好意は素材になる
同じクラスの笹谷あかりさんはとても頭がいい、いつも必ずクラスで一位だし、学年でも必ず位以内に入っている。
僕は笹谷さんが好きなのである。
初めて会話のようなものをしたのはクラス替えの後、シャーペンを落としてしまった僕に「はい」と差し出してくれたのは笹谷さんだった。
笹谷さんはいつも背筋がぴんと伸びていて、凛とした佇まいをしている。
そんな姿を見ただけで、胸がばくばくしてしまう。
ある日の放課後、クラスで下校するのが最後になってしまった僕は慌てて帰り支度をしていた。
教室を出ると笹谷さんが窓辺で何気なく校庭を見つめていた。
その瞬間にどくん!とした
鼻の辺りがむずむずしたので、手の甲でぐいっと拭うと、手に血がついていた。
慌てて笹谷さんの後ろを通りすぎる。
さっきのはなんだったんだろう、心臓がどくんとなった瞬間心臓の辺りが熱くなった。
その時はまだ気づいていなかった。
次の日教室に着くと笹谷さんが背筋を伸ばして座っていた、綺麗だなあと思った瞬間、心臓がまたどくん!となって咳が出た、嫌な予感がして、慌てて手を洗いに出たが、血がついていた。
授業中笹谷さんをついつい見てしまう、見る気がなくても視線が吸い寄せられるのだ。
笹谷さんが手を挙げた、凛とした声で答えを言う、もちろん正解だ。
また心臓がどくんっ!となった、胸が熱い。
体の内側からマグマでも突っ込まれているかのような熱さだった。
思わず「トイレに行ってきます」
と言いながら袖口で口元を覆い教室を出た。
今度は朝より出血量が多かった。
笹谷さんにときめくと陥るのか?
いや、今までそんなことは起こらなかった。
お昼ご飯を食べに屋上に行くと、屋上の柵にもたれ掛かる笹谷さんを見かけた。
ぼうっと見つめながらお弁当を食べる。
「あれ?」
と笹谷さんが言う
「同じクラスだよね私のこと知ってる?」と微笑みかけられた
「笹谷さんだろ?知ってるよ」
「いつもここでお弁当食べてるの?」
「うん、そうだよ、笹谷さんはどうして今日はここに来たの?」
「ちょっとね
長かった友達にはぶられてるんだ」
悲しそうな顔を見て助けてあげたいと思った瞬間、僕の心臓はどくんっ!
と跳ねた。
「ごめん笹谷さんお弁当箱放置しといて、僕は行かなきゃ行けないところがあるんだ」
そういってその場を後にした。
どうしてもトイレに行きたくなって、行く。
便器が赤く染っていた。
あまりの赤さにくらりとなる、保健室に行くか迷ったが、病院にいけと言われるのが落ちだろうと、そのまま帰宅まで我慢した。
最近笹谷さんに少しでも近づくと、激しい動悸がして血尿が出るようになる。
笹谷さんと肩が軽く触れた、途端に激しく噎せ返る。
こんな時のためにハンカチをいつも持ち歩いているが、酷く噎せた。
その夜、笹谷さんが夢に出てきた。
ぼくと笹谷さんはとても仲が良さそうだ。二人で手を繋いで歩いてくる、途中のベンチに二人で腰掛けると。
どくんっ!
と心臓がなった、その瞬間僕の現実の胸も激しく痛くなり、何かの塊を吐き出そうとしたので、慌ててゴミ箱に全て吐いた。
全てが血だった。
心臓が内側で煮え立つようだ、今にも爆発しそうに脈打っている。
次の日ふらふらしながら学校につくと、笹谷さんを見掛けただけで心臓がばくばくしだした。
慌てて保健室へ行く。
保健の先生に自分の症状を話してみる。
何もないのに突然心臓が熱くなってばくばくしだすこと。
血は吐いたりすること。
保健の先生は「ちょっと待って!」
と言い、日誌を捲り出した。
以前全く同じ症状の生徒がいたこと、この症状が出た者は、転校して行ったり、不登校になったりで学校に来なくなること。
そして何故か成績優秀者の周りに、
その症状が現れるものが多いこと。
僕はテストの点数を笹谷さんときそう立場にいた。
笹谷さんが上位三名にいるときは、僕もそのどこかにいた。
教室に戻ると休み時間になっていた、笹谷さんのノートが開いて置かれている、僕はぼんやりとそのノートを覗いて見た。
全く意味がわからない謎の模様が、描かれている。
記号なのかもしれないが、本当に見たことの無いものだった。
そのままそっとその場を離れて席に座った。
笹谷さんはさぼったのか戻ってこなかった。
昼休み屋上に弁当を食べに行く、静かに屋上のドアを開けて覗いてみると、笹谷さんがいた。
どくんっ!
心臓だけではなく喉がやけるように熱い。
でもひたすら我慢した。
笹谷さんは屋上の真ん中で、ノートにあった変な模様を描き、炭のようなものを振りかけた後、何かを唱えていた。
小さな声で祈るように。
僕は笹谷さんに気取られる前に、その場を後にした。
震えが止まらない、なにか見てはいけないものを見た感覚だけが残っている。
その次からだった、笹谷さんのことを少しでも好意的に思っていた人達が、順番に学校に来なくなった。
クラスの半分ぐらいだろうか。
そして残った人達はなぜかどのグループでも一人はぶられ始めた。
端で見ている、僕からすれば全然意味がわからない理不尽なものだった。
笹谷さんの方をそっと見てみる。
背筋がぴんとして美しい姿勢だ、だが見てしまった。
笹谷さんは姿勢を正しながら、ノートにあの模様をひたすら書いているんだ。
彼女は描き続けていた。
僕は彼女のことを危険だと理解した。
好きだとか嫌いだとかそういう次元ではないんだ。
そして学校に来なくなった生徒たちは、みんな笹谷さんのことを理解しようとしていた。
話しかけたり、近づいたり。
ただそれだけでなにか怖い目にあったんだ。
僕はもう彼女を恐怖の対象と見ているから、何かが作用していないのかもしれない。
ただ、心臓の痛みだけは消えなかった。
ある日、また彼女のいない隙にノートを見てみた、来なくなったクラスメイトの名前が、模様の中に溶け込んでいる。
文字ではない、素材として溶けているのだと感じた。
好意を持った人間を何かの部品にしようとしている?
いや、そんなはずはないだろう。
でも分からない謎が多すぎる、もう少し観測しなければ。
僕はもう彼女を好きではない。
でも心臓だけが血を吐きそうな程熱を持つ。
他の生徒のように消されない。
だから最後まで生きて、全部を見ることに決めた。
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