旅立ち
「まあ、適当に座っててくれ。」
「はぁ・・・。」
座っててくれっていったって、何もないじゃないか。
そう思いながら俺は壁に寄りかかった。
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「おぬしが・・・勇者か?」
「へ?」
あまりに突然だったため何も言葉がでなかった。
むしろ、勝手に入ったことを怒られると思っていたのに拍子抜けした。
その男は俺が握り締めている手紙を一瞥すると、笑顔でこう言った。
「やはりあなたが勇者か。お待ちしてましたぞ。」
・・・今度は言葉も出なかった。
まさかとは思っていたが、この手紙に書いてあることは本当だったのか。
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「さてさて、まずは私のことを話さんとなぁ。」
男は唯一の椅子に腰掛けゆっくりと話し始めた。
「私のことは・・・王と呼んでくれ。」
・・・だめだ。この人は駄目だ。信用しちゃいけない人だ。
「・・・帰ります。」
俺はおもむろにドアへ向かって歩いていった。
「ま、待て待て。まずは私の話を聞いてくれないか。」
王と名乗るものはこちらに走ってきた。
「自分の本名も名乗らない人の話を聞く気はないです。」
「ほ、本名だぞ。免許証もちゃんとある。ほら。」
そう言うと王は免許証をだした。
「・・・本当だ。」
確かに免許証には王と書いてある。
「だろ?これで話を聞いてくれるかの?」
「はぁ・・・」
本当にいるんだなぁ。
そう思いながら、俺は元の場所へ戻った。
「改めて勇者よ。私が王じゃ。」
もうどうでもよくなってきた。
「これから勇者には魔王を討伐してきてほしい。」
「しかし、一人で行っても倒せないだろう。」
「そこで、ここから西に1キロ言ったところにバーがある。そこで仲間を見つけて来い。」
・・・この人は本気で言ってるのか?
仲間?こんなやつが他にもいるのか?
「あの・・・」
「なんだね?」
「魔王ってなんですか?」
素直な疑問をぶつけてみた。
いや、魔王って言う名前は知っているがそんなものが実際の世界にいるのか?
ゲームの世界の話じゃないのか?
「・・・魔王とは、いずれ人間を滅ぼす悪だ。」
「君が討伐せんと人類は滅亡してしまうだろう。」
聞くだけ無駄だったか。
やっぱり信用しないほうがいい。関わりたくない。
「もちろん、魔王を討伐してくれたら報酬はたんまりやろう。」
「報酬?」
思わず反応した。
「そうだ。おそらく、一生生活に困らないほどの報酬だ。」
・・・これが本当だったとしたら、最高じゃないか。
訳のわからないこいつの言うことを聞いておけば・・・一生くらしていけるぞ。
フリーター生活ともおさらばだ!
「わかりました。やりましょう。」
「おぉ。よくぞ言ってくれた。それでは、先ほども言ったとおりバーに行くのだ。」
「はい。王様」
そう言って、俺はドアノブに手をかける。
「あぁ、勇者よ。ちょいと待ってくれ。」
そう言うと王は、俺にいくらかのお金をくれた。
「これは、ほんの気持ちじゃ。」
「ありがとうございます。」
そう言って俺は扉を開けた。
「そういえば王様。なんで俺が勇者なんです?」
「それはな・・・おぬしが勇気の証を持っているからだよ。」
「西に1キロか・・・」
俺はぼんやりと空を眺めながら歩いていた。
それにしても・・・本当に信用していいのか?
報酬があるといっても、契約はしてないわけだし。
勇気の証って言っても心あたりがないし。
「どうなるのかなぁ・・・」
空には小鳥が飛んでいる。
・・・ぺちゃっ
なにかが肩に落ちたようだ。
嫌な予感がする・・・
鳥の糞だ。
「うわっ。最悪だ・・・」
幸先不安な旅となった。
{勇者は5のダメージを受けた!}
「ん・・・?」
声が聞こえた気がしたが・・・気のせいかな?
ともかく俺は持っていたハンカチで糞をふき取った。
どんっ・・・
今度は足に衝撃が走った。
おもわずよろめく。
・・・走ってきた子供にぶつかってしまったようだ。
「ご、ごめんなさい!!」
「あぁ、大丈夫だよ。前には気をつけてね。」
子供はそのまま走り去っていった。
{勇者は5のダメージを受けた!}
{子Aは逃げ出した!}
脳内に直接語りかけるような声。
・・・気のせいではなかったようだ。
「これはまるで・・・RPGだな。」
そうか、魔王討伐とはこういうものだったのか。
RPGのように、町を歩き、仲間を増やして、魔王討伐を目指すのか。
・・・面白いじゃないか。
自分がRPGの主人公になれるのだ。
自分の冒険か。
ただ、いつもの町が舞台なのがあまり臨場感が湧かないが。
「よし、やってやろうじゃないか。」
先ほどより俄然やる気が出てきた俺は、足取りを軽くして歩き出した。
「まずは、最初の仲間か~。」
こうして、現代における魔王討伐が始まった。
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「彼はどこまで持ちこたえられるかな・・・」
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