シンヤ
「何だお前?」
その言葉は、老人の隣にいた男から発せられた。彼は、彼の目の前にいる青年を睨み付ける。彼だけではない。老人の乗っている車椅子のハンドルを持っている男や、彼の周りに立っている男たちも同じように睨む。
「俺は……何だろうな」
男とは全く目を合わせない青年。怯えている訳ではないのは、もちろん男たちも分かっている。
青年は、じっと老人を見ていた。老人の事務所に緊張が走る。
「そんなに、私を見て楽しいか?」
老人が、口を開いた。そして、再び口を閉じる。
「楽しい訳じゃない」
青年はそう言って、目を閉じた。老人は何か言おうと口を開いた。
その時、老人の口にツララが刺さった。車椅子までも貫いている。
「よく分からないが、俺はあなたみたいな魔物を倒さないといけないらしい」
そう言ってうつむく青年の言葉からは、何の感情も読み取れなかった。
男は動けなかった。守るべき存在を、気がついたら殺されていた。何もできなかった。助けることができなかった。
「あっ」
青年は何かを思い出したようだ。顔をあげる。
「あなたたちも殺さないといけないんだった」
それが、男の聞いた最後の言葉だった。