勇者は少し成長した!
「さて、一通り自己紹介も終わりましたし話を進めましょうか。」
赤木賢治・・・改め賢者は話を始めた。
「とは言っても、私から話せることはあまりないんですけどね。」
「はい・・・」
「では、この旅の目的から・・・」
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「・・・私が知っていることはこれくらいですね。」
結局、魔王の正体はわからなかった。
賢者も知らないことは多いようだった。
王の素性や、なぜ自分が賢者に選ばれたのかも知らないそうだ。
「それじゃ、王様の所に戻りましょうか。これからのことも聞かないといけませんし。」
「えっ?それも知らないんですか?」
「まぁ・・・ね。それは勇者様も同じでしょう?」
「え、えぇ・・・。」
この旅はわからないことが多すぎる。
おそらく、賢者も同じことを思っているだろう。
全てを知っているのは王だけなのだろう。
俺は賢者と共にバーを出た。
あたりはすでに夕焼けに包まれていた。
「そういえば・・・なんで賢者はここにいたんですか?別に集合場所は王の事務所でもよかったのに・・・」
「それは、王様に聞いてください。私もここで待ってろと言われただけなので。」
「そうですか・・・。」
「後、敬語はやめてください。」
「あ、すいません・・・」
そんなやり取りをしながら、俺たちは王のもとへ向かっていった。
仕方ないか・・・
俺は余計なことを考えるのをやめた。
用は魔王を倒せば報酬がもらえる。それだけを考えれば・・・
「どこ見て歩いてんだゴラァァァァァ!」
突然の大声に心臓が跳ね上がる。
「あなたこそ、前を見て歩いていたんですか?」
「なんだテメェ。なめてんのか?アァ!?」
「別に、なめてるつもりはありません。」
賢者が口論になっている。
相手は高校生だろうか。
どうやら歩いてきた人と肩がぶつかったようだ。
自分がぶつからないで良かった・・・
なんてことを思っていると賢者がこちらに歩いてきた。
「おい、テメェ。逃げんのかよ。」
「逃げるのではないです。ちょっと待ってください。」
賢者はそう言うと俺に話しかけてきた。
「どうします?勇者様。倒しますか?」
「え?倒す?」
「はい。あの柄の悪さ、魔王の手下かもしれない・・・」
「それは考えすぎじゃないかなぁ?」
「とにかく、戦うも逃げるも勇者様しだいです。どうします?」
「ええっと・・・じゃあ、」
「何こそこそ話してんだぁ?アァ?」
「ひっ・・・」
先ほどの高校生が近づいてきた。
ものすごい怖い。
鼓動が速くなり、汗がでてきた。
「どうします?勇者様。」
賢者が聞いてくる。
やつはゆっくり近づいてくる。
「にっ、逃げろっ!」
その言葉と同時に俺と賢者は走り出した。
{勇者は逃げ出した!}
「あっ!待たんかいコラァァァ!」
高校生は追いかけてくる。
だが、足は俺たちのほうが速かった。
見る見るうちに差は広がっていく。
{上手く逃げ切れた!}
「はぁはぁ・・・。」
俺たちはしばらく走ったあと、先ほどの高校生が追ってこないのを確認してからゆっくりとスピードを落とした。
「もう大丈夫だな・・・」
そうとう息が上がっている。慢性的な運動不足だ。
「どうして逃げちゃったんですか?あいつを倒せばレベルが上がったのに・・・」
それに引き換え賢者は全く疲れている様子がない。すごい体力だ。
「倒すって言われても、俺は喧嘩もしたことないし・・・。それにレベルって何?」
「何のために私がいると思ってるんですか。私なら魔法でチョチョイと倒せましたよ。」
「魔法!?」
待ってくれ。
とりあえず、呼吸を整えないと・・・
「ふぅ・・・。まず一つ目に、魔法つかえるんですか?」
「また敬語・・・。まぁ簡単なものだけですが。」
「あっ、すいません。例えばどんなのが使えるんです・・・使えるの?」
「そうですねぇ。ファイアの魔法とかです。」
そう言うと賢者はポケットからライターとスプレーを取り出した。
「えっ?それって・・・」
「まぁ、見ていてください。」
賢者はライターを付け、そこにスプレーを吹きかけた。
すると前方に、火炎放射のように炎があがった。
「どうです。これくらいなら勇者様でも使えるでしょう。」
「はぁ・・・」
それって魔法じゃない・・・という言葉は飲み込んだ。
やっぱり、どことなくうさんくさい。
「じゃあ、レベルって何ですか?」
「自分の強さの指標です。敵を倒せば倒すほどレベルは上がります。」
「敵を倒すって・・・殺すわけじゃないですよね?」
「そうですね・・・。基本的に相手を戦闘不能にすればいいので、動けなくする程度でいいんじゃないですかね?」
「はぁ・・・」
戦闘不能ねぇ・・・
「ただいま戻りましたー。」
その後は特に何もなく、無事に王のところへ帰ることができた。
「おぉー。良くぞ戻ったな、勇者。そして賢者よ。」
「はい。二人とも以上なしです。」
賢者と王が会話を続けていく。
窓の外はもうすっかり暗い。
そろそろ帰りたいなぁ。
「・・・さま、勇者様。聞いてますか?」
「え?いや、ごめん。ボーっとしてた。」
「まったく・・・。」
「では、改めてもう一度言おうかの。」
全く聞いていなかった。やばいやばい。
「今度は、ここから8駅ほど離れた所に魔女の森がある。そこにいる魔法使いを仲間にしてくるのじゃ。」
「はい、了解しました。」
「はぁ・・・」
この近くに森なんかあったっけな?
そんなことを考えていると、賢者が話しかけてきた。
「勇者様、今日の冒険はこれで終わりだそうなので記録を付けて帰りましょうか。」
記録・・・日記みたいなものか。
そう思って賢者について行く。
ついて行った先にあったのは、予想していた日記のようなものではなかった。
そこにあったのは・・・CTスキャンのようなものだった。
「え・・・。これは?」
「勇者様の冒険の記録をつける機械ですよ。さあ、そこに寝てください。」
「はぁ・・・」
言われるがままに俺は機械に寝ころがった。
「すぐ終わりますからねー。」
賢者は看護師のような口調で言った。
賢者がスイッチを押した。
すると、機械が音を立てて動き出した。
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30秒もしないうちにその機械は動きを止めた。
「はい、終わりました。」
ゆっくりと機械から降りる。
記録ってこれだけでできるのか。
記録が終わったので俺は帰路につくことにした。
・・・帰りの電車の中、俺は思った。
なんで賢者がいるんだ?
「あの・・・、家はこっちなんですか?」
「また敬語ですか。家も何も、今日から勇者様と一緒に住むのですから当然じゃないですか。」
「・・・はぁ!?」
今日、一番大きな声を出した瞬間だった。
「よろしくお願いしますね、勇者様!」
{賢者が仲間になった!}
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「・・・さま、これをどうぞ。」
「ふむ。順調だな。これなら計画通りに進むだろう。」
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