プロローグ!!
カタ、と静かな音を立ててドアが閉まる。
防音扉の向こう側から聞こえていたレッスン室の音楽が絶たれ、廊下にシン……と静寂が広がった。
メイは深く息を吐き出し、壁に後頭部を預けた。手元にあったペットボトルの水を飲み干そうとするが、もう一滴も残っていない。
「……はぁ」
ため息と一緒に吐き出されたのは、胸の奥に澱のように溜まった疲労感だった。
15人組男性アイドルグループ「MARCHING」。
世間では「27歳から15歳までの多世代大型グループ」として注目を集め、人気メンのカイやヒカルを筆頭に勢いを増している。
だが、華やかなステージの裏で、グループの中間世代は、今まさに崩壊の危機に瀕していた。
「メイ、あいつらまた途中でスマホ弄り始めてたろ。お前がリーダーなんだから、もっと厳しく言えよ。年長組だって各自の仕事で忙しいんだからさ」
去り際にスタッフから投げかけられた言葉が、脳裏をよぎる。
(分かってるよ。分かってるけどさ……)
メイは強く目を閉じた。
同期のカイやチカは年長組のseniorに組み分けられている。本来なら自分も年長組の枠組みで、グループを上から引っ張っていくはずだった。
しかし、事務所から言い渡されたのは19歳組の監督役。
ナカは、人気3位のユーマにラップ枠を奪われて腐っている。
エイタは、圧倒的な歌唱力がありながらヒカルにメインボーカルを奪われ、拗ねて練習をサボる。
ニャンは、運だけでデビューしたコンプレックスから、本気を出して失敗するのを恐れて閉じこもっている。
アサヒは、抜群のビジュアルを持ちながら「無気力」の仮面を被り、すべてから逃げている。
彼ら4人は傷を舐め合い、「ぬるま湯」という名のシェルターに閉じこもってしまった。
『俺たち、別に本気出してないだけだし』
そんな言葉で自分を刺しながら、諦めていく19歳たち。
上からは「指導しろ」と圧をかけられ、下からは「うるさい説教役」として煙たがられる。同期のカイやチカと並んで走っていたはずの自分だけが、泥沼の中で一人、精神をすり減らしている。
──でも。
メイはギュッと拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む。
「怒るだけで済むなら、どんだけ楽かよ……」
メイは知っている。
ナカの綴るリリックには、誰よりも泥臭く眩しい情熱があることを。
エイタの歌声には、聴く者の心を揺さぶる圧倒的な熱があることを。
ニャンが夜遅くまで一人でステップを復習していた努力を。
アサヒがふとした瞬間に見せる、誰よりも鋭いステージへの執着を。
みんな、本気を出せばすごい。諦めてほしくない。自分たちの才能を、自分で殺さないでほしい。
彼らの葛藤も、挫折も、全部わかっているからこそ、メイは彼らを切り捨てることができなかった。
「……見てろよ」
メイは顔を上げ、静かに前を見据えた。
「絶対、お前らの本気、引き出してやるから」




