第10話 ツェヴァルトの心
ツェヴァルトの父親とのまぁまぁ最悪な初対面だったけど、わっちの顔を覚えてもらうことはできただろうと踏む。カルジェお父様(笑)もただのエロジジイだった。わっちと寝たら多分、わっちの言うことも聞くかもしれないがわっちはそんな安い女じゃない。
軽い立食の後、わっちとツェヴァルトを筆頭に踊ることになった。わっち、ヴィーリャ、レンジーが踊った後に、貴族たちが踊るらしい。正妻であるヴィーリャや側室のレンジーのような、派手な装飾品は何1つ身につけさせてもらえなかったわっちが、表情だけで魅せてやろうと思う。
「おい、クソ女。絶対に足踏むなよ」
「踏むわけないじゃない。私がツェヴァルト様を踏む時は夜だけよ」
「俺は女を従える男だ。女に蔑まれて喜ぶ性格じゃない」
睨まれたが、腰に添えられた手は案外優しい手つきだった。明らかに女慣れしている。まぁ、わっちが水商売出身て見抜くくらいだ。そういう遊びにはよく行ってるんだろう。
わっちたちの準備が終わり、オーケストラの前に指揮者が立ち手をあげる。オーケストラが音楽を演奏し始めてわっちはシュレイナの仮面を被った。
side ツェヴァルト=フォン=グリトリビア
負けたと思った。目の前の売女が、とてつもなく綺麗なものに見えてしまった。いや、綺麗だった。いつもはきったねぇ灰色のドレスを身に纏っていて、お似合いだなぁなんて思っていたのに、だ。
ドレスの広がったスカートの裾を摘む指先から、髪の毛の1本1本まできらきらと輝いていた。いつもより、目が大きく見える変わった化粧もこの女––––シュレイナを一際輝かせていた。
腰に添えた手の感触から、シュレイナの腰が身の回りにいる……いや抱いたことのある女の中で一際細いことに気づいた。なのに、胸はでかいときた。まだこいつを抱いたことはないが、きっと夢心地なんていう嘘くせぇ心地になるのかもしれないと思った。
目の前の女を自分のものにしたい衝動が抑えられない。いや、正確に言うともう自分のものなんだが、心から自分のものにしたいと思った。シュレイナが俺のことを、道具としか思ってないのはみててわかる。だからこそ、目の前で天使のように舞うシュレイナを心ごと手にいれたいのだ。
さっきまで国を裏切った女だとか、全裸で門まで歩いた非常識女だとか散々言われていた。しかし、どうだ。一曲踊っただけで、周囲の印象をガラリと変えてしまった。
視線の誘導の仕方、笑みの作り方、たおやかさを感じさせる腕の仕草。全てがこの場にいる者を魅了していた。
シュレイナを持ち上げてターンするときに、持ち上げたが俺に添えられた手に少しばかりの期待を感じさせられてしまう。おまけに、俺がしたいダンスに合わせて踊れるシュレイナは結構な手練だと感じた。
シュレイナとダンスを終えて、会場から溢れんばかりの拍手が飛んでくる。さっきまで聞こえていたシュレイナの悪口が、一気に称賛の声へと変わってしまった。俺だってさっきまで心中では、こいつとかそんな呼び方しかしていなかったのに、ダンス一回で名前呼びになってしまった。
だが俺は、シュレイナの中身が清純な女でないことを一目見て見抜いた。シュレイナがこれからどう出てくるかわからないが、きっと俺のこともツーヴェル帝国策略の一段階としか思っていないだろう。
俺は一歩も引く気がねぇし、屈する気もない。さて、シュレイナがどう出てくるか見ものだな。




