新しい仲間
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人は誰しも全てを知っている訳ではない。
この世で何が起こっているのかを全て知ることはできない。
しかしこの世に生まれた以上、人は全ての出来事に巻き込まれるのだ。
それが自分の知らないことであろうとも・・・
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「しかし・・・俺ってこの旅のこと全然知らないなぁ~。」
俺はバーに向かいながらそんなことを考えた。
旅の目的はわかる。・・・いや、完全に理解してるわけではないんだが。
目的は魔王を討伐することだ。
だが、魔王がどこにいるか。どのような姿形なのかはなにも聞いていない。
それに、この旅のシステムも聞かされていない。
その証拠に、ダメージを受けるなんて知らなかった。
これからは周りに注意して歩かないと・・・。
「はぁ・・・。前途多難だな。」
この先まだまだ、想像もできないことが起きるかもしれない。
気は抜けないなぁ・・・。
・・・まてよ。
ダメージを受けるってことは、俺にはHPがあるわけだ。
ということは、もしHPがなくなったらどうなるのだろうか?
RPGだとHPがなくなったら、その場でGAME OVERになる。
そしてコンテニューだ。
だが、この世でコンテニューなんてできるはずがない。
人間を生き返らせるなんて不可能だ。
つまり、HPがなくなるってことは・・・
「死ぬってことになるのか?」
「それって・・・相当やばいよな。」
俺はすでにHPを10失っている。
あとどれくらい残っているのかわからない。
この先どんなことがあるかもわからない。
心臓の鼓動が速くなる。
いつダメージを受けるのか。
そんな恐怖と戦いながら、俺はバーに向かっていった。
「ここか・・・。」
そのバーはあるビルの地下にあった。
おそらく、めったなことがない限り人の目には映らないだろう。
扉は日のあたりにくい一本の階段を下るとあった。
とても薄暗い。
そんな中に、扉が異様な威圧感を放っている。
きっと、この扉の向こうには新しい仲間が待っているのだろう。
「なんか、不思議な感じだなぁ。」
そう思うのも仕方のないことだ。
今日の朝まで俺はただのフリーターだったのだから。
それが、いきなり勇者にされて魔王討伐に行かされて・・・
そして、新しい仲間・・・
「よしっ、行くか。」
この扉の向こうにはどんな人が待っているのか。
鼓動が高鳴る。好奇心が湧いてくる。
気持ちをおさえながら、俺はゆっくりと扉を開けた。
きぃぃぃぃぃ。
扉は外観とは裏腹に、すんなりと開いてくれた。
内装はカウンター式のバーになっており、とても俺のようなフリーターでは手の届かないような高級感があふれている。
「すげぇ・・・。」
素直な感想を口にした。
おそらく、今までの俺であったら決して見ることのないような風景。
それが、目の前に広がっている。
まるで、自分が違う自分に生まれ変わったようだった。
ははっ・・・
そりゃそうか。なんたって俺は【フリーター】から【勇者】になったんだもんな。
「あなたは・・・勇者ですか?」
不意に声をかけられ、驚いてしまった。
悪いことをしているわけではないのにな・・・
声のしたほうを向く。
そこには、スーツを着た男性が座っていた。
20~30代だろうか。結構若そうだ。
「あの~?」
「あっ・・・。はい、そうです。勇者です・・・」
「やはりそうですか。こんにちは。」
その人は、俺が勇者だとわかると人懐っこい笑顔を見せた。
スーツを着ていなかったら高校生に間違えられるだろう。
「まぁ、そんなところに立ってないで座ってくださいよ。」
「あっ、はい。失礼します・・・。」
「そんな緊張しないでくださいよ。」
「はい。すいません・・・。」
なぜだろう。謝ってしまった。
その男は風貌は今風の若者。にもかかわらず非常に大人びた口調だ。
・・・人は見かけによらないんだなぁ。
そんなことを考えていると、男は喋りだした。
「自己紹介がまだでしたね。私のことは賢者と呼んでください。」
・・・こいつもあの王とか言ってた奴と一緒なのか。
いや、しかし本名が賢者ってことはないだろう。
でも、王ってやつの本名は王だったし・・・
よくわからなくなってきた。
「あの~。そんな黙ってないでくださいよ~。仲良くやりましょうよ。」
「あっ。すいません・・・」
また、謝ってしまった。
「それで、あなたのお名前は?」
「えーっと、松崎・・・」
まてよ。
ここはどうすべきなんだ?
王は本名を名乗っていたし、この賢者と言う男も本名を名乗っているのかもしれない。
だとすれば俺も本名を名乗るべきであろう。
だか、今の俺は勇者なのだ。 勇者と名乗るべきなのだろうか。
いろいろと考えた挙げ句、俺がだした答えはこうだ。
「松崎・・・勇者です。」
中途半端なことになってしまった。
まぁ、いいだろう。
本名と勇者を折衷した結果だ。
「それって・・・本名ですか?でしたら、私も本名を言ったほうがいいですね。」
「えっ?」
・・・本名じゃなかったのかよ。
「私の名前は赤木賢治です。でも、賢者って読んでくださいね。」
なんというか、惜しい。
「あ・・・俺は松崎勇です。」
「ははっ、そうだったんですか。惜しかったですね。」
言われてしまった。
好きでこの名前じゃないんだぞ。たまたま似ているだけで・・・
「まぁ、あなたのことは勇者と呼ばせてもらいますね。これからよろしくお願いします。」
こうして、これから共に旅をする仲間が一人増えた。
「職業はなんですか?」
「【サラリーマン】から【賢者】ですよ。」
やっぱり、うさんくさいよなぁ・・・
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「あいつは上手くやっているようだな。お前も頼むぞ【魔王】・・・」
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