るいよ』
『いいだろ? たまには』
『う、うん…』
白いシーツの海にゆっくりと身を落として行く芽依とウィル。互いの愛を確かめ合う様に抱きしめ合った。ウィルの指が芽依の敏感な箇所に触れる度に、芽依は苦痛に顔を歪める。
『…もういい!!』
妊娠して以来、肌が敏感になって下着が胸に当たるだけでも涙が出るほど痛い。そんな芽依の体の変化なんて知らないウィルは、自分の愛撫に感じない芽依に一気に萎えてしまった。がばりと芽依から離れると、無言で寝室から出て行った。
その日を境にウィルはある提案をしてきた。
『これ以上家に居ると仕事で気が狂いそうだから、リフレッシュも兼ねて週末は自分のための時間に費やす』
これは提案なんかじゃなくって宣言。ウィルの宣言通り、週末になるとウィルは必ず車を走らせてどこかへ行く様になった。初めは、日帰りでの遠出がいつのまにかどこかで泊まるようになった。
ウィルの仕事が殺人的に組み込まれたスケジュールだと言うのは頭でわかってる。見えない苛立ちは、次第に芽依に疑いの芽を植え付けた。
『愛してるのは芽依だけだよ』
その言葉を待っていた。
疑いは数字に表れる。
テーブルの上には何枚ものカードの請求書。全てウィルの名義ばかり。
封を開けると、その額が$1300ドルにも膨れ上がっている。一体何に使えばこんな金額になるの?
まさか…ウィルが浮気? 小心者のあの人に、浮気するような勇気も根性もないから大丈夫よね。
そんなことよりも、今日はグラージの掃除♪
気分転換にとついでにウィルの車も綺麗にするか。じゃあ、まずはトランクのゴミでもチェックするか〜。
気軽に開けたトランクの中には、芽依の仕事の書類とそこにあるはずのない一眼レフが転がってた。
「?」
ウィルが大枚はたいて買ったカメラ。これが原因で喧嘩したことあったが、『生まれて来る赤ちゃんを撮るために使うんだ!』そのウィルのキラキラした目と迷いのない言葉に芽依が折れた。出産まで先だから家のクローゼットの中で半分肥やし化してたのに。何でここに?
震える指でカメラのバッグを開けると、カメラを手にとった。
電源をオンにして、撮影枚数を確認した。
148枚
ウィルは生まれて来る子供を撮るためって言ってたのに…。なんで?
初めは風景ばかりの写真も、やがて一人の女性の姿をとらえてる。
「う…うそ…」
カメラのファインダーに落ちる涙の雫は止まることをしらない。
涙で大きく見える液晶画面の数字は3日前のもの。
信じてた物があっけなく崩れてく気がした。
誰よ…この女。
ウィルの横でにこやかに微笑むのは、私と似てない長い髪。
今までウィルの洋服からホテルのレシートが出て来ても、映画の半券が2枚でて来ても、気のせいだとずっと思っていた。
現実から目を反らしてた。彼が愛してるのは私だけだと、そう信じてた。
彼の愛情に胡座をかいていたのは、私…。
もう決定的な証拠に目を反らせられない。
あの人は浮気をしてる。




