魔女の森
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小さな変化というのは案外気がつかないものだ。
ただ、小さな変化が積み重なったら大きな変化となる。
大きな変化に気づかないものはいない。
例えそれが目に見えないものであっても・・・。
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「こうして見ると、季節が変わってるのを感じるな。」
俺はそこらじゅうに咲き誇る桜を見てしみじみと思った。
ついこの間まで、桜なんて目にしなかったのに。
「そうですねぇ・・・」
賢者も桜を眺めながら歩いている。
「桜って日本だけでも数百種類以上あるんですよ。」
「へぇ・・・」
賢者が桜について語り始めた。
「桜っていうのはとっても繊細なんですよ。傷をつけたり、枝を折ったりするとそこから菌が感染して病気になってしまうんです。また、根元の土を踏んで固めてしまうと養分が吸えなくなってしまいます。そんな桜の花言葉は<純潔>です。美しいですね・・・」
「詳しいな。」
「伊達に賢者を名乗ってないですよ。」
そう言う賢者は少し得意げだ。
{アゲハチョウが現れた!}
「あ、アゲハチョウだ。」
「春ですねぇ・・・」
{アゲハチョウの攻撃!しかし当たらなかった!}
「なんか、俺たちの周りを飛び回ってるんだけど・・・」
俺は手でチョウを追い払おうとした。
「勇者様が気に入ったんじゃないですか?」
「なんかやだなぁ・・・」
{勇者の攻撃!しかし当たらなかった!}
{アゲハチョウは逃げ出した!}
「あ、飛んでいった。」
「春ですねぇ・・・」
「魔女の森って言うくらいだからもっと薄暗い所だと思ったんだけどな。」
「時期が時期だからじゃないですかね。夏に来たらもっと凄いんじゃないかと・・・」
お花見に来ている人もちらほらいる。
人が近寄らない所に魔法使いは居そうなものだけど。
森に入ってから10分ほど歩いた所に木造の小屋があった。
どうやら、この森の管理室のようだ。
「あそこですね。」
「魔法使いってこの森の管理人なのかよ・・・」
俺がイメージしていた魔法使いは、黒いマントとハットをかぶって怪しい薬を作ってる・・・
それは魔女か・・・。
きぃぃぃぃ
「失礼します。」
「こんにちは。どうなさいましたか?」
小屋の扉を開けると、受付の方であろう女性が話しかけてきた。
「えっと、私は赤木賢治という者です。ここに勤めている宇津介真帆さんに用があって参りました。」
「あぁ~、赤木さんね。ちょっと待っててね。」
そう言うと受付の女性は奥へと引っ込んでいった。
宇津介真帆さんか・・・。
賢者と同じく惜しい名前だ。
俺も人のことは言えないが。
どんな人なんだろうか。
真帆という名前だから女の人なのだろう。
年上か年下か・・・。
優しい性格の人がいいなぁ・・・。
いろいろと考えを巡らせていると、先ほどの女性が戻ってきた。
「申し訳ありません。真帆さんはいま森のパトロールに行ってるみたいです。しばらくすれば戻ってくると思うのですが・・・」
「そうですか。ありがとうございました。」
魔法使いが不在のことを聞き、俺たちはいったん小屋の外に出た。
「どうしますか?勇者様。」
「どうするって・・・待つ以外ないんじゃないの?」
「こちらから会いに行くってのもありだと思いません?」
「えっ?」
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結局、賢者の案の通り魔法使いを探しに行くことにした。
「待ってれば戻ってくるって言ってたのに・・・」
「まぁまぁ。じっとしててもつまらないじゃないですか。ついでに森の観光もできますし。」
「はぁ・・・」
探すって言ってもこの森は結構広いぞ。
しかも、魔法使いがどんな人かもわからないのに。
「賢者は魔法使いがどんな人か知ってるのか?」
「いえ、知りません。」
「じゃあどうやって見つけるんだよ。」
「管理人をやっていますから、服装でわかりますよ。」
「あ・・・」
そういえばあの受付の人も制服を着ていた。
あれと同じ服の人を探せばいいのか。
・・・緑のポロシャツにベージュの長ズボン。そしてオレンジのサンバイザーをかぶっていた。
よし、覚えている。
これなら見つけられるぞ!
「全然見つかりませんね・・・」
「あぁ・・・」
あれから30分ほど探し回ったが、魔法使いを見つけることはできなかった。
「もう、管理小屋に戻ってるんじゃないか?」
「そうですね・・・。仕方ないですね。小屋に帰りましょうか。」
こうして俺たちは小屋に帰ることにした。
「もう疲れた・・・。ちょっと休憩しよう。」
「わかりました。では、そこのベンチで一休みしましょう。」
ベンチに腰をかける。
今日は歩きっぱなしだ。
足が痛くなるわけだ。
「ふぅ・・・」
すでに日は傾いてきている。
3時くらいだろうか。
「そういや、お昼ご飯食べてなかったな。」
「そうですね。すっかり忘れてましたよ。」
ゆっくりと時間が過ぎていく。
足もだいぶ楽になった。
「そろそろ行こうか。」
「そうしましょう。よっと・・・」
立ち上がろうとした賢者の動きが止まった。
「どうした?」
「う、動かないで下さい。じっとしてて・・・」
「え?えっ?」
状況が飲み込めない。
「なに?何があるの?」
「勇者様の背中に・・・大きな蜂がとまってます・・・」
{ミツバチがあらわれた!}
その瞬間、体が硬直する。
やばい。何もできない。
「ど、どうにかしてくれ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
「速く!速くっ!!」
いつ刺されるかわからない。
俺はただ硬直することしかできない。
頼みの綱は賢者だけだ。
頼む・・・どうにかしてくれ!
「お待たせしました!いきますよ!」
賢者はどこからか拾ってきた木の枝を構えている。
{賢者は木の枝を装備した!}
「そ、それで何するの?」
「その蜂を倒します。」
「わ、わかった。」
「一瞬で終わらせます・・・」
俺は身構える。
「いきますよ・・・」
賢者が振りかぶった。
その時だった。
「コラッ!森の虫を勝手に殺すなっ!」
突然女性の怒鳴り声が聞こえた。
その声に驚いた俺は、ビクッっと動いてしまった。
「ヤバイッ・・・」
背中に力を入れる。
「そんなに怖がらなくても、こっちから攻撃しなきゃ蜂も刺してこないよ。」
今度は優しい声だった。
「あくまで攻撃しなきゃだけどね。」
その声と同時に蜂は俺の背中から飛び去って行った。
{ミツバチは逃げ出した!}
俺は胸をなでおろした。
心臓がバクバクなっている。
「よかったですね、勇者様。」
「あぁ・・・」
「これにて一件落着やな。もう虫殺したらいかんよ~。」
そう言い残すと、女性は去っていってしまった。
女性の姿は太陽の光でよく見えなかった・・・。
「とりあえず小屋に戻りましょうか。」
「そうだな・・・」
再び、俺と賢者は歩き出した。
俺は先ほどの一件で、また疲れてしまった・・・
・・・あたりはすでに夕焼けに包まれている。
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「・・・これが今回のものです。」
「ご苦労。少し速いかもしれんのぉ。」
「誤差の範囲内です。」
「そうかそうか。では、引き続きよろしく頼むぞ。」
「はい・・・」
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