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ほころび〜砂上の楼閣1

『ウィル、早く起きて!』

『もうちょっと〜』

『だめよ。今日は外せない会議があるんでしょ?』

『あ、ああ…そうだった』

『来週は、ケリー達との食事会だからね〜』

『!!忘れてた!!しっかり者の奥さんが僕の管理をしてくれるから、助かるな〜』

 


 朝のどたばたはいつものこと。早いな〜アメリカに来てもう8年。最初は知り合いなんていないアウェイ気分だったけど、こんだけ長くいればアメリカ人の友人も出来たし、在米日本人から日本人と友人達に恵まれている。

 たまの女子会やホームパーティでは政治や世論に経済と言った硬い話題から夫婦の週末の過ごし方まで多岐に渡る。我が家の週末の過ごし方は夫婦別々で好きな時を過ごしている。


『え?芽依ちゃん、それって夫婦としておかしいよ』

『そう?』

『でも毎週じゃないんでしょ?』

『じゃないけど、週末が休みの時は毎回だよ』

『芽依ちゃん、浮気されちゃうよ』

『まさか〜』


 そりゃあ、私だってウィルと一緒に遠出したいし、買い物にも行きたい。でもさ〜ついつい言っちゃうのよね〜。「ハンカチ持った?小銭は?お水は持ってるよね?サングラスも持って行ってる?また財布を忘れそうになってるじゃないの?」

『芽依は僕の奥さんなのに、オカンみたい』なんて言われちゃってます。

まあ実際うちのウィルさんって、三度くらい財布を忘れて遠出していったことがあるからね…。


『息が詰まるんだ』


 彼のあの一言が私の考えを変えた。


 ウィルは仕事中毒って言っても良いくらいの仕事人間(ワークホリック)。そんな彼を中心に、新しく興した新事業が展開した。それを知った時は思わず万歳三唱しちゃった。ウィル自身、自分の会社って言う責任もあるし、殆ど休みがない彼にたまの休みくらい、もっと自分の時間を作ってもらいたいって思っちゃったわけよ。たまの休みには煩い私と一緒に居るよりも、好きなドライブしてリラックスして欲しい。


 最初にこのことを提案して来たのはウィル。彼から「週末だけでいいから一人で遠出しても良い?」と聞かれたから快諾したの。

だって、これはウィルがよりよく仕事するために必要なことなんだもの。

寂しいなんて言ってらんないよ。

 

「あれ?ウィルは?てっきりウィルもいると思って、色々作って来たのに〜」


 彼女はここでの私のお母さん的存在の渡辺恵子さん。


だから私は幸せそうな笑顔で言うの。


「仕事のガス抜きが必要だからね」


 そうすればみんな、「あら仲いいわね」なんて勘違いしてくれる。だから気がつかなかったの。




そこにほころびがあったなんて。




 私とウィルじゃ、合う趣味があまりないのよね。


「歩み寄ろうよ」


 アウトドアや田舎が好きなで庭木の手入れに余念がないウィル。便利な都会が好きな日本人であんまり面倒なことは嫌いな芽依。 


「じゃあ何で結婚したの?」


 呆れた様にそんなこと聞かれても困る。ぽりぽりと頬をかけば、恵子さんはだんだんニヤニヤ顔だし。これって絶対恵子さんってば楽しんでるよね?


 だってウィルと私は違う価値観を持ってるし、そ、それに私の持ってない物を持ってるし。高身長とか…、優しいこととか…、きちんと言葉で愛情表現してくれるとことか…。あ、後は…私をお姫様として扱ってくれる人だから…って言うのが一番の理由です。はい…。顔を真っ赤にして当時のことを告白してたら、「あ〜お茶が美味しい〜」だって。全く失礼しちゃう。


 いつもだったら食べたくなるお菓子よりも、酸っぱい物が食べたくって、つい…ヨーグルトに手が出ちゃう。そんな私の状態をじーっと見てた恵子さんが口にした言葉。あれはきっと予言だったのね。


「ねえ、芽依ちゃん。あんたもしかしておめでたなんじゃない?」


「ええ〜まさかぁ〜」


 そ、そりゃ芽依もウィルも自他ともに認めるほど子供好きだし。子供も欲しいと思っている。けどさ…こればかりは天からの授かり物。今まで二人で生きてくのが精一杯って感じだったから、尚更よ。


 あ…そう言えば今年からちょっと子供でも作ろうかって二人で言っていたんだよね。まさかピルを止めてすぐに出来るわけないし…って思ってたから、恵子さんの言葉に吃驚仰天よ。


「芽依ちゃん、あんたは気づいてないかもしれないけどさ、今日さ〜お店に入った時から『キッツ!何この匂い?!』って顔を顰めてたし、あんたヨーグルトなんて普段食べないでしょ?なのにそんなのまで口にしてるじゃない。だてに私は年取ってんじゃないわよ。一度、検査薬で調べてみたほうがいいね」 


「そ、そうなの?」


 恵子さんから手渡された検査薬をじっと見てるけど、本当に子供なんて私のお腹の中にいるのかな?本当は取り越し苦労で、実は想像妊娠でした〜だったら本当に恥ずかしいよ。恵子さんからも早く検査してらっしゃいと急かされ、トイレに籠ること数分。


 小さな窓にくっきりと浮かび上がってる青い十字は、妊娠確定…なんだよね?


「どうだった?」


「出来てたみたい」


 良かったわねと抱きしめられ、涙腺が崩壊して来るのは嬉しいからだよね…。


「なら、すぐに病院で診てもらわないと!早く予約を入れないとね!」


うん。




 先人の言うことはちゃんと聞きなさいとばかりにドヤ顔をされて、思わず笑った。







秋の扇 愛されなくなった女の例えだそうです。


団扇じゃダメなんですかね?

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